教育を考える 2026.10.13

わが子が「ドパガキ」かもと思ったら。動画以外のできた!を増やす毎日の小さな習慣

わが子が「ドパガキ」かもと思ったら。動画以外のできた!を増やす毎日の小さな習慣

「ドパガキ」という言葉を、SNSで見かけたことはありますか。ショート動画やゲームなど刺激の強いコンテンツを次々に求め、すぐに飽きてしまう人を呼ぶネットスラングです。

夕方、スマホの画面を指でスッスッと流し続けるわが子の横顔を見て、この言葉が頭をよぎった。そんなママもいるかもしれません。とはいえ、医学用語でも診断名でもない言葉です。わが子に当てはめて落ち込む必要はありません。

この記事では、子どもの「やってみたい」に関わるドーパミンの役割にふれながら、動画以外の場面でできた!を増やす毎日の小さな習慣をお伝えします。

「もう1本だけ」が止まらない夕方に

夕飯の支度をするあいだだけ、と渡したタブレット。気づけば30分がたち、「終わりだよ」と声をかけると「あと1本!」。取り上げたとたんに泣き出して、台所に戻るころにはこちらもぐったりしている。

そんな夕方をくり返していると、「この子、動画がないとダメになっているんじゃないか」と不安がふくらんでいきます。そこへ「ドパガキ」という言葉が目に入れば、ドキッとするのも無理はありません。

ドパガキはSNSを中心に広まりました。大人が「自分もドパガキだ」と自虐的に使う場面も多く、もともと子どもの発達を説明するための言葉ではありません。

そもそも、動画に夢中になるのは、子どもの意志が弱いからではありません。ショート動画は、ひとつ見終わると次の映像がすぐに始まるしくみなので、「つぎは何だろう」という期待が途切れにくくなっています。大人でも手が止まらなくなるのですから、子どもが夢中になるのも無理はないことです。

動画を悪者にしなくても大丈夫です。動画以外にも「わくわく」や「できた!」が生まれる場面を、暮らしのなかに少しずつ増やしていけばいいのです。やる気に関わるドーパミンは、そうした場面でも子どもの背中を押してくれます。

リビングでテレビを並んで見ている2人の子ども。兄が弟の肩に腕を回している

動画以外のできた!を増やす、毎日の小さな習慣

ここからは、今日の夕方からでも試せる関わり方をご紹介します。どれも特別な道具はいりません。

1. お手伝いの「最後の仕上げ」を任せる

洗濯物をたたむなら最後のタオル1枚、料理なら仕上げのトッピング、玄関なら靴をそろえる最後のひと組。最初から全部を任せるのではなく、終わりの瞬間だけを子どもに渡します。

仕上げを担当すると、「これで完成」という区切りが本人のものになります。短い時間で完成まで届くので、飽きっぽい年ごろでも「できた!」を味わいやすいのがよいところです。

声をかけるときは、「えらいね」のひとことに、「最後の1枚、角がぴったりそろったね」と見たままの言葉を添えてみてください。子どもは自分のしたことを、ママの言葉でもう1度確かめられます。

2. 「ちょっとだけむずかしい」遊びを手の届く場所に

パズル、けん玉、折り紙、ブロック。どれも、すぐにはうまくいかないけれど、何度か試すとできるようになる遊びです。

ポイントは、子どもの「いまの力」から少しだけ背伸びしたものを選ぶこと。簡単すぎるとすぐに飽き、むずかしすぎると投げ出してしまいます。「あと少しでできそう」と本人が感じるくらいを目安にしてみてください。

テレビの近くなど目に入りやすい場所に置いておくと、手持ちぶさたなときに自然と手が伸びます。

3. ママの「むずかしいなあ、もう1回」を見せる

ジャムのびんのふたが開かない。ボタン付けがうまくいかない。そんなとき、子どもの前で「うーん、むずかしいなあ。もう1回やってみよう」と声に出しながら、何度か試してみてください。

子どもの前ではつい、手際よくこなす姿を見せたくなるものです。でも、ママが試行錯誤して、最後に「開いた!」と喜ぶ姿は、子どもにとって「がんばった先に、うれしいことがある」という生きたお手本になります。うまくいかなかった日は「今日はここまで。また明日やってみる」で充分です。

4. 動画のあとに5分の「つなぎ」を入れる

動画を見終わったあと、すぐに「はい、お風呂!」「宿題やって!」と切り替えるのは、子どもにとってなかなかの難題です。

そこで、動画と次の予定のあいだに5分ほどの「つなぎ」を入れてみます。ベランダで外の空気を吸う、手遊びをひとつする、ゆっくりした絵本を1冊読む。テンポのゆるやかな時間をはさむことが、気持ちを次に向けるきっかけになります。

見る前に「この1本が終わったら、一緒にベランダで空を見ようね」と予告しておくと、終わりが「取り上げられる時間」ではなく「次の楽しみ」に変わります。

親の手の指をこどもが持つ様子

研究からわかる、ドーパミンとできた!の関係

ここからは、紹介した習慣の背景にある研究をご紹介します。

1. ドーパミンは「気持ちいい」ではなく「欲しい」に関わる

脳の「快楽」のしくみを整理したレビュー論文では、報酬を「欲しい」と求める気持ちと、「気持ちいい」と感じる気持ちは、脳の別のしくみで生まれると説明されています。「欲しい」は脳の広い範囲にまたがるネットワークで、「気持ちいい」は比較的小さな領域で生まれるといいます。また、ドーパミンは、かつて考えられていたような「快感そのものをつくる物質」ではない可能性も示されています。(ミシガン大学 心理学・神経科学教授、ケント・ベリッジ氏ほか)*1

この知見をあてはめると、ショート動画は「つぎ、つぎ」と求める気持ちを引き出し続ける一方で、見終えたあとに満足感が残るとはかぎらない、と考えることもできます。お手伝いの仕上げやパズルの最後の1ピースのように、「欲しい」の先に完成のうれしさが待っている体験は、子どもに「やってよかった」という手ごたえを残しやすいと考えられます。

2. テンポの速い映像のあとは、気持ちを切り替えにくい

4歳児60人を3つのグループに分け、「テンポの速いアニメ」「教育番組」「お絵かき」のいずれかを9分間体験してもらった実験があります。その直後に自制心や記憶の力を調べる課題に取り組んでもらうと、テンポの速いアニメを見たグループだけが、ほかのふたつのグループより低い成績を示しました。教育番組とお絵かきのグループのあいだには、差が見られなかったと報告されています。(バージニア大学 心理学教授、アンジェリン・リラード氏ほか)*2

この研究が調べたのは視聴「直後」の影響で、長い目で見た影響まではわかっていません。それでも、テンポの速い映像を見た直後は、気持ちを切り替える力が一時的に働きにくくなることがある、と考えられます。5分の「つなぎ」は、次の行動に移る前にひと呼吸おくための工夫です。

3. 大人の「もう1回」は、子どもにうつる

アメリカの研究チームは、生後15か月の赤ちゃん合計262人を対象に、大人がおもちゃを使った課題に取り組む様子を見せる実験を行いました。方法を変えながら何度も挑戦して成功する大人を見た赤ちゃんは、あっさり成功する大人を見た赤ちゃんや、大人の見本を見なかった赤ちゃんにくらべて、そのあと渡された新しいむずかしいおもちゃに、より多くの回数チャレンジしたとのことです。(マサチューセッツ工科大学 認知科学教授、ローラ・シュルツ氏らの研究チーム)*3

1歳すぎの赤ちゃんでも、大人の姿からがんばることの価値を受けとっている可能性がうかがえます。研究の対象は赤ちゃんですが、幼稚園〜小学校低学年の子どもにとっても、ママの「むずかしいなあ、もう1回」は身近なお手本のひとつになると考えられます。

***

「うちの子、ドパガキかも」と不安になった日は、その言葉を、暮らしのなかのできた!を増やす合図として受け取ってみてください。子どもを変えようとしなくても、動画の外に楽しみをひとつ用意すれば、夢中になれる先は少しずつ広がっていくはずです。

夢中になれるのは、もともと子どもが持っている力です。その力が、動画のなかだけでなく、洗濯物の最後の1枚やパズルの最後のピースにも向かうように。ドパガキという言葉とは、そんなふうに向き合っていけば大丈夫です。今日の夕方、ひとつだけ「仕上げ」を任せてみてください。振り返って「できた!」と言う顔が、次のやってみたいにつながっていきます。

FAQ(よくある質問)

Q. 「ドパガキ」は病気や発達障害のことですか?

A. いいえ。SNSを中心に広まったネットスラングで、医学用語でも診断名でもありません。ただ、動画をやめられないことで睡眠や食事、園や学校での生活に支障が続くなど、気になる様子があるときは、かかりつけの小児科や自治体の子育て相談窓口に相談してみてください。

Q. 動画を見せる時間は、短くしないといけませんか?

A. 時間の目安は家庭ごとに違ってかまいません。この記事で紹介したのは、動画以外にできた!が生まれる場面を増やす工夫です。見る前に「この1本が終わったら〇〇しようね」と、終わりと次の楽しみを予告しておくだけでも、切り替えのハードルは下がりやすくなります。

Q. お手伝いを頼んでも、すぐ飽きてしまいます。

A. 最初から最後までを任せるのではなく、「最後の仕上げ」だけを頼んでみてください。短い時間で完成まで届くので、飽きる前に「できた!」を味わえます。慣れてきたら、少しずつ任せる範囲を広げていけば大丈夫です。

Q. ママがうまくいかない姿を見せても、大丈夫ですか?

A. 大丈夫です。生後15か月の赤ちゃんでも、何度も挑戦して成功する大人の姿を見ると、自分も新しい課題により多くチャレンジしたという研究があります。うまくいかない日に「今日はここまで。また明日やってみる」と区切る姿も、投げ出さずに向き合う姿として、子どもにとってのお手本のひとつになるでしょう。

(参考)
*1 Berridge, K. C., & Kringelbach, M. L. (2015)|Pleasure systems in the brain. Neuron, 86(3), 646-664.
*2 Lillard, A. S., & Peterson, J. (2011)|The immediate impact of different types of television on young children’s executive function. Pediatrics, 128(4), 644-649.
*3 Leonard, J. A., Lee, Y., & Schulz, L. E. (2017)|Infants make more attempts to achieve a goal when they see adults persist. Science, 357(6357), 1290-1294.