子どもが幼少期のうちからつけておきたいのが、「伝える力」です。相手に自分の意思をしっかりと伝えることができれば、良好な人間関係を築いたり、精神的に安定したりすることにつながるでしょう。
そのためには、親が子どもとの関わり方やコミュニケーションを工夫する必要があります。今回は、自分の気持ちを伝える力の重要性や、子どもに伝える力を身につけさせるための方法やコツについて紹介していきます。
目次
なぜ「自分の気持ちを伝える力」が大切なのか
「あれ食べたい」が友だちに伝わらない理由
日常生活の中では、自分の意思を相手に伝える場面がたくさんあります。たとえば、食べたいものや欲しいものを親にリクエストするとき、友だちと遊ぶ約束をしたいとき、先生に忘れ物をしたことを報告するとき。
自分の意思を伝える相手が親や祖父母などの身近な存在であれば、「この前テレビで見た、あれが食べたい!」といった断片的な伝え方をしても、ある程度は真意を汲み取ってもらえることも多いでしょう。しかし、友だちや先生に同じような伝え方をしても、相手の理解を得られない可能性が高いのではないでしょうか。
もし子どもが友だちに「明日、公園で遊ぼうね!」と伝えたとしても、その友だちは「何時に、どの公園で遊ぶんだろう?」と不明点が残り、結局遊べなかったり、親同士で改めて連絡を取ったりすることになります。自分の意思を伝えるためには、相手が必要とする情報が何なのか、どんな言い方をすれば正確に伝わるのかを理解することが前提にあるのです。
気持ちをうまく伝えられないから「相手を叩く」
自分の気持ちを伝える力が乏しい場合、自分の意思がうまく伝わらないことにイライラしたり、イライラが暴力などに変わったりすることもあります。たとえば、おもちゃを取られた時に「返して欲しい」という自分の気持ちを言葉にできず、叩いたり噛んだりしてしまうのです。
これは「とらないでほしい」という気持ちをうまく伝えられないから。自分の気持ちを伝える力があれば、「とらないでほしい」と言葉にできるため、こうした状況にも落ち着いて対処することができるようになります。
また、自分の気持ちを伝える力があれば、非行などのネガティブな誘いがあっても、しっかり断ることができます。大人のなかにも、断るという行為が苦手であることから不本意な状況に陥る人が少なからずいますよね。そのような人には伝える力が十分に備わっていないことが多いのです。伝える力は、トラブル回避に役立ち、ひいては自分自身を守ることにもつながります。
子どもが「自分の気持ちを伝える力」を育てるための4つの方法
子どもの自分の気持ちを伝える力は、家庭内でのコミュニケーションを工夫して伸ばすことが可能です。子どもが自分の意見をしっかり伝えられるように、また余計なトラブルを避けるためにも、以下の点を意識してみましょう。
1. 子どもの感情を言葉にしてあげる
子どもは語彙力が乏しいため、自分の気持ちをうまく言葉にできないことも多いです。そんなときは、子どもの様子や話の内容から「それは〇〇っていう気持ちだと思うよ」と感情を言葉にしてあげましょう。他の子どもにおもちゃをとられてイライラしているようだったら「おもちゃをとられて『悔しい』って思ったんだよね」などと子どもの気持ちを汲み取ってあげるのです。そうすることで、子どもは「悔しい」という感情がどんなものなのかを理解し、言葉として伝えられるようになっていきます。
2. 「そのとき、どう思ったの?」と聞く
自分の気持ちを伝えるためには、まず「自分がどう思っているか」がベースになります。そのため、子どもに自分がどう思っているかを意識させる習慣を作ることが大切です。「どう思ったの?」と聞いても、最初は「嫌だった」「楽しかった」といった簡単な答えしか返ってこないかもしれません。
しかし、感情を言葉にすることに慣れていけば、「くやしかった」「もっと頑張りたいと思った」などの表現ができるようになっていきます。また、自分の意思と向き合う習慣を付けることは感情のコントロールにもつながります。
3. 5W1Hに沿って質問をする
5W1Hとは、Who(誰が)When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)を表す言葉です。何かを伝えたいときにこれらの項目を意識すると、伝えたいことがより明確になります。子どもは断片的な情報のみで何かを伝えようとしたときは、これらに沿った質問をして伝えたいことの全体像を共有するようにしましょう。
また、親が子どもに何かを伝えるときも、「明日の朝、公園に砂遊びをしに行こう。ちょっと遠い公園だから自転車で行こうか」など、5W1Hに則って自分の気持ちを話すようにすれば、徐々に子どもが真似するようになることも期待できます。
4. 「断ること」「断られること」はネガティブなことではないと伝える
伝える力が弱い人の特徴として「断ること・断られることを恐れてしまう」というものがあります。その場合、何かを伝える前に「こんなことを言って断られたらどうしよう、嫌われたらどうしよう」「断って相手を傷つけたらどうしよう」と不安になってしまい、最終的に自分の本意ではない状況に巻き込まれたり、我慢を強いられたりします。
親が子どもの気持ちを尊重し、「自分の本当の気持ちを言ってくれてありがとう」と伝えたり、何かを断る際には「今は疲れているから遊べないよ」と理由を自分の感情を含めて説明し、「明日ならゆっくり遊べるよ!」といった代替案を提示したりすることで、自分の気持ちを素直に伝えることの大切さを学べます。
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子どもの「自分の気持ちを伝える力」を育てることは、友だち関係の円滑化だけでなく、親子の感情的なつながりの強化にもつながります。さらに、将来社会に出た際にも自分の思いを適切に表現するための必要不可欠なスキルとなります。
日常の何気ないやりとりのなかで、素直に自分の気持ちを伝えることの大切さを教えるといった工夫を続けることで、子どもの「自分の気持ちを伝える力」は着実に育っていくでしょう。
文/田口るい
(参考)
ベネッセ教育情報サイト|自分の気持ちを相手に伝える力を育てよう[ソーシャルスキル]
東洋経済オンライン|家庭内の会話で、国語力を上げる2つの方法
学研キッズネット|子どもの伝える力を育てる2つのチャレンジ/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第11回】
NHKエデュケーショナル すくコム|子どもの気持ちを知るヒント「思いを『言葉』で伝えさせる」
ecomam|人に頼むことは、相手への信頼を伝えること
※本記事は2019年3月4日に公開しました。肩書などは当時のものです。