からだを動かす/スイミング 2018.2.28

元・水泳日本代表選手、萩原智子さんインタビュー「子どもたちに持ってほしい水への感謝」

元・水泳日本代表選手、萩原智子さんインタビュー「子どもたちに持ってほしい水への感謝」

2012年、ロンドンオリンピックの選考会を兼ねた日本選手権を最後に現役から引退した萩原智子さん。その後は水泳の解説や講演活動、ライターとしても活躍しています。そんな萩原さんが、精力的に取り組んでいる活動があります。

活躍の場としていたプールで使っている水があることはあたりまえではなく、「ありがたいこと」であることを伝えるため、「水」を通じて「Communication(通じ合う)」「Education(教育)」のふたつの意味を込めた『水(みず)ケーション』という活動を行っているのです。この『水ケーション』を通じて、萩原さんが伝えたい思いとはどんなものなのかをじっくりと語ってもらいました。

子どもが大きく成長できる水泳を長く続けていくために、水を大切にしたい

——萩原さんが、『水ケーション』をはじめたきっかけを教えてください。

萩原さん:
水泳選手を引退した後、登山をする機会がありました。そのとき、山頂の山小屋のオーナーの方と話をする機会がありました。やはり山頂で水を確保することはとても大変で、飲み水などはわざわざヘリコプターで運んでくるという話を耳にしたのです。そのとき、「いつも泳ぎに行けばプールには水が張ってあって、あたりまえのように泳げていた水泳というスポーツはどれだけ贅沢なスポーツなのだろう」と感じました。

水というものは、人間が生きていくためにはなくてはならないものです。世界を見れば飲み水を確保するのも大変な地域もありますし、ここ日本だって飲み水がなくならないという保証はありません。そうなったら、生きていくことに苦労するのは当然のこと、水泳というスポーツ自体ができなくなってしまいます。

わたし自身が水をたくさん使う水泳をやってきましたし、水泳が自分自身を大きく成長させてくれたことは言うまでもありません。子どもの習い事としてだけではなく、「生涯スポーツ」として楽しめる水泳が未来永劫に渡って続いてほしいと願っています。だからこそ、水を大事にする気持ちを多くの方に持ってほしいのです。

そこで、水に対してもう一度みんなで真剣に向き合い、水の大切さについて一緒に考えて学んでいきたいと思ったことが、『水ケーション』をはじめたきっかけです。

子どもと一緒に水と遊びながら、水の大切さを伝えたい

——森林セラピストの資格を持つ、小野なぎささんと一緒に活動していますね。

萩原さん:
小野さんとは山梨県のお仕事でご一緒したことがありました。「水を大切にする活動をしたいので、一緒に活動をしていきませんか?」とお願いしたところ、「ぜひ!」とお返事を頂いただきタッグを組むことになりました。基本は、森の授業を小野さんが行い水の授業をわたしがプールや川で行います。

「水ケーション」の開催にあたり感じたことは、目標や夢を口にすると自分のサポーターが増えるということ。わたしは、『水ケーション』のアイデアをことあるごとにいろいろな人に話しました。すると、「じゃあ、こういう人を紹介するよ」と新しい人のつながりが増えていき、わたしの活動を助けてくれる人たちがたくさん出てきたのです。

振り返ってみると、現役時代も同じでした。小さいとき、近所の方に「わたし、いつかオリンピックに出るんだ」とずっと話していたそうです。するとその方は、どんなときでもずっとわたしを応援し続けてくれました。中学時代にわたしを本気で叱ってくれた親友も、わたしが夢を口に出して伝えていたからこそ、親身になって叱咤激励してくれたのだと思います。

夢や目標を口にすることで、自分を助けてくれる人たちが現れてくれる

萩原さん:
ですから、水泳指導をするときには子どもたちに「夢や目標はどんどん口に出して伝えようね」といつも話しています。自分の口から夢や目標を話していれば、自然と自分のサポーターが増えていく。それをわたしは、選手時代だけではなく『水ケーション』でも知ることができました。

水に対して感謝ができれば、他のことにも感謝の気持ちを持てる

——水をとおして、子どもたちが日常のどんなことにも感謝してくれるようになると活動の意義が出てきますね。

萩原さん:
わたしは、水に対して「ありがとう」という気持ちを持つことを伝えるだけではなく、「水は大事だよ」「水があって大好きな水泳ができることに感謝しようね」という気持ちを“共有”したいと思っています。子どもたちには、ただ口で伝えるだけよりも一緒に同じ体験をして、「ありがとう」という気持ちを共有するほうがもっと伝わると思っています。そして、あたりまえに感じていたことに対しても感謝の気持ちを持つことの大切さが伝われば、きっと水だけではなくて、他のどんなことにも「ありがとう」と言える人になってくれるのではないかと期待しています。

たとえば、あたりまえのように食べているお米だって、水があるからお米が育つわけですよね。水を大事にしながら、美味しいお米をつくってくれる人がいる。そこまで考えられたら、きっとお米を食べられることにも「ありがとう」と言えるようになってくれるのではないでしょうか。

わたしは水泳をやって育ちましたから、その経験を生かせる場所はプールであり、水のある場所です。だから、「ありがとう」という感謝の気持ちをいろいろなことに置き換えられるような考え方を、これからも水や水泳をとおして伝えていきたい、共有していきたいと思っています。

【プロフィール】
萩原智子(はぎわら・ともこ)
1980年4月13日生まれ、山梨県出身。山梨学院大学付属高校~山梨学院大学~山梨学院大学院。小学校2年生のときに、海で溺れたことがきっかけで水泳をはじめる。2000年のシドニーオリンピックには200メートル背泳ぎと200メートル個人メドレーで出場し、ともに決勝進出を果たし入賞。2004年に一度は引退するも、2009年に現役復帰を果たし2010年には日本代表に返り咲く。2012年のロンドンオリンピック選考会後に2度目の引退。現在は、一児の母として子育てをしながら日本水泳連盟理事を務める他、テレビ・ラジオ出演や水泳の解説、講演活動、ライターとしても活躍中。また、水泳教室に加えて「水の大切さ」 や「水の教育」にも取り組む、水でエデュケーション・コミュニケーションする『水ケーション』の活動にも注力している。また、山梨県、福島県、愛知県で水泳大会『萩原智子杯」も開催している。

【ライタープロフィール】
田坂友暁(たさか・ともあき)
1980年生まれ、兵庫県出身。バタフライの選手として全国大会で優勝や入賞多数。その経験を生かし、水泳雑誌の編集部に所属。2013年からフリーランスとして活動。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆。また映像撮影・編集も手がける。『スイミングマガジン』で連載を担当する他、『DVDレッスン 萩原智子の水泳 基礎からチャレンジ!』、『DVDレッスン 萩原智子のクロール 基礎からチャレンジ!』(ともにGAKKEN SPORTS BOOKS)、『呼吸泳本』、『明日に向かって~病気に負けず、自分の道を究めた星奈津美のバタフライの軌跡~』(ベースボール・マガジン社)などの書籍も多数執筆。