子どもの「体力低下」について、テレビや雑誌などメディアで大きく取り上げられるようになってから、すでに15年以上が経とうとしています。
その後、子どもの体力について国を挙げての取り組みが行なわれ、低下傾向に歯止めがかかり若干の向上がみられるようになったようですが、「体力向上」を目的にした取り組みは今でも行われています。
そもそも「体力」とは、具体的にどんな力を指すのでしょうか。体力が低下することで子どもたちにはどのような影響があるのか、体力をつけるにはどんなことに気をつければいいのかを解説します。
現代の子どもは、親世代が子どもだったころに比べて体力が低下している
子どもの体力低下について、「現代の子どもたちは、親が子どもだったころに比べて体力が低下している」ということが引き合いに出されます。
平成14年の中央教育審議会において出された「子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)」では、文部科学省(当時、文部省)が昭和39年から行なっている「体力・運動能力調査」の結果から次のことを指摘しています。
平成12年の結果を親の世代である30年前の昭和45年調査と比較すると,ほとんどのテスト項目について,子どもの世代が親の世代を下回っている(図1-2)。
(引用元:文部科学省|子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)II体力の意義と子どもの体力低下の原因、1子どもの体力の現状と将来への影響、(1)子どもの体力の現状)
[親の世代と子の世代の比較]
図1-2 持久走(女子)
(画像引用元:文部科学省|子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)II体力の意義と子どもの体力低下の原因、1子どもの体力の現状と将来への影響、(1)子どもの体力の現状)
(注)数値は、移動平均をとって平滑化してある(移動平均:グラフ上のばらつきを少なくするため、 ある数値に前後の2数値を加えた数を3で割った値)
この答申では「体力・運動能力調査」から、子どもの体力や運動能力は、昭和39年の開始から昭和50年にかけて向上したものの、続く約10年では停滞し、それより後は低下が続いていると報告しています。国が「子どもの体力向上」を掲げるきっかけとなったのは、子どもの「走る」「跳ぶ」「投げる」といった運動能力の全体的な低下が背景にあったのです。
さらに、「体力低下」は運動能力だけにとどまらず、子どもの健康にも影響を及ぼしていました。学校の全校朝礼で気分が悪くなって倒れたり、授業中に姿勢よく座っていることができずに机に突っ伏していたりする子が増え、肥満傾向の子どもも増えて高血圧や高脂血症など生活習慣病のリスクが懸念されるようになったのです。
向上すべき「体力」とは、どんな力のこと?
「体力」と聞いてイメージするものは、人によっていろいろで、プロスポーツやオリンピックの選手が鍛えている並外れた運動能力かもしれませんし、年齢や老化を感じさせないスタミナかもしれません。また、病気にかかりにくい元気な体を維持するためにも「体力」は必要不可欠です。
先に挙げた「子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)」では、子どもの体力向上の目標として、「運動をするための体力」と「健康に生活するための体力」という、2つの「体力」について記されています。
- 運動をするための体力
- 健康に生活するための体力
体力・運動能力調査における全体の平均値を低下傾向から上昇傾向に転じ、当面これまでの最高値を超えることを目指す。
生活習慣病につながる要因に関する値(高血圧者の割合など)や生活習慣病にかかっている者の割合を現在より下げていくことを目指す。
つまり「体力」とは、「走る」「跳ぶ」「投げる」といった運動に必要な能力だけでなく、「高血圧」や「生活習慣病」のリスク低下やストレスへの抵抗力、インフルエンザや感染症にかかりにくい健康な体づくりに欠かせない基礎体力も含まれています。
子どもたちの「体力」が低下した背景とは?
子どもの体力がなぜ低下したのか、その原因については次のような指摘があります。
- 外遊びやスポーツの重要性の軽視など国民の意識の低下
- 子どもを取り巻く環境の問題
- 生活が便利になるなど子どもの生活全体の変化
- スポーツや外遊びに不可欠な要素(時間、空間、仲間)の減少など
- 就寝時刻の遅さ、朝食欠食や栄養のバランスのとれていない食事など子どもの生活習慣の乱れ
(引用元:特定非営利活動法人 NSCAジャパン|子どもの体力の現状と課題)
受験勉強の低年齢化などスポーツよりも学力を重視した世の中の流れ、テレビやテレビゲームの時間の増加、エスカレーターやエレベーターなどの移動手段や家事が便利になる家電の普及などによる生活の変化。そして、ボール遊びを禁止したり遊具を撤去したりして遊び場として機能しなくなった公園、少子化による隣近所の子どもの数の減少、食生活や生活リズムの変化など多岐にわたり複雑に入り組んだ社会的な要因が背景として考えられます。
子どもたちの「体力」の向上に必要なことは「よく食べ、よく動き、よく眠る」
体力低下の背景にある要因をひとつずつ取り除いていけば、再び以前のようなレベルまで子どもの体力を戻せるかもしれませんが、時代を逆戻りするような方法は現実的ではありません。
子どもたちの「体力」を向上させるために必要なことは、専門家による筋力トレーニングやクラブチームへの入会などの前に、まずは「よく食べ、よく動き、よく眠る」ことを家庭で徹底させることだと文部科学省は先の答申で提言しています。
●よく食べ
体づくりに大切な「食事」は、栄養バランスを考えた献立で1日3回規則正しく摂るようにします。よく噛むことを意識し、家族や友だちと一緒に食べて楽しい時間を過ごせるよう心がけます。
●よく動き
骨や筋肉を強くするために、積極的に体を動かします。子どもは1日60分以上、遊びながら楽しく体を動かす時間を確保するのが目標です。
●よく眠る
睡眠は、心や体の疲れを回復させ、病気を早く治し、病気にかかりにくくする力(免疫力)を上げます。「寝る子は育つ」です。体力づくりには良質な休息が欠かせません。
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子どもの体力がピークだった昭和60年ごろと比べ、生活が便利になった分、失われてしまった良い部分もあることを認識し、意識的に対策を講じることで体力の向上は期待できそうです。
かつての体力自慢も大人になってからの運動不足を感じているのではないでしょうか。子どもと一緒に体力づくりを心がけて親子で「よく食べ、よく動き、よく眠る」を実践できるといいですね。
(参考)
子供の体力向上ホームページ|子供の体力の現状
NU+ニュータス|子どもの体力が落ちているってホント? じつは奥深い体力の秘密
文部科学省|子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)II体力の意義と子どもの体力低下の原因、1子どもの体力の現状と将来への影響、(1)子どもの体力の現状
特定非営利活動法人 NSCAジャパン|子どもの体力の現状と課題
文部科学省|幼児期運動指針ガイドブック