「この子、賢いねえ」
約10年間の教員生活のなかで、私がそう感じる子どもたち。意外かもしれませんが、それは必ずしも、「テストが得意な子」でもなく、先生の言うことをよく聞くいわゆる「いい子」でもありませんでした。
じつは、先生たちが「賢いな」と感じる子どもには共通点があるのです。
今回は、教室での何気ないエピソードを通して、私たち教師が感じている「本当の賢さ」についてお話ししたいと思います。きっと、お子さまの新たな魅力に気づくヒントが見つかるはずです。
先生たちが「賢い」と感じる子どもの5つの特徴
約10年間の教員生活で出会った数多くの子どもたち。そのなかで「この子は賢いな」と感じる瞬間は、意外にも思いがけない日常の場面で訪れることが多いのです。5つの特徴を見ていくと、それがテストの点数とは違う部分にあることがわかると思います。
特徴1:独自の視点をもっている
「春の学校探検はどうでしたか? 何か見つけましたか?」
2年生生活科での学習の場面です。この問いかけに対して、多くの子は「虫がいたよ」「チューリップがきれいでした」という無難な答えを返します。でも、ときどき、こんな答えが返ってくることがあります。
「チューリップ、この前はまだつぼみだったのにね」
「あったかくなってきたんだね」
「虫も嬉しそうにお花にたくさん集まっていたよ」
これは暗記した知識や、大人の期待に応えようとする発言ではありません。自分の目で見て、自分なりに考えた素直な感想です。
こんなふうに、誰も指摘していない些細な変化に気づき、自分なりの言葉で表現できる視点をもっている子はとても少数ですが、そういう子こそ「賢い」と感じます。
特徴2:「空気を読む」のではなく「状況を理解している」
「給食のとき、同じ班のAさんが元気なかったから、声をかけました。でも、今日はひとりで静かに食べたいって言うから、そっとしておきました」
3年生を担任していたとき、お昼休みにクラスの子がそう教えてくれました。一見、何気ない出来事の報告に聞こえます。でも、この発言には重要な要素が含まれています。「友だちを気づかう優しさ」と「その子の気持ちを受け入れる判断力」です。
「みんなで仲良く」が大切なのもわかる、そして、ときにはひとりの時間も必要だと理解できる。これは、単なる「いい子」の行動とは違う、深い思いやりの表れです。場の空気を読んで同調するのではなく、相手の気持ちを理解したうえで適切な判断ができる子は非常に珍しく、じつは彼らこそが本当の意味で「賢い」子どもたちなのです。
特徴3:「考える力」が育っている
算数の文章題を解くとき、多くの子は答えを見つけたらそこで満足してしまいます。一方で、「もっと別の解き方はないかな」「どうしてこうなるんだろう」と考え続けたり、それを友だちに説明したりする子がいるのです。
「先生、この問題の別の解き方を見つけました」
「Bさんの説明を聞いて、もっと簡単な方法を思いつきました」
問題をよく理解している子は、すばやく正解にたどり着きます。でも、その後もさまざまな角度から考え続け、より深い理解を目指そうとするのです。そういう子は、限られた授業時間を最後まで有効に使って学び続けています。
答えを見つけてからも、そこから更に「なぜ?」を追求し、友だちと一緒に考えを深められる――そんな「熟考型」の子どもたちこそ、本物の「賢さ」をもっているのだと実感します。
特徴4:知識の「つなぎ合わせ」ができる
「先生、前に習った漢字と似てるね」
「この計算、前の問題と似てる気がする」
教科書の内容を上手に暗記できる子はたくさんいます。でも、習ったことを自分の言葉で説明したり、以前の学習と結びつけたりできる子は、より深い理解に近づいていると言えます。
学びとの出会いのなかで、過去の知識と新しい知識をつなぎ合わせられる子は、じつは多くありません。しかし、こうした子どもたちのなかに、確かな「賢さ」を感じるのです。
特徴5:「なぜ?」を大切にしている
「先生、雨のあとにどうして虹が出るの?」
「どうして言葉は国によって違うの?」
4年生との休み時間の会話のなかで不意に出てきたこの何気ない質問。授業内容からは少しずれた質問かもしれません。でも、こうした素朴な疑問こそ、学びの原点です。与えられた日常を当たり前に受け入れるのではなく、自分で考える習慣は、とても価値があると思いませんか。
目の前のことをただ受け入れるのではなく、純粋な好奇心から「なぜ?」を発する子どもは意外と少なく、そんな素直な問いかけができる子こそが、確実に「賢く」育っていくのです。
要注意! 親が勘違いしがちな「賢さ」のサイン
「ごみの分別は大切だと思います。私も家でしっかり気をつけています」
「温暖化防止のために、エアコンの設定温度に気をつけたいです」
「食べ物は残しません。食品ロス問題のことを学んだからです」
特に高学年になると、こうした模範的な発言をする子どもを、大人は「賢い」と高く評価しがちです。確かに、学んだことをきちんと理解して実践しようとする子は「いい子」かもしれません。また、社会問題について関心をもっているように見えることから、意識が高いと感心する保護者も少なくありません。
しかし、こうした発言の多くは、授業や教科書で学んだ内容、または大人から聞いた言葉をそのまま覚えているだけかもしれないのです。テレビで見聞きした内容を、うまく引用しているだけの可能性もあります。
本当に大切なのは、その子なりの考えや気づきではないでしょうか。
「なんでプラスチックでも燃えるごみに入れるものがあるか調べてみよう」
「教室のエアコン、冬と夏で設定温度が違うよね」
「給食の野菜ってどこから届くのかな」
前出の意見と比べると、ときとして稚拙に聞こえるかもしれない、でも子どもらしい純粋な疑問や考察のほうが、その子の知的な成長を物語っています。なぜなら、これらの問いかけは、実際に目にしたことや体験したことから生まれた「自分ごと」としての思考だからです。
教室で出会う子どもたちを見ていると、立派な意見を言える子より、素朴な「なぜ?」を発する子のほうが、着実に考える力を育んでいると感じることが多いのです。知識をそのまま覚えるのではなく、自分の頭で考えようとする姿勢のほうが、はるかに価値があるのかもしれません。
本当の知性を育むために親ができること
子どもの「賢さ」は、大人が意図的に育てようとするほど、むしろ伸びにくくなってしまうものです。大切なのは、子どもの小さな気づきに寄り添い、のびのびと考えられる環境をつくること。そのために親ができる3つのポイントをご紹介します。
【親ができること1】子どもの「違和感」を大切にする
「おかしいな」「なんでだろう」――子どもが感じる小さな違和感。それは新しい発見の種です! でも、つい私たち大人は「そうじゃなくて、こうだよ」と正解を急いで教えてしまいがち。そんなとき、こんな言葉をかけてみてはどうでしょうか。
- 「どうしてそう思ったの?」
- 「〇〇ちゃんなりの考え方があるんだね」
- 「そうやって考えるのは、おもしろいね」
- 「その考え方は、お母さん(お父さん)も思いつかなかったよ!」
子どもの「違和感」に寄り添うことで、考える力は着実に育っていきます。大切なのは、子どもなりの「なぜ?」を否定せず、むしろその気づきを認めてほめること。たとえ、大人から見ると筋違いな疑問でも、子どもの思考の芽を育てるチャンスだと考えてみましょう。その小さな「違和感」こそが、やがて創造性や探究心につながっていくのです。
【親ができること2】「正解」を求めすぎない
学校のテストには確かに正解があります。でも、生活のなかのさまざまな場面では、必ずしもひとつの正解があるわけではありません。むしろ、答えが複数あることのほうが多いのです。そんなときは、こんな言葉をかけてみましょう。
- 「そうかもしれないね」
- 「違う考え方もできそうだね」
- 「その方法でうまくいったね。ほかのやり方も試してみる?」
- 「正解じゃなくても、よく考えたね」
大切なのは、子どもが自分で考えるプロセス。必ずしも「正解」にたどり着かなくても、考える過程で気づきや学びがあれば、それは十分価値のあることです。子どもの柔軟な発想を認めることで、思考の幅は着実に広がっていくのです。
【親ができること3】「考える時間」を確保する
習い事や学習で忙しい毎日。「少しでも多くの経験を」と、つい予定を詰め込んでいませんか。じつは、ソファーでぼんやりしたり、ただ積み木を並べたりといった「何もしていないように見える時間」も、子どもの知性を育む大切な栄養になります。そんな時間を大切にするために、こんな声かけを意識してみましょう。
- 「今日は何して遊びたい?」
- 「急がなくていいよ。ゆっくり考えてみよう」
- 「自分の好きなようにつくってみたら?」
- 「つまらなそうにしているけど、何か考えごと?」
スケジュールに追われるのではなく、「ただボーッとする時間」「じっくり考える時間」「夢中になれる時間」を確保することが、子どもの思考力を育てる重要な土台となるのです。
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これからの時代に必要な「賢さ」とは? 知識を詰め込み、テストで高得点をとることは、確かにひとつの力です。でも、これからの時代に本当に必要なのは、自分で考え、気づき、新しいものを生み出していく力ではないでしょうか。
その意味で、子どもの素直な疑問や、ときには大人の予想を超えた発想にこそ、未来につながる「賢さ」の芽が隠れているのかもしれません。
私たち大人にできることは、その芽を見つけ、そっと育んでいくこと。そして、子どもたちが自分らしい「賢さ」を伸ばしていけるよう、温かく見守っていくことなのだと思います。
未来先生(みらい・せんせい)
教育学科で学び、小学校免許や中学校英語免許を取得。小学校にて担任や英語専科教員として約10年間勤務、子どもたちの学びを支えてきました。現在は、2人の男の子の育児に奮闘しながら、これまでの知識と経験を生かして、子どもの成長と学びに役立つ情報をお届けしています。