「パパはいいって言ったもん」「甘やかしすぎじゃない?」「私だけ悪者になってる気がする」。
ゲームは1日30分と決めたのに、休みの日にパパが「今日は特別」と1時間許す。子どもは夫婦の基準の違いをよく覚えていて、自分に都合のいい答えを持ち出してきます。「ママはダメって言ったけど、パパはいいって言った」。こう言われた瞬間、叱っていた側の怒りは、子どもより先に相手へ向かいがちではないでしょうか。
じつは、夫婦で基準が違うこと自体が、子どもを困らせるわけではありません。子どもが困るのは、「どちらの言うことが本当なのか、わからない」状態が続くこと。そして、違いを揃えようとして親同士がぶつかる場面を見続けることです。揃えるのは5つだけで、あとは違っていて構わない。その線引きを、専門家の知見をもとに整理してみましょう。
目次
基準のズレを、子どもは「混乱する」より先に「使う」ようになります
親が心配するのは、子どもが混乱することでしょう。けれど実際に目につきやすいのは、混乱より先に始まる「使い分け」です。人間は、自分で起こした行動でいい思いをすると、その行動を繰り返しやすくなるといいます。(心理学にもとづく育児メソッドの提唱者、佐藤めぐみ氏)*1 ママに断られたことを、パパに頼んだら通った。この「いい思い」を1度味わえば、子どもは次も、通りそうな親に聞きに行くはず。ずるさというより、仕組みどおりの学習なのです。
「片づけないならおもちゃ捨てちゃうからね!」と言いながら、結局は捨てない。こうした矛盾した言動が続いたまま大きくなると、子どもは「お母さんは嘘を言っている」「お父さんは口ではこういうけど、結局いつも実行しない」と親を信用しなくなると指摘しています。(『1人でできる子になる「テキトー母さん」流 子育てのコツ』著者、立石美津子氏)*2 ここで挙げられているのは1人の親のなかの矛盾ですが、「ママはダメ、パパはいい」は2人の親の間で起きる矛盾。子どもから見れば、どちらも「大人の言うことは、押せば変わる」という同じ景色に映るでしょう。
もうひとつ、見えにくい影響もあります。自分の選択を否定されたり、変更を余儀なくされたりする状態が続くと、子どもは自己主張をしなくなるとのこと。(臨床心理士、高山恵子氏) 「パパがいいと言ったから選んだのに、ママに取り消された」も、子どもにとっては自分の選択を否定された場面です。使い分けをする子と、何も言わなくなる子。基準のズレは、どちらの方向にも子どもを動かしうるわけです。

ズレそのものより、ズレをめぐる親同士の衝突が子どもに残ります
「だったら、全部揃えなければ」と考えたくなりますよね。ところが、揃えようとする過程で生まれる衝突も、子どもには負担になります。子どもの目の前で夫婦がぶつかり合うと、子どもにストレスを与えてしまうと述べています。(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長〈当時〉、岡田俊氏)*3
両親のケンカをいつも見ている子どもは、自分がケンカをしていなくても、心は誰かとケンカをしているときと同じ影響を受けるのだそうです。(脳科学者、西剛志氏)*4 目の前の人の行動を見て、自分も同じ行動をとっているかのように反応する「ミラーニューロン」の働きによるもの。「甘やかすからこうなるのよ」「厳しすぎるんだよ」という言い合いも、そばで聞いている子どもの心には、自分が言い合っているときに近い負担として届いているかもしれません。
一方で、違いを見せること自体には利点もあります。夫婦の会話を聞くことで、子どもは「多様な価値観を受け入れる力」を育むことができるそう。お父さんとお母さんは別々の人間で、違う価値観をもちながら一緒に暮らしている。それが理解できれば、成長してからも多様な人間関係に対応できるようになる、と説明しています。(『賢い子を育てる夫婦の会話』〈あさ出版〉著者・NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、天野ひかり氏) 夫婦ゲンカも、仲直りするところまで見せれば問題はない。こどもまなびラボの「夫婦の会話から子どもは〇〇〇を学ぶ。賢い子に育てるための“会話術”」の記事は、そう伝えています。
ここまで読んで、少し力が抜けた親御さんもいるのではないでしょうか。全部を揃えなくていい。ゲームの時間もおやつの回数も、違っていて構わない。揃えるのは、子どもの安全と信頼に直接かかわる5つだけです。
揃えなくていいこと5つと、揃えること5つを分けます
左は、パパとママで違っていていいこと。右は、どちらの親の前でも同じでなければ子どもが困ること。5つずつ、表にまとめました。
左の5つは、違っているほうが子どもの世界が広がります
叱り方をひとつに固定せず、子どもの性格に合わせて変えることをすすめています。(人間関係研究家、稲場真由美氏)*5 筋道立てた説明で納得する子もいれば、短く端的に言われたときに響く子もいる。そう考えると、パパとママで口調が違うことは、子どもにとって「伝わり方の選択肢がふたつある」状態ともいえそうです。しつけについては、最大のしつけは「親の背中を見せること」だと語っています。(教育ジャーナリスト、おおたとしまさ氏) その背中が2通りあると考えれば、違いは欠点ではなくなりますね。
右の5つは、ズレると子どもの安全か信頼が壊れます
1. 安全。道路に飛び出す、高いところから飛び降りる、火や刃物に手を伸ばす。片方の親は止めて、もう片方は笑って見ている。これが一番危うい状態です。叱らないしつけを取り入れる場合でさえ、危険な行為や他人を傷つける行動は、その場で明確にストップをかけることが大切だとされています。
2. 人を傷つけない。叩く、ものを投げる、「バカ」「死ね」と言う。「子どもにいい顔をしたい、あるいは言う通りにしてその場をやり過ごしたいからと聞き入れていると、あとで大変なことになる」と忠告しています。(白百合女子大学名誉教授・臨床発達心理士、秦野悦子氏) 善悪の判断を育てるのは親の役目。どちらの親が見ていても同じ反応が返ってくることが、その前提になります。
3. 約束。「30分だけテレビを見ていいよ」と一方が決めたなら、もう一方は30分で切る。延長を認めたなら、あとから取り消さない。矛盾したメッセージで子どもを縛らないためにすすめられているのが、はじめに条件を決めて説明しておくことです。「この番組が終わったらおしまいね」と先に区切っておけば、注意されても子どもは混乱しにくい。区切りが先に決まっていれば、どちらの親が声をかけても、同じところで終われます。
4. 叱ったあとの扱い。叱ったあとには必ず「さっきのことはもう大丈夫」「次はこうしようね」というフォローのひとことを、と呼びかけています。(EQWELチャイルドアカデミー主席研究員、浦谷裕樹氏) 夫婦で揃えたいのは、叱った側がこのフォローをすること。そして、もう一方が「パパにも怒られたでしょ」と蒸し返さないこと。こどもまなびラボの「『ダメでしょ!』と叱るのは意味がない。親子で問題解決をするための対話テクニック」の記事で紹介されている「修復的実践」でも、家庭での対話は「今後はどうしたらいいか」を話し合って締めくくるとされています。*6 叱った人が終わらせた話を、もう一人が開け直さない。それだけで、叱られたあとの子どもの居場所が、家のなかに残ります。
5. 相手を子どもの前で否定しない。親から直接言い聞かされた言葉以上に、親同士や親と誰かが話している言葉のほうが、子どもの心に響くといいます。(NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、天野ひかり氏) 「パパが甘いからこうなるのよ」というひとことは、子どもに向けた言葉でなくても、子どもの心に深く届いてしまうかもしれません。普段から夫婦で本音を出していないと、大事な局面でお互いが譲れなくなり、対立してしまうこともあるとのこと。(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長〈当時〉、岡田俊氏) 小さなズレは、子どもの前ではなく、あとで2人のときに話しておきましょう。

ズレが出たとき、親同士で交わすひとことを3つ決めておきます
基準のズレは、たいてい子どもの前で発覚します。その場、そのあと、相手が叱っている最中。3つの場面それぞれで親同士のひとことを決めておけば、慌てずにすみます。
- ✓その場で(子どもの前で):「パパがいいって言ったなら、今日はそれでいこう。あとでパパと話すね」
- ✓そのあと(2人になってから):「さっきのゲームの件、私は目が心配だった。次はどうする?」
- ✓相手が叱っている最中に:「ママの言うとおり。パパも同じ気持ちだよ」
1つめは、約束を守ることと、相手を否定しないことを同時に満たすひとこと。いったん通った「いい」をその場でひっくり返すと、子どもには「パパの言葉は無効」と伝わりかねません。今日はそのままにして、話し合いはあとに回す。表の右側の3と5を、同時に守る形です。
2つめは、相手に基準の変更を求めるときのひとことです。子どもを叱るときの言葉選びとして、相手を主語にする言い方は責めるニュアンスが強く反発を招きやすいため、「私」を主語にして「事実の描写→その影響→自分の感情」の順に伝えることを提案しています。(親業訓練協会、瀬川文子氏) 怒りは二次感情で、その奥には「心配」「悲しい」といった一次感情がある、という指摘もあります。(株式会社子育て支援代表取締役、熊野英一氏) どちらも親子の場面で紹介されている考え方ですが、夫婦の会話にもそのまま使えます。「甘やかしすぎ」は相手への評価、「目が心配だった」は自分の感情。後者なら、相手も受け取りやすくなるでしょう。
3つめは、揃える5つのどれかで相手が叱っているときに、背中を揃えるひとこと。親同士の言葉が子どもに響くという先ほどの指摘を、ここでは逆に生かします。もう一人の親から「同じ気持ちだよ」と聞こえてくれば、子どもは「2人とも本気だ」と受け取れるはず。叱る役と守る役に分かれる必要はありません。揃える5つの場面だけは、2人で同じ側に立てばいいのです。
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夫婦で叱る基準が違うのは、2人が別々の人間として子どもを見ている証拠。それ自体を直す必要はありません。子どもが学ぶのは基準の違いからではなく、違いをめぐって親がどうふるまうかからです。
次に「パパはいいって言った」と言われたら、その場でひっくり返さずに、「じゃあ今日はそれでいこう。あとでパパと話すね」とだけ返してみてください。話し合いは、子どもが寝たあとの5分で足ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 相手の叱り方が厳しすぎると感じたとき、その場で止めてもいいですか?
A. 子どもの安全に関わる場面でなければ、子どもの前では止めずに、あとで2人になってから伝えてください。叱っている最中に割って入ると、子どもには「叱られている内容」より「親同士がもめている」ことが印象に残りやすくなります。感情的になりそうなときは、1度その場を離れて冷静になる時間を取ることがすすめられています。(EQWELチャイルドアカデミー主席研究員、浦谷裕樹氏) 相手に離れてもらう合図を2人で決めておけば、子どもの前で否定せずにすみます。
Q. 祖父母の基準も違います。全員で揃えるべきですか?
A. 全員で揃えるのは、表の右側の5つだけで十分です。とくに「安全」と「人を傷つけない」の2つは、預ける前に短く伝えておくと安心。おやつの量やテレビの時間が祖父母の家で違っても、「おばあちゃんの家のルール」として子どもは区別できます。「どの家でも同じ」が必要なのは、命と信頼に関わる線だけです。
Q. 相手が話し合いに乗ってきません。1人でできることはありますか?
A. 自分の側だけでも、「相手が子どもと決めた約束は守る」「相手を子どもの前で否定しない」の2つは実行できます。この2つが守られていれば、子どもには「言われたことは本当になる」「親は2人とも味方」という土台が残るはず。話し合いは、「甘やかしすぎ」という評価ではなく、「私は〇〇が心配」という自分の感情から切り出すと、相手も受け取りやすくなります。
Q. 子どもがすでに「通るほうに聞く」使い分けを始めています。どう対応すればいいですか?
A. 使い分けを叱る必要はありません。いい思いをした行動は繰り返されやすい、と指摘されています。(心理学にもとづく育児メソッドの提唱者、佐藤めぐみ氏) だからこそ、「ママに聞いてダメだったことは、パパに聞いても同じ答えだよ」と2人で決めて、同じ答えが返ってくる経験を重ねてみてください。どちらに聞いても答えが変わらなければ、使い分ける理由は少しずつ薄れていくでしょう。ゲームの時間などの細かい基準は、夫婦のどちらが決める係かを子どもにも伝えておくと、聞きに行く先がひとつになります。
(参考)
*1 こどもまなびラボ|子どもの「困った行動」、親の過干渉・ダブルバインドが原因かも!?
*2 こどもまなびラボ|子どもの自己肯定感が低下する「ダブルバインド」。“条件付きの愛” は危険です
*3 こどもまなびラボ|子どもの学力を下げる夫婦の特徴。親子関係が良好だと「国語」が得意になる?
*4 こどもまなびラボ|夫婦の会話から子どもは〇〇〇を学ぶ。賢い子に育てるための“会話術”
*5 こどもまなびラボ|「何度言ってもわからない」が嘘のように変わる! 専門家6人が教える “子どもが伸びる叱り方”
*6 こどもまなびラボ|「ダメでしょ!」と叱るのは意味がない。親子で問題解決をするための対話テクニック









