「この子の将来のために、何を習わせるべき?」
「正解を早く教えてあげないと、周りに置いていかれるのでは?」
変化の激しい時代、子どもの将来を案じるあまり、私たちはつい先回りして「正解」や「効率の良いルート」を用意してしまいがちです。ですが、親がよかれと思って差し出すその “手助け” が、じつは子どもの「自ら考える力」を奪ってしまっているとしたら——。
こうした問いを考えるヒントとして、編集部が注目したのが、コクヨ株式会社が学生とともに実施した取り組み「ヨコク式」です。
「ヨコク式」は、2025年10月14日に行われた、学生たちが自分の未来への意志(=ヨコク)を宣言するプロジェクトです。企画、プログラムの内容決定、準備、そして当日の運営のすべてが、学生主導で行われています。運営チームは総勢20名ほど。当日は、80名の学生たちが全国から集まり、自分たちの意志=ヨコクを宣言してフィナーレとなりました。
編集部が取材を通して印象的だったのは、主催者である櫻木澄さんと川端奨平さんの、あえて「教えない」ことで主体性を引き出す関わり方です。その姿勢は、大学生に限らず、家庭での子どもとの関わりにも通じるものがありました。
目次
ヨコク式が示す「教えない場」の価値
ヨコク式は、学生たちがそれぞれの「ヨコク」――つまり、自分の未来への宣言を共有する場でした。成人式のように一人ひとりが自分の節目を言葉にする。しかし、ここでは「資格」や「成果」は問われません。必要なのは、ただ “自分の意思を語ること” でした。
「ヨコク式」の企画を担当したコクヨ新卒採用ユニット(※)川端さん(左)と櫻木さん(右) ※取材当時。以下同
ヨコク式では、主催者側がプロジェクトの進行をすべて学生に一任し、「命令しない、細かく指示もしない」という方針を貫いていました。学生が自らの内面を掘り下げ、「自分の言葉」で未来を語る――そんな場をつくることこそ、企業と学生の双方にとって新しい価値になると考えたのです。
もちろん、学生たちが迷走する場面もあったといいます。何から手をつければいいのかわからず、議論が止まってしまうこともあったそうです。それでも、社員である櫻木さんと川端さんは答えを教えることはせず、「遠すぎず、近すぎず」の距離で見守り続けました。

「学生に『こうしなさい』と教えるより、まずは自分たちで考えられる余白を残したいと思っていました。迷う時間も含めて、学びになると考えました。
失敗してもトライ&エラー。子育てでも、目の前の躓きそうな石ころをどかしたくなることもありますが、正解を与えず『そのままでいいやあ』とあまり先回りしないようにしています」
すると学生たちは、自分たちで話し合いを重ね、自然と役割を見つけ、自分たちの力で答えを探しながら活動を進めるようになっていったそうです。
指示や正解が与えられないからこそ、誰かの判断を待つのではなく、「自分たちはどうしたいのか」を考える時間が生まれていました。
その端的な例が「リーダーの不在」です。「運営する人がいなくても、自分たちの意志で組織は回る」という事実に、学生たちはたどり着いていきました。
・「遠すぎず、近すぎず」の関わりは、主体性が育つ。
・すべてを教えなくても、必要なときに支える姿勢が学びを支える。
学びの出発点は「欠乏」ではなく「好奇心」
ヨコク式が掲げたキーワードのひとつが「好奇心」です。
なぜ、子どもは「勉強しなさい」と言われるとやる気を失い、ゲームや遊びには熱中するのでしょうか。それは、学びの出発点が違うからです。多くの教育は「弱点克服(欠乏)」から入りがち。
学びの出発点を「欠乏」ではなく「好奇心」に置く――自分の興味や違和感をもとに問いを立てることが、最も強い内発的動機づけを生むのです。

とある学生の “ヨコク”
実際に、ヨコク式で語られた 「ヨコク」の多くは、成果や目的を前提にしていませんでした。「自分がワクワクすることは何か?」「純粋な興味はどこにあるか?」という「好奇心」を起点にしたものばかり。

「自分の子育てでは、子どもがやりたいと言ったものは極力否定しないようにしています。そうすることで子どもの興味の幅の広がり方がとても大きくなるように感じています。
子どもにはもっと自由に考えてほしい、もっと好きに動いてほしいという気持ちがこのプロジェクトにも重なりました。自分のアイディアが形になる達成感=成功体験を積み重ねが成長につながるんだと思います」
「できないこと」を数えるのではなく、「子どもが何に目を輝かせているか」を観察する。電車、虫、お絵描き……一見、勉強に関係なさそうなことでも、その「好き」を掘り下げる力が、学びのエンジンになるのではないでしょうか。
・「できない」から始めるより、「気になる」「好き」から始める。
・好奇心は、学びを続ける燃料になる。
「正解を探さない」という選択——「どうして」「どうしたいか」から始める力
現代社会では、誰もが無意識に「正しい答え」を求めがちです。それは大人だけでなく、テストや習い事、日々の声かけを通して、子どもたちにも伝わっていきます。
「間違えたらどうしよう」「大人が求めている答えは何だろう?」失敗を避け、期待に応えようとするあまり、自分の考えよりも「正解らしさ」を探してしまう——
しかし、ヨコク式に参加した学生の一人は、インタビューでこう振り返っています。 「これまでは、役割を果たさなければ誰かに迷惑をかけると思って動いていました。でも、ここでは本音や違和感を出し合い、共感し合いながら動くことができたんです」と。
じつは、ヨコク式の場には、あらかじめ用意された「正解」はありませんでした。これは、主催者側がもっていた理念やビジョンが、色濃く反映されたものでした。

コクヨ新卒採用ユニットの川端さん(左)と櫻木さん(右)
「私たちコクヨでは『自律協働社会の実現(= 自律した個人が互いを認め合って協働することで新しい価値が生まれてくる社会)』を掲げています。だからこそ、変化のなかでも個人が『何のためにやるのか』を考え続けることが大切です」
「学生にも “自分らしさ” を出すこと “自分がしたいこと” を考えることで、自分の可能性に気づき、成長していってほしい。それが、すべての企業や社会にも役立っていくはずです」
正解に合わせることよりも、「自分はどうしたいのか」「何に意味を感じているのか」を問い続けること。ヨコク式は、その姿勢を学生たちに体感してもらう場でもあったのです。
この考え方は、家庭での子どもとの関わりにも通じます。子どもが多少突拍子もないことや、親の価値観と違うことを言っても、「へえ、あなたはそう思うんだね! 面白いね」と受け止めてみてはいかがでしょう。
・「正解を出す」場より、「正解を探さなくていい」場をつくる。
・答えが決まっていないからこそ、自分で考え始める。
家庭でできるミニ “ヨコク式” 実践
ヨコク式を通して見えてきたのは、「何を教えるか」ではなく、どんな場を用意するかでした。
学生たちが動き出したのは、正解を示されたからでも、役割を与えられたからでもありません。「正解を探さなくていい」「意味を自分で考えていい」——そうした場が用意されていたから。家庭にもそのまま置き換えられるよう、こどもまなび⭐︎ラボ編集部でまとめてみました。
① すぐに教えなくていい —— 考える時間を残す
子どもが困っていると、「こうすればいいよ」「先にこれやろうか」つい口や手が出てしまいますよね。でもヨコク式では、あえて先回りをしないことを大切にしていました。少し迷う時間があるからこそ、「どうしよう?」と考え始めるからです。
家庭でも、すぐに答えや手助けを差し出すのではなく、子どもが考え始める「間」を残しておく。その時間が、考える力の土台になっていきます。
② 「苦手を埋める」より「いまハマってること」を見る
「これが苦手」「まだできない」気になることはたくさんあります。でも、代わりに大事にしたいのが、「いま、何が楽しい?」「何にワクワクしてる?」という視点です。
ゲーム、虫、電車、お絵描き…勉強に見えなくても、夢中になっていることには理由があります。「できない」を直すより、「好き」を伸ばす。そのほうが、学びは長く続いていきます。
③ 正解を探さず、その子の意思を受け止める
「それ、違うんじゃない?」「将来役に立つの?」正解を教えたくなる場面はたくさんあります。でもヨコク式では、正解を決めない場が用意されていました。だからこそ、学生たちは自分の考えを言葉にできたのです。
家庭でも、子どもがちょっと変わったことを言ったとき、「へえ、そう思ったんだね」「面白いね」と返してみてください。答えがなくても大丈夫。自分で考えていいんだと思えたとき、子どもは一歩前に進みます。
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ヨコク式の本質は、「正解を教えること」ではありません。すべての障害を取り除くことではなく、自分の意思を、自分の言葉で語る時間を残すことでした。親にできることも、同じかもしれません。
迷い、立ち止まりながらも自分で考えた経験は、たとえ小さなものであっても、その子の中に確かな手応えとして残ります。
家庭のなかで積み重なる、ささやかな「ヨコク(自分の意志)」。その一つひとつが、変化の大きな時代を生きるための自分で選び直せる力につながっていくのではないでしょうか。
【参考情報】
コクヨ株式会社|コーポレートサイト
ヨコク式プレスリリース









