「お子さんは、何が得意?」——と聞かれたときに、パッと答えられますか? 「うちの子の “よさ” は絶対あるのに、言葉にできない……」「何を伸ばしてあげればいいかわからない」多くの親が感じていることではないでしょうか?
じつはこのモヤモヤの正体は、子どもの強みが言語化されていないこと。強みは、もって生まれた「才能」だけではなく、日々の行動のなかに隠れている伸びる芽のようなものです。ノート1冊あれば、その芽がはっきり見える形に育っていきます。
そこで今回は、ポジティブ心理学の「VIA(性格の強み)」研究を家庭向けにアレンジした強み発見ノート法をご紹介します
目次
「VIA」って何?——世界24の強みを科学する
VIA(Values in Action)とは、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン博士とクリストファー・ピーターソン博士が中心となり、3年間をかけて開発した「性格の強み」の分類体系です。*1
55人の研究者が、アリストテレスから世界の主要な宗教、2500年にわたる哲学や心理学の文献を徹底的に分析。その結果、時代や文化を超えて普遍的に価値があるとされる24の性格の強みを特定しました。
これらの強みは、「知恵」「勇気」「人間性」「正義」「節制」「超越性」という6つの美徳に分類されています。*2
VIAの強みは、「できること(才能)」ではなく、「どう行動するか(性格)」を測るもの。*3 たとえば「やさしさ」「がんばり力」「好奇心」といった、行動に表れる”その人らしさ”です。
世界190カ国以上で使われ、これまでに3500万人以上が診断を受けているThe VIA Character
Strengths Surveyは、学校教育や臨床現場でも広く活用されています。
今回ご紹介する「強み発見ノート法」は、この科学的な枠組みを家庭で気軽に実践できる形にアレンジしたものです。*3
【STEP1】まずは3〜7日間「できたことメモ」を集める
いきなり「あなたの強みは?」と言われても、子どもは困ってしまいます。そこで最初にやるのは、材料集め。
ノートの1ページ目に「きょうできたことノート」と書き、毎日3つだけ書いていきます。
問いかけの例
- 今日ちょっとがんばったことは?
- だれかにやさしくしたこと、あった?
- うれしかったことは?
- 夢中になった遊びは何?
- 妹に優しくした
- 逆上がりをあきらめなかった
- 図鑑で調べ物をした
- 絵や工作を長時間続けた
- 新しいことに挑戦した
- 友だちと協力した
子どもが自分で書ければ書いてもらってOK。むずかしければ、保護者が代わりにメモしても構いません。ここでは「できなかったこと」は聞かないようにしましょう。 小さな「できた」を拾うが鉄則です。
これだけで、子どものなかにある「力」のヒントが集まり始めます。
【STEP2】パターンを分析する
材料が集まったら、ノートを広げて見返してみましょう。
- 妹に優しくしている → やさしさ
- 逆上がりをあきらめなかった → がんばり力
- 図鑑で調べ物が多い → こうきしん
- 絵や工作を長時間続けている → そうぞう性
- 新しいことに挑戦している → ゆう気
- 友だちと協力している → チームワーク
……といった行動のパターンがだんだん浮かび上がってきます。
VIAの24の強みを参考にする
名前をつけるとき、VIAの24の強みを参考にすると、より的確に言語化できます。これらは、以下の6つの美徳に分類されています。
- 知恵:創造性・好奇心・判断力・学ぶ姿勢・視点
- 勇気:勇敢さ・粘り強さ・誠実さ・活力
- 人間性:やさしさ・愛情・社会的知性
- 正義:公平さ・リーダーシップ・チームワーク
- 節制:寛容さ・謙虚さ・慎重さ・自制心
- 超越性:感謝・希望・ユーモア・美しさの認知・スピリチュアリティ
ただし、VIAの24の強みは「ここから必ず選ばなければいけないリスト」という意味ではありません。6つの美徳をすべて埋める必要もありません。実際には、子どもの行動のなかから「繰り返し現れているものだけ」拾えば十分です。
強みの候補が出そろったら、見開きページに6〜8個の枠をつくり、それぞれに名前をつけます。
子どもの年齢や発達段階に応じて、いま見える強みだけで十分です。

【STEP3】強みの名前は親子で決める
ここが重要ポイント。強み名は、大人が一方的に決めるより、「親が候補を出し、子どもが選ぶ」ほうが効果が高いと研究で分かっています。
- 「これは “やさしさ” が近いと思うけど、どう思う?」
- 「”がんばる力” と “あきらめない心” 、どっちがいい?」
子どもが名前づけに参加することで、「これは自分の強みなんだ!」という感覚が強くなります。6歳の子なら「にこにこパワー」、10歳の子なら「探究心」など、年齢に合った言葉で名づけてもOKです。

【STEP4】毎日「強みの証拠集め」をする
ここから「強みの証拠集め」がスタート。たとえば、
【好奇心】公園で見つけた花を図鑑で調べた
【やさしさ】泣いていたお友だちにティッシュをあげた
【がんばる力】毎朝の学習を10分がんばった
のように日々書き足していきます。
ノートに増えていくほど、子どもの強みの地図が明確になっていきます。この記録が積み重なることで、「これが自分の得意なこと」という自己認識が育っていきます。

【STEP5】小さな「強みを使うプラン」を立てる
強みは、使われるとさらに伸びます。
大きな目標はいりません。「小さく使う=伸びる」がVIAの鉄則。「今週はやさしさを1回使ってみよう」くらいの、ハードルの低い計画をそれぞれ一緒に考えてみましょう。
たとえば、
【好奇心】→もっと動植物に詳しくなる!
【やさしさ】→困っている人には声をかける!
【がんばる力】→毎日学び続ける!
これで、完成!
週末には「できた?」「どんな気持ちだった?」「ほかにも使えそうな場面ある?」とちょこっと振り返り。学校で使った「がんばり力」が、家のお手伝いでも使えると気づく——こうした応用力(転移)が、子どもの自信と成長につながります。
やってみた! 小6・ユウちゃん(12歳)の例
1週間の”できたことメモ”から、自分の強みが見えてきました。

じつはこのメモの内容はゆうちゃんのノートに書かれていたもの。
【好奇心】→もっと動植物に詳しくなる!
【やさしさ】→困っている人には声をかける!
【がんばる力】→毎日学び続ける!
ノートをつけ始めてから、「獣医になりたい」という夢がもっと具体的になりました。自分の強みが分かったことで、「自分にはできる」という気持ちが強くなったそうです。
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研究でわかった、VIA法のすごさ
この「①気づく→②言語化→③使ってみる」流れは、世界中の学校や臨床現場でも使われている強み育成の定番メソッド。
イギリスで実施された「Strengths Gym」プログラムの研究では、性格の強みを学び、自分や他者の強みを認識し、それを活用する練習をした12〜14歳の生徒たちに、人生満足度とウェルビーイングの有意な向上が見られました。*4
中国の教育現場でも、強みトレーニングが短期・長期の両方で人生満足度を高めることが確認されています。*5
研究では——
- 自己肯定感が上がる
- 立ち直る力(レジリエンス)が高まる
- 学習意欲や挑戦が増える
- 行動が安定する
- 親子のコミュニケーションがよくなる
「弱みを直す」より「強みを活かす」ほうが、子どもは伸びやすい。これは発達心理学でも繰り返し証明されてきたことです。
特に、性格の強みはレジリエンスを予測する力が、自己効力感・自尊心・ポジティブ感情・社会的サポート・楽観性・人生満足度よりも強いことが研究で示されています。*6
***
子どもは、自分の強みを知りません。でも、日々の行動のなかには、伸びていくためのヒントが必ず隠れています。ノート1冊で、そのヒントが見える形になり、親子で強みを育てる時間が始まります。
「この子はどんな子なんだろう?」その答えは、特別な場所にあるのではなく、毎日の「小さなできた」の積み重ねのなかにあるのです。
(参考)
*1 VIA Institute on Character|Character Strengths and Virtues Handbook
*2 VIA Institute on Character|24 Character Strengths List
*3 VIA Institute on Character|Learn Your Character Strengths & Personal Traits
*4 ResearchGate|Strengths Gym: The impact of a character strengths-based intervention on the life satisfaction and well-being of adolescents
*5 PMC|The Practice of Character Strengths: Unifying Definitions, Principles, and Exploration
*6 PMC|Character Strengths and Resilience in Adolescence: A Developmental Perspective













