教育を考える 2025.1.30

子どもの自己肯定感が下がったとき、親は “過度な心配” をしないほうがいい

子どもの自己肯定感が下がったとき、親は “過度な心配” をしないほうがいい

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少子化に伴い、「この子をしっかりと育てなければ」というプレッシャーを感じている親が増えていると言われます。そのため、子どもに対して親が「過度の心配」を抱く傾向が強まっており、関連して「過干渉」という言葉も近年聞かれるようになりました。しかし本来、子どもには、自分の意思でのびのびと生き、自己肯定感を高めていってほしいものです。よって、子どもの自己肯定感を育むためには、過度な心配こそが、障壁となり得るものでもあるように感じられます。自己肯定感ブームをつくった第一人者として知られる心理カウンセラーの中島輝さんに、子どもに対する向き合い方について聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

親の心配や不安は、子どもに必ず伝播する

子どもの「自己肯定感」を育むにあたり、親であるみなさんに絶対に知っておいてほしいことがあります。それは、さまざまな外的要因によって「自己肯定感は揺れ動くものである」という事実です。

大人であっても、仕事でミスをしたり対人関係でトラブルを起こしてしまったりすれば、後悔の念に駆られ、たとえ一時的であっても気分は落ち込み自己肯定感は低下します。まだ人生経験に乏しく繊細な子どもの場合ならなおさらでしょう。

ですから、「子どもの自己肯定感が下がっているのはよくないことだ」とは考えないでほしいのです。その観点に立つと、たとえば子どもが友だちとけんかして自己肯定感が下がっているときに、「これはよくない状態だ」ととらえ、親御さんまで一緒に落ち込んだり、必要以上に心配したり不安になったりしてしまいます。

そうした親の心配や不安は、子どもに伝播します。子どもは、親が感じている感情を「ミラーニューロン*」という脳の仕組みによって、無意識のうちに模倣しやすいと言われています。親が心配や不安を抱えていると、子どもがその雰囲気を察し、同じように心配や不安を覚えてしまうのです。
(*)他人の行動を見たときに、自分が同じ行動をしているかのように反応する脳の神経細胞

ワーキングマザーが子ども2人を抱っこしながらPCで仕事をしている

ここで問題なのは、子どもはただ心配や不安を感じるだけでなく、「お父さんとお母さんが心配するのは、わたしが友だちとけんかしたからだ」というように、自分を責めてしまいかねないことです。

ですから、子どもが落ち込んでいるときには、「この子の自己肯定感は、ただ一時的に低下しているだけ」と、いい意味で気楽に構えてください。そのうえで、「そう、友だちとけんかしちゃったの。それは大変だったね」「大丈夫。ずっと仲良ししだったんだから、きっとすぐに仲直りできるよ!」というように、一緒に落ち込むのではなく「寄り添う」ことを心がけてほしいのです。

そのように親が冷静な姿勢でいれば、子どもは「そんなに心配することでもないのかな?」と感じ、自己肯定感も徐々に回復していきます

中島輝さんが説明している

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親子で同じ本を読めば、子どもの自己肯定感が高まる

「寄り添う」という意味では、子どもが落ち込んでいるときに限らず、子どもの自己肯定感を育むために日頃から親子一緒に行なえる方法もあります。

「親子で同じ本を読む」というのもそのひとつです。幼児であれば読み聞かせでかまいませんが、小学生なら親子それぞれで同じ本を読みましょう。読む本のジャンルは問いませんので、子どもの年齢や好みに応じて選んであげてください。

この方法には、いくつかのメリットがあります。まずは、同じ本を読むことで共通の話題が生まれ、親子間のコミュニケーションが促進されるということです。親が本の感想を伝えれば、子どもも「お母さん、お父さんはそう感じたんだ。私はこう思ったよ」と同じように感想を伝えてくれるでしょう。そして、子どもの感想や意見を親が尊重し共感することで、子どもは「自分の考えを大切にされている」と感じ、自己肯定感が高まっていくのです。

また、まさしく「寄り添う」ことになりますが、読書を通じた共有体験が生まれることも、この方法にあるメリットです。同じ本を読むことは、親子が一緒になにかを共有する機会となります。子どもは、自分が読んだ本を親も読んでくれることで、「お母さん、お父さんは自分に寄り添ってくれている」「だから、自分はこのままの自分でいいんだ」と思えるのです。

さらに、多様な価値観や人生観を学び取る機会を得られるというメリットもあるでしょう。本には、それぞれ異なる考えをもつ、さまざまな人物やキャラクターが登場します。それらについて親子で話し合うことで、子どもは「こんな人もいるんだ」「こんな考え方もあるのか」と、多様な価値観を受け入れます。そうして、他人を認めると同時に、自分自身を認められるようになるのです。

親子が絵本を見ながら笑っている

ホワイトボードを使って、「人と違っていい」という多様性を学ぶ

また、「ホワイトボードで見える化して話し合う」というのも、子どもの自己肯定感を育むために親子一緒にできる方法です。これは、先にお伝えした「多様な価値観を受け入れられるようになる」ことを目的としています。

たとえば、家族で夏休みの予定を考えるとします。「お父さんは沖縄に行きたい」「お母さんは温泉でゆっくりしたい」「私は遊園地がいい」といった家族それぞれの意見を、文字だけでなくイラストなども加えて楽しく書き出すのです。

ホワイトボードで見える化されていますから、子どもは、自分の意見だけでなくお父さんの意見もお母さんの意見もはっきりと認識することができます。そうして、「お父さんもお母さんも、そしてほかの人も、私とは違うんだ」「違っていいんだ」と思え、自分自身を認められるのです。

子どもの自己肯定感を育むためには、たくさんの方法があり、それは私の著書をはじめさまざまなメディアに掲載されていますが、とにもかくにも親が右往左往しないことがいちばんではないでしょうか。いつもどっしりとかまえ、「自己肯定感は揺れ動くもの」と冷静さを保ち、過度な心配をしないようにしてください。そして、いつも子どもに寄り添う姿勢をもつことを忘れないであげてください。

中島輝さんが窓辺に立っている

子どもの自己肯定感の教科書
中島輝 著/SBクリエイティブ(2024)
子どもの自己肯定感の教科書表紙

■ 心理カウンセラー・中島輝さん インタビュー一覧
第1回:「失敗」も「個性」もすべてが自分。親の “この声かけ” が「本来の自己肯定感」を育む
第2回:自己肯定感の高低は、親から子へ連鎖する? 「いいところ探しメモ」で自分を好きになろう
第3回:子どもの自己肯定感が下がったとき、親は “過度な心配” をしないほうがいい

【プロフィール】
中島輝(なかしま・てる)
茨城県出身。心理カウンセラー。作家。自己肯定感アカデミー代表。資格発行団体torie代表、一般社団法人自己肯定感学会代表。肯定心理学協会代表。心理学、脳科学、NLP等、とくにアドラー心理学を使い独自の自己肯定感理論を世に広め、126以上のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「自己肯定感アカデミー」や自立した生き方を探求する「輝塾」の運営等、広く中島流メンタル・メソッドを啓蒙し、「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感コーチング講座」「アドラーメンタルトレーナー講座」などを主催する。自己肯定感ブームをつくった第一人者。『自分を好きになる7つの言葉』(PHP研究所)、『自己肯定感を高めるインテリアブック』(朝日新聞出版)、『口ぐせで人生は決まる』(PHP研究所)、『繊細すぎる自分の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『立ち止まって休んでもいい』(学研プラス)など、著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。