あたまを使う 2026.10.21

朝ドラ『ブラッサム』のモデル・宇野千代に学ぶ。子育て中も「私の好き」を細く長く続けるヒント

朝ドラ『ブラッサム』のモデル・宇野千代に学ぶ。子育て中も「私の好き」を細く長く続けるヒント

2026年9月28日に始まった朝ドラ『ブラッサム』。主人公・葉野珠(はの・たま)のモデルは、明治から平成までを生きた作家の宇野千代です。朝の支度をしながら、テレビの音だけを耳で追っているママもいるかもしれません。

宇野千代は、小説を書くだけでなく、雑誌をつくり、着物をデザインし、98歳で亡くなるまで「好きなこと」を手放さなかった人でした。

その人生にふれると、ふと自分の毎日に目が向きます。子どもが寝たあとに開いた本は、数ページで閉じたまま。独身のころに夢中だった刺しゅうの道具は、押し入れの奥。「好きなことは?」と聞かれても、すぐには答えが出てこない。

この記事では、宇野千代の歩みと心理学の研究をヒントに、子育て中でも「私の好き」を細く長く続けるための小さな工夫を紹介します。

「好きなこと」が、いつのまにか後回しになっている

子どもが幼稚園や小学校に通いはじめると、手は少しずつ離れていきます。それでも、送り迎えに連絡帳の確認、宿題の丸つけ、明日の持ち物の準備と、空いた時間はすぐに用事で埋まっていきます。

やっとひと息つけたと思っても、何をしたかったのか思い出せない。スマホを眺めているうちに、寝る時間になっている。そんな夜を重ねるうちに、「いまは子ども中心の時期だから」と、好きなことを棚にしまっておくのが当たり前になっていきます。

その一方で、心のどこかに「前はあんなに好きだったのにな」という小さな引っかかりが残っていたりもします。

好きなことを取り戻すといっても、子育て中にまとまった時間を確保するのは簡単ではありません。そこでヒントにしたいのが、宇野千代の「続け方」です。

ノートに絵を描くシルエット

朝ドラ『ブラッサム』のモデル・宇野千代は「好き」をどう続けたのか

宇野千代は1897(明治30)年、山口県岩国に生まれました。1921(大正10)年、新聞の懸賞小説で一等に選ばれたことをきっかけに、作家の道を歩みはじめます。上京後は多くの文化人と交流を重ねました。

小説のほかにも、1936(昭和11)年にはファッション雑誌『スタイル』を創刊。着物のデザインも手がけ、銀座に店を構えています。「書くこと」と「装うこと」、ふたつの好きを並べて歩んだ人でした。

その歩みをたどると、好きなことを一気に形にしたというより、長い時間をかけて少しずつ積み重ねてきた姿が見えてきます。

代表作『おはん』は、書き上げるまでに10年かかった作品です。60歳のときに発表し、野間文芸賞を受賞しました。84歳で新聞連載をはじめた自伝『生きて行く私』は、86歳で単行本となり、100万部を超えるベストセラーになっています。

🌸 宇野千代の「好き」年表

  • 1897年山口県岩国に生まれる
  • 1921年懸賞小説で一等に。作家の道へ
  • 1936年ファッション雑誌『スタイル』を創刊
  • 1957年10年かけた『おはん』で野間文芸賞(60歳)
  • 1983年自伝『生きて行く私』を刊行(86歳)
  • 1996年98歳まで「好き」を手放さずに

88歳から91歳にかけて語り下ろした『宇野千代 ちょっと自伝』(マガジンハウス、2026年9月復刊)には、「きもののおかげで文学を続けられた」という章もあります。ひとつの好きが、もうひとつの好きを支えていたことがうかがえます。

山口県岩国市の生家は記念館として公開されていて、居間の文机には、愛用の鉛筆や、94歳のときに書きかけていた手紙が置かれているそうです。2026年8月には、国文学研究資料館が世田谷文学館所蔵の宇野千代の自筆原稿をデジタル化し、『おはん』などの原稿をデータベースで無料公開しました。10年かけて書かれた原稿の筆跡を、いまは誰でも見ることができます。

ドラマは宇野千代をモデルにしながら、人物名などを改めたフィクションとして描かれています。タイトルの「ブラッサム」は「開花」を意味し、主人公の珠が自分を肯定し、奮い立たせる言葉として込められているとのこと。桜は、宇野千代のトレードマークでもありました。

本が開いてあり、ひらめきのように光が広がる様子

子育て中でもできる「私の好き」を細く長く続けるヒント

宇野千代のように何十年も続けるのは、遠い話に感じるかもしれません。けれど、その歩みをひとつずつ見ていくと、いまの暮らしのなかに取り入れられることが見えてきます。

1. 「好き」を10分の大きさに切り分ける

まとまった時間ができたら始めよう、と考えていると、その「いつか」はなかなかやってきません。そこで、好きなことを10分で区切れる大きさに切り分けてみる方法があります。

編み物なら1段だけ。読書なら1章ではなく数ページ。絵が好きなら、ノートの隅に小さなスケッチをひとつ。子どもの歯みがきを待つ時間や、お迎えまでの10分でも手が届く大きさです。

10年かけて書き上げられた『おはん』のように、小さな積み重ねも、続けていけば形になっていきます。こどもまなびラボのフランスのママに学ぶ! 10分から始める小さな息抜き・趣味時間16選でも、短い時間を味わう息抜きのアイデアを紹介しています。*1

2. やりかけのものを、目に入る場所に置いておく

好きなことから遠ざかる理由のひとつは、準備の手間です。道具を出して、広げて、片付けて……と考えるだけで、腰が重くなる日もあります。

宇野千代の生家の文机に書きかけの手紙が残っているように、やりかけのものを目に入る場所に置いておくと、すき間時間に手が伸びやすくなります。読みかけの本はリビングのかごに、刺しゅう枠は針を刺したまま小さな箱に。片付けきらずに「途中」のまま置いておける場所をひとつつくっておくと、再開するときの手間がぐっと減ります。

3. 新しいことを、ひとつだけ始めてみる

昔の好きが思い出せないときは、新しいことに目を向けるのも一案です。宇野千代も、小説から雑誌づくり、着物のデザインへと、興味の向く先に分野を広げていきました。

たとえば、新しいレシピに1品だけ挑戦する、語学アプリで1日1レッスン進める、子どもの図鑑で気になった植物を育ててみる。「少しだけ上達した」と感じられる小さな挑戦は、あとで紹介する研究でも、心の回復につながる体験のひとつとして挙げられています。

4. 大人どうしで「好き」を分け合う

好きなことは、ひとりで楽しむものとは限りません。ママ友と同じ本を読んで感想を送り合う、昔の友人とオンラインで手芸の進み具合を見せ合う、地域の講座に月1回だけ参加する。

大人どうしで好きなことを話す時間は、「ママ」としてではなく、「私」として過ごせる時間にもなります。

🌸 明日からの「10分の好き」メモ

  • ✿ 10分の大きさに切り分ける(編み物なら1段、本なら数ページ)
  • ✿ やりかけを目に入る場所に置く(読みかけの本はリビングのかごへ)
  • ✿ 新しいことをひとつだけ(新しいレシピに1品だけ挑戦)
  • ✿ 大人どうしで分け合う(同じ本を読んで感想を送り合う)

電球にIDEAという文字

研究が示す「好きな時間」と心の元気の関係

「好きなことをすると気持ちが明るくなる」という感覚は、研究でも裏づけられつつあります。

1. 余暇への満足感が、幸福感につながる

余暇の過ごし方と幸福感の関係を調べた多くの研究をまとめて分析したところ、余暇に関わることと主観的な幸福感のあいだには中程度の関連があり、その関連は「余暇への満足感」を介していることが示されました。長期的な追跡研究や実験研究からも、余暇が幸福感を高める方向に働く可能性が報告されています。(米パデュー大学〈研究当時〉の心理学者、ローレン・カイケンダル氏ら)*2

10分の小さな時間でも、「楽しかった」と思えることが、心の元気につながっていくのかもしれません。

2. 新しいことへの挑戦も「回復」のひとつ

仕事のあとの回復について調べた研究では、余暇の回復体験を4つに分けています。仕事から気持ちを離す「心理的距離」、心身をゆるめる「リラックス」、新しいことに挑戦したり学んだりする「熟達(マスタリー)」、時間の使い方を自分で決める「コントロール」です。これらの体験は、心理的な健康と中程度の関連があったと述べています。(独コンスタンツ大学〈研究当時〉の心理学者、ザビーネ・ゾネンターク氏ら)*3

研究の対象は職場で働く人ですが、家事や育児の合間に「自分で選んだ新しいこと」に取り組む時間は、熟達やコントロールの体験に近いものといえそうです。

3. ママにとって、大人どうしの時間は没頭しやすい

アメリカの共働き家庭の父母に、日々の気分をその場で記録してもらった研究では、母親は父親に比べて純粋な自由時間がやや少なく、余暇を家事と組み合わせたり、子どもと一緒に過ごしたりすることが多い傾向が見られました。純粋な自由時間は、前向きな気分や没頭感の高さ、ストレスの低さと関連していたと報告されています。さらに、大人どうしで過ごす余暇と没頭感の結びつきは、母親でより強く表れていたと指摘しています。(イスラエル・バルイラン大学の社会学者、シラ・オファー氏)*4

オファー氏は、大人どうしで過ごす時間が「よい母親でいなければ」というプレッシャーから、母親を解き放っている可能性にもふれています。子どもと一緒に過ごす余暇も親の幸福感と関連していたことから、どちらの時間にもそれぞれのよさがありそうです。

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朝ドラは、1回15分の物語を半年かけて積み重ねていきます。珠の物語も、まだはじまったばかりです。

宇野千代が10年かけて『おはん』を書き上げたように、好きなことも、毎日の10分を重ねていけば、少しずつ形になっていきます。

タイトルの「ブラッサム」には、「咲き誇れ」という思いが込められているそうです。明日の朝、ドラマを見終えたあとの10分を、自分の好きなことに使ってみる。そんな小さな一歩から、ママ自身の「開花」もはじまっていきます。

FAQ(よくある質問)

Q. 朝ドラ『ブラッサム』のモデル・宇野千代はどんな人ですか?

A. 1897年に山口県岩国で生まれた作家です。代表作『おはん』で野間文芸賞を受賞したほか、ファッション雑誌『スタイル』の創刊や着物のデザインなど、幅広く活躍しました。98歳で亡くなるまで、書くことを続けた人でもあります。

Q. 子育て中で、好きなことをする時間がほとんど取れません。

A. まとまった時間を前提にせず、10分で区切れる大きさに切り分ける方法があります。編み物なら1段、読書なら数ページなど、すき間時間に手が届く単位にすると、少しずつ続けやすくなります。

Q. 自分の好きなことが思い浮かびません。

A. 新しいことをひとつだけ始めてみるのも一案です。働く人を対象にした研究では、新しいことへの挑戦や学びが、余暇の回復体験のひとつとして挙げられています。新しいレシピや語学アプリなど、小さな挑戦から試してみてはいかがでしょうか。

Q. 子どもと離れて趣味の時間をとることに、ためらいがあります。

A. 子どもが寝たあとの10分や、子どもと同じ部屋でできることから始める方法もあります。研究では、子どもと一緒に過ごす余暇も親の幸福感と関連していた一方、母親は大人どうしで過ごす余暇で没頭感を得やすい傾向が報告されています。どちらの時間も、暮らしに合う形で取り入れられます。

(参考)
*1 こどもまなびラボ|フランスのママに学ぶ! 10分から始める小さな息抜き・趣味時間16選
*2 Kuykendall, L., Tay, L., & Ng, V. (2015)|Leisure engagement and subjective well-being: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 141(2), 364–403.
*3 Sonnentag, S., & Fritz, C. (2007)|The Recovery Experience Questionnaire: Development and validation of a measure for assessing recuperation and unwinding from work. Journal of Occupational Health Psychology, 12(3), 204–221.
*4 Offer, S. (2016)|Free time and emotional well-being: Do dual-earner mothers and fathers differ? Gender & Society, 30(2), 213–239.