いま、大学の入試方式として「総合型選抜(旧AO入試)」が増加傾向にあります。ただ、総合型選抜では活動報告書(ポートフォリオ)の提出が必要ということもあり、海外留学など「特別な体験」を子どもに積ませなければならないと考えている人も多いはずです。はたして、本当にそうなのでしょうか。20年以上にわたる総合型選抜をはじめとした特別入試の指導実績を持つ、日本アドミッションオフィサー協会理事/AOエキスパートPROの青木唯有さんに実情を聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
目次
「総合型選抜」の実際のプロセス
「総合型選抜(旧AO入試)」は、大学入試方式のひとつです。いわゆる一般選抜では、教科別のペーパーテストの得点によって合否を判定しますが、総合型選抜における合否の判定ポイントは、「アドミッション・ポリシー」と呼ばれる、大学(学部)が求める人物像とのマッチングです。
受験者がどのようなことに興味関心があり、入学後はどのような研究テーマを深めていきたいのか、さらに、その先の人生をどのように歩んでいきたいのか――。それらとアドミッション・ポリシーが合っているかが見られるのです。
具体的な形式としては、志望理由書のほか、これまでの活動や経験をまとめ、自分の強みやそれを大学での学びにどのようにつなげるかといったことをアピールする活動報告書(ポートフォリオ)などの書類を提出します。それらから、大学側はペーパーテストだけでは判断できない能力や資質について、アドミッション・ポリシーと照らし合わせながら見極めるのです。
そうした提出書類を通じて学問への適性や探究の深さが認められると、面接や小論文による二次審査に進みます。とくに面接は合否を左右する重要なプロセスで、提出書類を深掘りしながら、受験生の思考の深さや大学での適性を確認します。
近年、生成AIで提出書類を作成する受験生もいるそうですが、面接では「本人が本質的に考え抜いているか」が問われます。活動から得た気づきや大学での学びへのつながりを自分の言葉で語れるかが評価のポイントですので、いくら生成AIで見事な書類を作成しても、教授との対話を重ねるなかで思考の深さや本気度は見抜かれます。つまり、面接は大学が求める人財を見極める重要な審査なのです。

総合型選抜増加は、時代の要請
欧米の大学では、こういった選抜方式は「ホリスティック・レビュー」と呼ばれ、入試の基本的なかたちです。ただ、いまは日本でも総合型選抜が増加傾向にあります。その要因はさまざまですが、そのひとつとして、「『正解がない』と言われる時代」もあるでしょう。
かつての高度経済成長期のように、まだモノが不足していたりサービスが社会全体に行き届いていなかったりした時代には、とにかくモノをたくさんつくれば大量に売れました。つまり、「モノをつくればいい」という “正解” があったわけです。
ところが、時代は大きく変わりました。かつて多くの人が欲しがっていたモノは広く普及し、ただモノをつくっても売れない時代になったのです。そのような正解のない時代に活躍できるのは、自らの好奇心や想像力、根気強さ、推進力といった、ペーパーテストでは測れない能力を発揮し、まだ誰も気づいていないような新しい価値を提供できる人財です。
そして、大学側もそういった人財を欲しており、社会に送り出したいと考えています。なぜなら、少子高齢化がますます進むなか、「卒業生たちが社会でまったく活躍できていない」といった評価になれば、大学に学生が集まらなくなってしまうからです。大学そのものの評価や価値にかかわるという死活問題でもあるため、大学経営の観点からも、総合型選抜の増加は時代の要請だと言えるのではないでしょうか。

子どもが興味を示したことに没頭できる環境をつくる
その総合型選抜の判定ポイントは大学や学部により異なりますが、基本的にどの大学・学部でも重視されるのが、先にもお伝えした「入学後に深めたい研究テーマ」です。どのような活動や経験を経てその研究テーマに関心を持つようになったのか、そのプロセスのなかでどのような能力が耕されたのか、それらを大学での学びにどうつなげていきたいのかといったことが評価されます。
ただ、こう言うと勘違いしてしまう人も多いものです。みなさんのなかにも、総合型選抜で合格するには、たとえば習い事やスポーツで全国レベルの結果を残さなければならないとか、海外留学をしなければならないなど、「特別な経験」が必要だと思っている人がいるのではないでしょうか。しかし、それは勘違いです。たとえば、研究テーマに至るきっかけも、実際には本当に素朴で些細なことであってもまったく問題ありません。
以前に私が指導したある生徒は、散歩が好きでした。といっても、それこそ特別な場所を散歩していたわけではありません。いつも家のまわりなど近所を歩いていただけです。そこから、歩くこととクリエイティビティーとの関係性、あるいは街づくりとの関係性といったテーマに行き着きました。
また、幼い頃からいわゆる戦隊シリーズなどヒーローものが大好きだった生徒は、「人の命を守る」ことに強く惹かれました。そこから至ったテーマは、ドローンを使った災害救助活動です。
いかがでしょうか? みなさんが入試担当の大学教授ではなくとも、「なにそれ、おもしろそう」「ちょっと話を聞いてみたい」と思ったのではありませんか? そして、このことから言えるのは、総合型選抜のために特別な経験は必要ないということのほか、親が子どもの興味関心を削いではならないということです。
教育熱心な親御さんのなかには、勉強以外のことから子どもを遠ざけようと考える人もいます。でも、先にも挙げた好奇心や想像力、根気強さ、推進力といった力の多くは、誰かにやらされる勉強ではなく、子ども自身が好きなことに没頭するなかで培われるものです。ですから、子どもが興味をもったことを遮断するのではなく、むしろ没頭できる環境をつくってあげるのが親の役割ではないでしょうか。

『親が偏差値思考をやめれば、不思議なほどわが子は伸びる』
青木唯有 著/幻冬舎 (2021)

■ サマデイグループ統括プロデューサー・青木唯有さん インタビュー一覧
第1回:総合型選抜が増加中! 合格する子がもつ「ペーパーテストでは測れない能力」とは?
第2回:わが子の「非認知スキル」を伸ばす親が、子どもとの会話で気をつけていること(※近日公開)
第3回:非認知スキルを伸ばす家庭の3つの秘訣―総合型選抜3万人合格のプロが教えます(※近日公開)
【プロフィール】
青木唯有(あおき・ゆう)
サマデイグループ統括プロデューサー。民間教育機関で20年以上にわたり総合型選抜(旧AO入試)をはじめとする特別入試に特化した指導に携わり、早慶・国公立大学等、延べ3万人以上の合格指導実績を持つ。「非認知スキル」に関する東京大学との共同研究プロジェクトに参画。「大学受験で育む親子軸」や「偏差値では測れない不思議な学力」をテーマに、ブログや各種セミナーで受験生や保護者、教育関係者向けにオリジナルの見解を定期的に発信。現在は日本アドミッションオフィサー協会理事及び同協会が認定するAOエキスパートPROとして、企業・教育機関の研修プログラムの企画、開発を行っている。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。









