教育を考える 2019.11.18

思春期の問題は学童期からはじまっている? 10歳までの親子関係が大事な理由

思春期の問題は学童期からはじまっている? 10歳までの親子関係が大事な理由

不登校やいわゆる「キレる子ども」など、ニュースをにぎわせる思春期の問題を見聞きしながら、「うちの子はまだ小学生だから」と安心している人もいるかもしれません。ところが、精神科医青山渋谷メディカルクリニック名誉院長の鍋田恭孝先生は、「思春期になんらかの問題を起こすかどうかは10歳頃までの学童期までに決まる」といいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

大人になったときの基本的な性格ができあがる学童期

子どもが思春期に入ると、不登校をはじめとして心理面に原因があるさまざまな問題が噴出するようになります。その要因をお伝えするまえに、まずはそれまでの子どもの育ちについてお話しましょう。

生まれた瞬間にはなにもできなかった子どもは、3歳くらいまでの乳幼児期のあいだに歩きはじめたり言葉を覚えたりトイレにひとりで行けるようになったりと、劇的な変化を遂げ、いわば「小さな大人」になっていきます。これは「質的」な変化といっていいでしょう。

一方、4歳から10歳頃までの学童期は、乳幼児期のように劇的に異なるまったく新しいことを身につけるというわけではありません。その成長は、語彙が増えるとかより速く走れるようになる、力が強くなる、身長が伸びるというふうに、「量的」な変化といえます。

そして、その学童期にはもうひとつの特徴があります。それは、子どもが精神的にも安定していてまだ頭が柔らかく、学びにとても合っている時期だということ。そのため、外界から多くのことを取り込んで、基本的な性格ができあがる時期でもあるのです。

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思春期を乗り越えるために必要な資質を獲得する学童期

では、その時期の子どもがもっとも影響を受けるものといえばなんでしょうか? そう、親の態度なのです。わたしは、子どもが思春期になったときに不登校などの問題を起こすかどうかは、10歳までの親子関係で決まると考えています。

10歳頃までに基本的な性格ができあがるということは、対人関係のスキルものごとのとらえ方や考え方主体性など、いってみれば基本的なライフスタイルができあがるということです。そのとき、たとえば、親から「ああしなさい」「こうしなさい」といわれ続けて育ったとしたらどうでしょう?

思春期になれば、学校での部活のことや進学のことなど、自分で決めなければならないことが一気に増えてきます。でも、その子はそれまで自分でなにかを決めた経験がほとんどない。そのために戸惑ってしまって、自分の殻のなかに閉じこもってしまうということもあるのです。

10歳頃までの学童期は、子どもの基本的なライフスタイルができあがると同時に、思春期にぶつかるさまざまな壁を乗り越えるために必要な資質を獲得しなければならない時期です。その資質をきちんと身につけられたかどうか、それが思春期にあぶり出されるというわけです。

10歳までの親子関係

「メタ認知」によって思春期にさまざまな問題が起きる

そもそも、なぜ思春期に大きな変化が表れるかというと、脳の前頭葉の発達によって、自分を第三者視点で見る「メタ認知」ができるようになるから。簡単にいえば、自分を客観視できるようになるからです。

それによって冷静にものごとを判断できるようになるなど、この力は人間にはもちろん必要なものです。でも、これはもろ刃の剣でもある。自分のことを客観視できるようになるため、人間関係における自分の立ち位置も見えてきます。そうして、まわりから浮いていないかとか、友だちは自分のことをどう思っているのかといったことを過剰に心配するということにもなるのです。みなさんも思い返してみれば、思春期の悩みはその大半が対人関係のものだったのではないでしょうか。

そのとき、きちんと自分なりに主張する力や自己選択する力を持っていれば、人間関係のなかで自分がどう動くべきかを決められるはずです。あるいは、まわりがどう思っていようとも、「自分は自分だ」と思える自己肯定感が育っていれば問題ないでしょう。でも、そうではなければ……? 中学校で不登校の割合が急激に増えることには、こういう理由があるのです。

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子どもと距離を置き、子どもを子どもとしてきちんと見る

だからこそ、親は子どもが学童期のうちにそれらのさまざまな力を育ててあげなければなりません。そのためにもっとも大事なことは、「子どもを子どもとしてきちんと見る」ということ。

親というのは、どうしても自分の期待や不安を思い込みとして子どもに投げかけやすいものです。とくに同性の子どもにはそうなりがちな傾向があります。異性の子どもに対してであれば、親にもわからないことがあって当然ととらえることができるのですが、同性の場合はそうではないからです。

その結果、子どもに対して「こう考えているにちがいない」「こういうことが不安にちがいない」「こうしたいにちがいない」「こうすべきだ」というふうに、思い込んでしまう。そうして子どもの気持ちの先回りをすることが、子どもが自分で悩んだり考えたりするという、主体性を育むためにとても大切な機会を奪ってしまうことになるのです。

もちろん、子どもに危険が及びそうな場合などには親として手を差し伸べてあげなければなりません。でも、基本的には、きちんと子どもに目を向けながらも適度に距離を置くことを考えてください。それが、子どもに自分自身というものを築き上げさせていくことになるのですから。

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10歳までの子を持つ親が知っておきたいこと
鍋田恭孝 著/講談社(2015)
鍋田恭孝book

■ 青山渋谷メディカルクリニック名誉院長・鍋田恭孝先生インタビュー一覧
第1回:思春期の問題は学童期からはじまっている? 10歳までの親子関係が大事な理由
第2回:「不安先取り型」の親が生む、思春期の子どもの問題
第3回:学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも
第4回:子どもを見えなくさせる「期待と不安」というフィルター。親子は一心同体?

【プロフィール】
鍋田恭孝(なべた・やすたか)
愛知県出身。医学者、精神科医。青山渋谷メディカルクリニック名誉院長。慶應義塾大学医学部卒業後、同精神神経科助手、講師を務めたあと、宇都宮大学保健管理センター助教授、防衛大学精神科講師、大正大学人間学部教授などを経て、2012年度まで立教大学現代心理学部教授。各大学病院では、思春期専門外来、うつ病専門外来、精神療法専門外来を担当し、研究・臨床にあたる。とくに、うつ病・対人恐怖症・引きこもり・身体醜形障害の治療に携わる。現在、不登校・対人恐怖症・引きこもりなどの若者のために成長促進的な治療を推進する青山心理グローイングスペースを運営し、名誉院長を務める青山渋谷メディカルクリニックにてうつ病・神経症などの臨床に従事している。著書に『摂食障害の最新治療 どのように理解しどのように治療すべきか』(金剛出版)、『身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか』(講談社)、『思春期臨床の考え方・すすめ方 新たなる視点・新たなるアプローチ』(金剛出版)、『変わりゆく思春期の心理と病理 物語れない・生き方がわからない若者たち』(日本評論社)、『対人恐怖・醜形恐怖 「他者を恐れ・自らを嫌悪する病い」の心理と病理』(金剛出版)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。