2020.3.17

「食事」「運動」「睡眠」を改めて考えてみたら、子どもの将来が不安になってきた――

編集部
「食事」「運動」「睡眠」を改めて考えてみたら、子どもの将来が不安になってきた――

子どもたちを取り巻く環境は、ここ30年ほどで大きく変化しました。日々の暮らしは便利な道具に囲まれ、発達した交通機関や通信手段によって、コミュニケーションの仕方もガラリと変わりましたよね。そんななか、今の子どもは体力がない」「子どもの生活習慣の乱れが深刻化などとニュースで目にするたびに、子育て世代として不安を感じずにはいられないのではないでしょうか。

勉強や将来に関する悩みよりも、じつは根深い「子どもの生活全般」に関する問題子どもたちの未来のために、いま私たちができることについて考えていきます。

大人の都合に振り回される子どもたちの生活

現代の子どもたちの生活習慣の乱れや体力の低下は、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果であり、ひとことで「親のせい」「学校のせい」とは言えません。たとえば、24時間営業の店舗が増え、人々の生活を夜型に導くものがあふれていたり、公園での遊び方が限られてしまい、子どもたちが思い切り体を動かす場所が減っていったりと、個人の意思だけではどうにもならない状況に置かれているのです。

日本小児保健協会による幼児健康度調査報告書では、夜10時以降に寝る子どもが、昭和55年から平成12年の間で2~4倍に増加していることがわかりました。

子どもの就寝時刻10時以降の割合
(画像引用元:文部科学省|子どもの生活の現状

大人だけでなく、小さな子どもさえも夜型の生活が定着しているという現状。当然、「朝起きられない」「朝ごはんが食べられない」といった問題にもつながっていきます。

どこかで耳にしたことのある人も多いかもしれませんが、朝食を食べる習慣は、子どもたちの学力にも少なからず影響しています。文部科学省の全国学力・学習状況調査(平成19年度)によれば、毎日朝食をとる子どもほど、ペーパーテストの点数が高い傾向があるそう。

朝食と学力との相関関係
(画像引用元:同上)

子どもの成長に欠かせない「運動」も、生活環境を整えるためには必要不可欠です。日本スポーツ振興センターの調査によると、「1週間に5日以上運動する」児童生徒は26.0%が朝すっきりと目覚めているのに対し、「運動していない」児童生徒は、その半数以下の12.3%しかすっきりと目覚めていません。

運動と朝の目覚めの相関関係
(画像引用元:同上)

これらの結果からもわかるように、「夜寝る時間が遅くなる」→「朝起きられない」→「朝食を食べない」→「学力低下」「寝不足で頭がぼんやりして体が動かない」→「運動不足になる」→「体が疲れていないので夜寝つけない」→「寝る時間が遅くなる」……と、すべてがつながって負のスパイラルを引き起こしています。このままでは、学力・運動能力が低下するだけでなく、大人になってからさまざまな病気を引き起こしやすくなると言っても過言ではありません。

一度定着した生活環境や生活習慣を急激に変えるのは難しいですが、問題点を見つけ出して少しずつ軌道修正することは可能です。ここでは、現代の子どもたちの「食」「運動」「睡眠」の問題について詳しく見ていきましょう。

コンディショニングセルフケアサポート講座02

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便利さと引き換えに「体に悪いもの」を食べ続ける子どもたち

現代社会では、いつでも手軽に栄養価が高い食事を摂ることができます。外食やコンビニ食もバリエーション豊かで、手の込んだ料理をわざわざ作らなくても、簡単にお腹を満たすことが可能になりました。しかし、その便利さと引き換えに、糖分や塩分、トランス脂肪酸などを過剰に含んだ「体に悪いもの」も増えているのです。体に悪いものを摂り続けた結果、血液検査をすると血糖値やコレステロール値、尿酸値などで引っかかる小学生も少なくないと言われています。

つまり、いまの子どもたちは、一見元気に走り回っていても内臓に負担をかけていたり、見た目ではわからない「軽度肥満」に陥っていたりするのです。どんなに豪華な食事を摂っていても、成長に必要な栄養を満たしていなければ意味がありません。

また、いまは健康にまつわる情報が氾濫し、毎日のように「この食材が体にいい」といった情報が入ってきます。しかし、重要なのは新しいものをすぐに取り入れることよりも、「いま現在どんな食事をしているか」という食生活の現状をしっかりと把握することではないでしょうか。

人間の体を動かす「エネルギー」は、決して「食べたら勝手に作られるもの」でも、「寝たら勝手に回復するもの」でもありません。もちろん、食べたものが体内で燃焼されてエネルギーに変わるわけですが、エネルギー生産を低下させるものを食べていては逆効果になるのです。

エネルギーを効率的に回すためには、「糖質6:タンパク質2:脂質2」が理想的な栄養摂取バランスと言われています。どの栄養素も生体機能を保つためには重要ですが、タンパク質や脂質を摂りすぎるとさまざまな問題が生じるため、糖質を中心にエネルギーを作り出すように心がけましょう。

コンディショニングセルフケアサポート講座03

現代の子どもたちに足りないものは「時間・空間・仲間」

近年では、靴の紐を結べない、スキップができない、体を上手にコントロールできない、リズムをとって体を動かすことができないといった子どもが増えており、体を操作する能力の低下が指摘されています。文部科学省の資料によれば、子どもたちの体力と身体能力は、昭和50年ごろから年々下降傾向にあるそう。

これには複数の要因が考えられるでしょう。たとえば、和式トイレの洋式化によって、毎日必ず行なっていた「しゃがむ」という動作が減ったこと。また、子どもたちの遊び場が減少し、公園ではボール遊びや大声を出すことを禁じられて、静かに遊ばざるを得なくなったこと。ほかにも、交通機関の発達により足腰の筋肉を使う機会が減り、体を動かさない生活習慣が根づいてしまったことも挙げられます。

また、それ以外にも、昔に比べて子ども同士の人間関係の構築が難しくなっていることも一因だといえるでしょう。少子化によりひとりっ子が増えたことで、兄弟姉妹のような外遊びの仲間が身近にいないケースも多く、平日の放課後に遊びたくても、友だちは習い事などで忙しいため、子どもたちは “群れる” ことができずにいます。仲間同士で群れなければ、自分たちで遊びを考える機会がなくなり、結果としてテレビゲームなどの室内遊びばかりになってしまうのです。

つまり、子どもたちがスポーツや外遊びを楽しむのに不可欠な条件である「時間・空間・仲間」が圧倒的に不足していることが、現代の子どもたちの体力や運動能力の低下につながっていると言えるでしょう。

コンディショニングセルフケアサポート講座04

東京学芸大学教育学部准教授の高橋宏文先生は、普段から元気に走り回っている子どもは、チャレンジ精神旺盛なタイプが多いと述べています。その理由のひとつとして、運動により脳が活性化されて、前向きなものの考え方ができるようになっていることが考えられるそう。ちなみに、脳の運動を司る部分と感情を司る部分は同じなので、体を動かすことによって自制心が育まれ、感情の起伏をコントロールできるようにもなると言います。

運動は子どもの体にも心にもいい影響を及ぼすことはわかっていても、親ができることはスポーツの習い事をさせる以外に思いつかない……という保護者の方も多いはず。高橋先生は、特別なことはしなくても、日常生活のなかでどれだけ体を動かすことを増やすか、ということを考えるべきと述べています。たとえば、一緒にウォーキングや軽いジョギングをしたり、家の周りで縄跳びをしたりするのも、子どもにとって充分な運動量になるでしょう。

子どもが思い切り遊べる場所を探している親御さんには、「プレーパーク」がおすすめです。ヨーロッパ発祥の「プレーパーク」は、現在イギリスで約250ヶ所、ドイツでは約400ヶ所もあり、近年では日本でも徐々に広がりつつあります。「プレーパーク」は一般的な公園とは違い、遊具やプログラムはいっさいありません。木、土、水、火、そして古タイヤや廃材などのガラクタ、ノコギリやシャベルなどの道具が用意されており、それらを子どもたちが自由な発想力で「遊び」に変えていくのです。

自然の中で遊ばせる大切さはわかっていても、「できるだけ危険なものからは遠ざけたい」と考える大人は確実に増えています。しかし、現代の子どもたちの運動不足は、世の中全体が危険を排除する傾向が強まっていることと無関係ではないでしょう。

「プレーパーク」のエキスパートである一般社団法人TOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志さんは、「子どもがある遊びに挑戦しようとしているとき、大人はそれに伴うリスクや、挑戦したことで得られるものなどを総合的に判断して、リスクを減らす工夫を考慮したうえでチャレンジさせるべきといいます。チャレンジできないまま体だけが成長してしまうと、本当の危険を知らないまま大人になり、他人の痛みにも鈍感な人間になってしまいます。だからこそ、子どもたちには思い切り体を動かして、好奇心を刺激するような遊びを取り入れた運動習慣をつける必要があるのです。

コンディショニングセルフケアサポート講座05

「脳・体・心」の健やかな成長に欠かせない睡眠

健やかな成長のためには、質のいい睡眠は欠かせません。しかし、日本人は世界的に見て睡眠時間が短く、2019年に発表されたOECD (経済協力開発機構)の調査によると、世界主要国中最下位の442分(7時間22分)だったそうです。年齢別に必要とされている睡眠時間は、学童前期(3~5歳)で「10~13時間」、学童期(6~13歳)で「9~11時間」ですが、現代は不眠症に悩む子どもも増えてきており、どの世代も睡眠に関する問題を抱えています。十分な睡眠時間が確保できていないことで、具体的にはどのようなリスクが生じるのでしょうか?

まず、睡眠の役割は体力を回復させることだけではありません。質のいい睡眠を習慣づけることで、次のような効果が期待できます。

  • 学習強化、記憶強化
  • 運動スキルの向上
  • 感情を整える
  • 免疫機能を高め、病気への抵抗力をつける
  • 代謝が正常にはたらくようになる

 
もし充分な睡眠時間が確保できず、深い眠りにつけない状態が続いてしまったら、心身のバランスが崩れて勉強やスポーツの成績にも影響を及ぼすでしょう。明治薬科大学の駒田陽子先生は、睡眠時間が足りないことによって引き起こされる、子どもたちの「脳の発達」「体の発達」「心の発達」について次のように述べています。

まず、記憶や学習に関わる脳の「海馬」は、睡眠時間を充分にとっている子どもほど、その体積が大きいことがわかっているそう。つまり、昼間に勉強したり練習したりしたことをしっかりと脳に定着させるためには、充分な睡眠が必要不可欠だということ。

次に、子どもが大人へと成長していく過程で大切な骨や筋肉を発達させる「成長ホルモン」は、睡眠中に分泌されます。また成長ホルモンは、免疫力を高める力があるため、病気になりにくい体づくりにも一役買っているそう。さらに、脂肪を分解する作用もあるので、成長ホルモンが不足すると肥満になりやすくなる傾向が。このように、睡眠不足が引き起こす体へのデメリットは、私たちが考える以上に深刻なもののようです。

コンディショニングセルフケアサポート講座06

そして、睡眠と「心の発達」について、駒田先生は睡眠が短い子どもは、『気持ちが落ち込む』『死にたい』といった悩みを訴えるリスクが上がってくるというデータがあると指摘しています。また、寝不足はイライラを引き起こし、集中力や自己肯定感の低下にも影響を及ぼすとのこと。これらのことからも、睡眠時間が短いことは、百害あって一利なし、なのです。

そうは言っても、「子どもが夜なかなか寝つかない」「朝に無理やり起こすと機嫌が悪くなって大変」と、夜更かしや朝寝坊が習慣化してお悩みの親御さんも多いのではないでしょうか。

文教大学教育学部教授の成田奈緒子先生は、朝、子どもが絶対にご機嫌になるような大好きなものを与えてあげることをおすすめしています。もしも夜、夢中になって観ているテレビ番組やゲームをする習慣があるのなら、それを朝させるようにすればいいのです。もしくは、子どもの好物を朝ごはんに取り入れるのもいいでしょう。

子どもの健やかな成長のために、「食事」「運動」「睡眠」がいかに重要であるか、おわかりいただけたのではないでしょうか。

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どんな栄養を摂るかだけでなく、どうやってその栄養を効果的にエネルギーに変えられるか――子どものパフォーマンスを最大限に向上させていくためのスキルを学ぶのも、ひとつの手かもしれませんよ。

監修:井手啓貴(医師)

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スポーツ栄養学と生化学を融合し、医師と薬剤師、そして理学療法士の経験と知見から、現代の子どもたちの身体能力の低下について分析し、個々に異なるその原因をわかりやすく解説しています。そして、そうしたことを改善していくためには、これからどのような食や環境のあり方が望まれるかなど、具体的なカラダのメカニズムに基づく考え方や方法について学ぶ講座になっています。ぜひ、皆様のご参加をお待ちしております。
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(参考)
文部科学省|子どもの生活の現状
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