教育を考える 2025.1.26

「失敗」も「個性」もすべてが自分。親の “あの声かけ” が「本来の自己肯定感」を育む

「失敗」も「個性」もすべてが自分。親の “あの声かけ” が「本来の自己肯定感」を育む

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近年の子育ての場における重要なキーワードのひとつが、自己肯定感です。しかし、自己肯定感ブームをつくった第一人者として知られる心理カウンセラーの中島輝さんは、「自己肯定感を誤解している人も多い」と語ります。中島さんが考える「本来の自己肯定感」を解説してもらうと同時に、子どもの自己肯定感を育むうえで注意が必要な「時期」についても解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

「ポジティブもネガティブもひっくるめて自分」だととらえる

ここ数年のあいだに、「自己肯定感」という言葉は一般の人たちにもすっかり浸透したようです。それこそ子育て中の親御さんであれば、自己肯定感という言葉を知らない人はほとんどいないかもしれません。しかし私は、自己肯定感について誤解をしている人も少なくない印象をもっているのです。

一例を挙げると、たとえば「いつも明るくて積極的な目立つ子」は自己肯定感が高くて、「いつも物静かで消極的な目立たない子」は自己肯定感が低いというような誤解です。でも、前者のような子の自己肯定感が低く、後者のような子の自己肯定感が高いことだってあるのです。

「子どもの自己肯定感を高めてあげたい」と考えると、つい「いつもポジティブでなければならない」という、いわば「ポジティブ至上主義」に陥りがちです。たしかに、ものごとをポジティブにとらえることは、自己肯定感を高めるために重要であることは間違いありません。

しかし、「いつもポジティブでなければならない」という考えに親が縛られてしまうと、子どもは息苦しくなります。なぜなら、「ネガティブになることが許されなくなる」からです。

親御さん自身のことを振り返ってみてください。みなさんそれぞれに長所も短所もあるはずですし、これまでの人生には、成功体験によりポジティブな気持ちになったこともあれば、大失敗してネガティブな気持ちになったこともあったはずです。ポジティブなこともネガティブなこともすべてをひっくるめて、自分というひとりの人間であり、人生なのです。

ですから、本来の自己肯定感とは、「自分には苦手なことや短所もあるけれど、それも含めて自分なんだ」というふうに、「あるがままの自分」をそのまま受け入れ、そのうえでしっかりと自立して人生を歩んでいける力のことを指すのです。

芝生の上で座って笑っている親子

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小学校2、3年生の時期はとくに注意が必要

そのような、本来の自己肯定感を子どものなかで育んでいくうえで、注意しなければならない「時期」があります。それは、「小学校2、3年生」の時期です。なぜなら、この頃の子どもには、「自分と他人を比較する」ことが増えてくるからです。

2、3年生になると、たとえば算数なら九九や割り算、分数など、1年生までと比べて学習内容の難易度が大きく上がりはじめます。ほかにもクラブ活動がはじまったり、家庭によっては学習塾に通わせはじめたり、習い事を増やしたりすることもありますよね。

すると、子どもたちのあいだで成績の開きが1年生までよりも大きくなり、「僕はみんなより国語が苦手だ」「一緒に習い事をはじめたのに、〇〇ちゃんのほうがずっと上手になっている」というように、他人と比較する機会が急増するのです。

先にもお伝えしたように、苦手なことや短所といったネガティブな面があることは悪いことではありません。しかし、他人と比較することが増えると、自分のネガティブな面を受け入れられず、「自分はみんなとちがって、ダメな人間なんだ……」というように、自己否定感を抱いてしまうリスクが高まるのです。

中島輝さんが机に座って説明をしている

努力というプロセスをほめ、成長志向をもたせる

ですから、この時期の子どもには、自己否定感にとらわれないよう親御さんから適切な声かけをしてあげてください。ここで、私がおすすめする声かけをいくつか紹介しましょう。

1. 「あなたの〇〇を見ているよ」
学習内容が難しくなり、習い事やクラブ活動をはじめると、失敗体験も増えていきます。でも、失敗から学べることだってたくさんあるはずです。そこで、「あなたが頑張ってきた姿を見ていたよ」といった声かけをすれば、子どもの目は努力してきたプロセスに向かいます。そうして、「失敗しても成長できる」「失敗も成長の一部だ」ととらえる成長志向が育まれ、自己肯定感が強化されます

2. 「大丈夫だよ」「次はうまくやれるよ」
シンプルなものですが、これもまた、子どもが失敗したときに有効な言葉です。なんらかの失敗をしたとき、子どもは「失敗しちゃった、どうしよう……」と失敗をネガティブにとらえています。そこで「大丈夫、きっと次はうまくやれるよ!」という言葉をかけられると、子どもは再チャレンジする勇気をもつことができます。

ただ、この言葉には注意も必要です。十分な努力をしていない段階でこの声かけをされると、子どもは「失敗してもいい」ことの意味を取り違えてしまい、「別に頑張らなくてもいいや」という思考をもちかねません。子どもを過度の楽観主義者にさせないよう、「大丈夫」という言葉は、子どもの努力をしっかり見たうえで使うよう心がけてください。

3. 「あなたの個性はすばらしいよ」
苦手なことや短所も、見方を変えれば「個性」と言えます。そのような見方をこの声かけでもたせてあげれば、子どもは自己否定しなくなるでしょう。たとえば、なにをするにもまわりより「動作が遅い」ことで自分をネガティブに見ている子には、「あなたはマイペースでじっくりと取り組めるよね」と伝えるといった具合です。

これらの言葉は小学校2、3年生以外の子にかけても有効なものですから、周囲と自分を比較して子どもが落ち込んでいるようなときには、積極的に使ってほしいと思います。

中島輝さんが窓辺に立っている

子どもの自己肯定感の教科書
中島輝 著/SBクリエイティブ(2024)
子どもの自己肯定感の教科書表紙

■ 心理カウンセラー・中島輝さん インタビュー一覧
第1回:「失敗」も「個性」もすべてが自分。親の “この声かけ” が「本来の自己肯定感」を育む
第2回:自己肯定感の高低は、親から子へ連鎖する? 「いいところ探しメモ」で自分を好きになろう
第3回:子どもの自己肯定感が下がったとき、親は “過度な心配” をしないほうがいい(近日公開)

【プロフィール】
中島輝(なかしま・てる)
茨城県出身。心理カウンセラー。作家。自己肯定感アカデミー代表。資格発行団体torie代表、一般社団法人自己肯定感学会代表。肯定心理学協会代表。心理学、脳科学、NLP等、とくにアドラー心理学を使い独自の自己肯定感理論を世に広め、126以上のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「自己肯定感アカデミー」や自立した生き方を探求する「輝塾」の運営等、広く中島流メンタル・メソッドを啓蒙し、「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感コーチング講座」「アドラーメンタルトレーナー講座」などを主催する。自己肯定感ブームをつくった第一人者。『自分を好きになる7つの言葉』(PHP研究所)、『自己肯定感を高めるインテリアブック』(朝日新聞出版)、『口ぐせで人生は決まる』(PHP研究所)、『繊細すぎる自分の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『立ち止まって休んでもいい』(学研プラス)など、著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。