あたまを使う/教育を考える 2018.8.26

「満点を取らせないテスト」に込めたこだわり。授業で触れていない問題も出題する意図とは

「満点を取らせないテスト」に込めたこだわり。授業で触れていない問題も出題する意図とは

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これまでの詰め込み型の教育ではなかなか育てることができないとも指摘される、「考える力」。その力を伸ばす「知能教育」を、なんと約50年前に導入した小学校があります。それは、東京都武蔵野市にある聖徳学園小学校。現在、校長を務める和田知之先生は、その知能教育や教材開発に長く携わってきました。そして、同校で知能教育同様に力を入れているのが「英語教育」と「リーダーシップ教育」。それにはどんな狙いがあるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人

約30年前に実践的な英語教育を導入

知能教育以外に我が校が力を入れているものとして、まず英語教育が挙げられます。はじめたのは1987年。いまでこそ公立小学校でも5年生、6年生が週に1時間の外国語活動をしていますが、当時としては英語教育の導入はかなり珍しかったものだと思います。

しかも、2016年からは全学年で英語教育を実施しています。1週間あたりの授業時間は、1年生と2年生は1時間、3年生と4年生は2時間、5年生と6年生は3時間。週に3時間の英語の授業をしている学校は他にあまりないでしょうね。

内容も一般の公立小学校とは異なるものです。小学校の英語の授業では、普通は「慣れる、親しむ」ということが重視されますが、わたしたちは本格的な英語力を育成することを目指しています。特徴的な行事が、「イングリッシュキャンプ」という合宿。成田空港近くのホテルに宿泊し、ネイティブの英語教員たちとともにさまざまな活動をします。

たとえば、ホテルのバーカウンターで注文をする練習。もちろん、頼むのはお酒ではなく、ジュースやポップコーンですけどね(笑)。また、ホテルに出入りする外国人のCAやパイロットの方にアポなしで話しかけて夕食に誘うということも。お疲れのところとは思いますが、皆さん意外と面白がって子どもたちの誘いを受けてくれるんですよ。仕上げとして、合宿最終日にするのが空港にいる外国人観光客へのインタビュー。こうして、英語のシャワーを浴びながら、より実用的な英語を学ぶわけです。

ただ教室や家で勉強するだけでは、英語を学ぶ目的やモチベーションを失いかねません。確かにのちのちの入試で力を発揮するということもあるでしょうけど、やっぱり実際に使ってこそ英語を学ぶ意味があると思うのです。

「満点を取らせないテスト」に込めたこだわり。2

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満点を取らせない定期テストで「考える力」をさらに伸ばす

それから、英語に限らず採用しているのが教科担任制」と「習熟度別の少人数クラスです。小学校では、担任教員がすべての科目を教えるのが普通ですよね。そうすると、教材研究をやり切れないというような問題が出てきてしまう。教員というのは、授業以外にもやらなければならないことを本当にたくさん抱えていますからね。各科目の専門の教員に授業をさせたほうが、子どもたちにとってわかりやすく、学力を向上させるにも効果的なのです。

また、一人ひとりの子どもたちをきめ細かく指導するため、習熟度別に少人数のクラス分けをしています。英語であれば、30人程度のクラスをふたつにわける。クラス分けの際には、その教科が得意かどうかということに加えて、その教科に「どれだけ興味があるか」ということも考慮するのです。それにより、できる限り子どもたちの個人差に合わせた授業ができるというわけです。

さらに、我が校では中学校同様に中間テスト、期末テストという定期テストをしています。この目的は、成績をつけるためというより授業がうまくいっているかを調べるため、そして、なによりテストを通して子どもたちの「考える力」を伸ばすためです。テストのなかには授業では触れていない、子どもたちがはじめて目にしてはじめて考えるという問題も入れます。ただの復習テストではないのです。その場で、「うーん」と頭をひねって考えることで、さらに思考力を伸ばしていきたい。

それらのテストでは、満点を取らせないということもこだわりのひとつ。満点というのは、リミットに達してしまってその上の力を測れないということですよね。それでは、子どもたちの力を正しく評価して、さらに上に引き上げることができません。それから、子どもたちのモチベーションを保つという意味合いもあります。もちろん、それでも満点を取られてしまうこともあるんですけどね(笑)。

主体的に行動できる子どもを育てる「リーダーシップ教育」

また、英語教育以上に力を入れていると言っていいのが心の教育です。どんなに学力が上がって頭が良くなったとしても、心が育っていなければ成熟した人間にはなれません。忍耐力がなければ就職してもすぐに仕事を辞めてしまうでしょうし、受験勉強だけをしてきたのでは社会では通用しない。倫理観が伴っていなければ、頭の良さを悪い方向に使うこともあるでしょう。

わたしたちが育てたいのは、社会に貢献できる子どもたち。そのために取り組んでいるもののひとつが「リーダーシップ教育」です。そのベースとしているのは、アメリカの作家で経営コンサルタントであるスティーブン・R・コヴィー博士の著書『7つの習慣』。販売部数は世界で3000万部、日本でも200万部を誇るベストセラーですから、耳にしたことがある人も多いでしょう。その『7つの習慣』に基づく『リーダー・イン・ミー』というテキストを使って心の教育をしています。内容は、たとえば「Win-Winの関係」や「信頼貯金」を教えるといったもの。

リーダーシップ教育というと、子どもたちを政治家や経営者にさせようというものをイメージするかもしれませんが、ここで言うリーダーは「人の上に立つ人間」ということではありません。「リーダー・イン・ミー(The leader in me)」の意味は「自分のなかのリーダー」。つまり、自分が自分のリーダーとなって主体的に行動することを目指すというものなのです。

いまの子どもたちは、「自分を自分で動かす」能力が落ちているように感じています。「○○君、やってみたら?」となにかにチャレンジすることを促しても、子どもたちの返答には「自信がないです」「△△君のほうが向いていると思う」「お母さんに聞いてみないと……」というものが本当に多いのです。

友だちや親ではなく自分自身が自分のリーダーとなって、これからの人生を力強く歩んでいけるように心の教育をする。子どもたちを教育する立場からすれば、学力を伸ばすこと以上に重要なことだと感じています。

IQ130以上の子どもの育て方
IQ130以上の子どもの育て方
和田知之 著/カンゼン(2018)

■ 聖徳学園小学校長・和田知之先生 インタビュー一覧
第1回:学校教育の“ゴール”はこう変わる! いま求められる「考える力」の正体とは
第2回:子どもの学力は「考える力」で決まる。幼いうちほど“知能教育”が効果的な理由
第3回:5・6年生の平均IQが160超えの“知能教育”のすごさ。肝は「教えずに考えさせる」こと
第4回:「満点を取らせないテスト」に込めたこだわり。授業で触れていない問題も出題する意図とは

【プロフィール】
和田知之(わだ・ともゆき)
1966年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、1991年より聖徳幼稚園英才教室に勤務。2000年より聖徳学園小学校に配属となり、また、知能診断として多くの保護者にアドバイスをおこないながら、知能教育やその教材開発に従事。2015年から現職の聖徳学園小学校長、聖徳幼稚園長、英才教室長に就任。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。