からだを動かす/スポーツ 2018.3.22

ジュニア選手を指導する宮﨑義仁さん【元卓球日本代表】に聞く、子どもの“やる気スイッチ”を入れる方法

ジュニア選手を指導する宮﨑義仁さん【元卓球日本代表】に聞く、子どもの“やる気スイッチ”を入れる方法

37歳まで現役選手として活躍されていた宮﨑義仁さんは、引退後に和歌山県で卓球教室を立ち上げます。立ち上げから6年後、見事にチームで日本一に輝きました。そこから日本代表監督を経て、JOCエリートアカデミーの総監督としてジュニア選手の指導に注力し、現在は強化本部長として日々忙しく過ごしています。

指導者として多くの子どもたちと接してきただけではなく、卓球選手として活躍されたふたりのお子さんを育てた経験も含め、子どもが自らやる気を出し、ものごとに積極的に取り組もうと思えるようにするためにはどうすればいいのかという、子どもの成長を手助けする方法を聞きました

親が一所懸命な姿を子どもに見せる

――宮﨑さんが指導される現場に訪れた際、だんだんと子どもたちが熱を持って練習を頑張るようになっていく光景を見ました。子どもがものごとに対して自主的に頑張るために、宮﨑さんが指導をされるうえで気をつけていることはありますか?

宮﨑さん
子どものやる気を引き出すためのポイントですね。それは第一に、指導する人間の姿勢があると思います。たとえば、学校指導で短い時間を使って卓球を教える機会もあるのですが、そのときは必ず「卓球が楽しくなるように、上手になるようにしっかり教えるよ!」という熱い気持ちを持って接します。

そういうパワーを最初は子どもたちもわからないかもしれませんが、わたしと「こうやってみよう」「ああやってみよう」と一緒に取り組んでいくうちに、わたしが発しているパワーを肌で感じてくれるようになる。そうすると、だんだん一所懸命頑張ってくれるようになります。ですから、指導者が熱を持って接することが大切なポイントだと感じます

――まずは、大人が一所懸命な姿を見せるということですね。
そうです。わたしの娘も卓球をやっていましたが、わたしが現役選手で頑張っているところを見ていましたし、毎日休まずに早朝ランニングをしていた姿も見ています。でも、だからといって「お父さんのように早朝ランニングをやりなさい」ということを言ったことはありません。「他の選手はどうしている」とか「自分はこういうことに取り組んでいる」という話はもちろんしますよ。でも、「それをやったほうがいい!」「やりなさい!」ということは言わないように意識していました

わたしのふたりの娘が中学校に進学するとき、彼女たちは「明徳義塾に入りたい」と言ったんです。当時は、次女の学年に女子生徒はいませんでした。わたしの娘が入学すると、彼女ただひとりだけという状況です。それでも「卓球が強くなりたいから行きたい!」と言うじゃありませんか。そこまで言われたら、わたしも反対はしませんよね。

明徳義塾中学校・高校に行くと、朝は5時半に起きて朝練をしてから授業を受けて、また練習という生活。この生活を高校卒業までの6年間に渡って娘は続けていましたが、「苦しい」とか「辛い」と言ってくることは一度もありませんでした。その後も自分の意志で卓球を続け、長女のほうは社会人選手としてクラブチームをクラブ日本一に導く選手にまでに成長しました。

また、張本智和選手(2018年1月の卓球全日本選手権において、14歳で史上最年少優勝を飾った)のこんなエピソードもあります。以前、ナショナルチームにいた6、7人の選手のなかに張本選手もいたのですが、みんなで手首の強化のために逆立ちに取り組むことになりました。

そのなかで、張本選手だけはまったく逆立ちができなかった。それが彼は悔しかったのでしょうね。次の日から誰に言われたわけでもなく、最初は指導者の手を借りながら、自主的に練習前、学校に行く前と毎日のように逆立ちの練習をしていました。すると、3カ月後には普通に逆立ちができるようになって、さらにその3カ月後には逆立ちのクオリティを高めて一発で完璧に逆立ちができるようにまでなっていました。

わたしの娘も張本選手も、誰に強制されたわけじゃありません。自ら「やる気」を見せて実行したのです。大人は、自分が持っている熱量や情報をあくまでもヒントとして与えること。それに子どもが刺激を受けて、「やりたい」と言ってやり出したりしたときにはとことん付き合って、サポートしてあげればいいんです


強制せずに、ヒントを与えて子ども自らの「やる気」が出るのを待つ。「やる気」が出たらとことん付き合うことが大切だと宮﨑さんは言います

ヒントや情報を与えたらあとは見守る

――子どもがやる気を出すために親ができることは、子どもが自分から「やりたい」と言い出すようなヒントや情報を与え続けること。それは、とても我慢が必要ですね。

宮﨑さん
親が出したヒントに気づくまでは、我慢して手伝わないことも非常に大事です。たとえば、「あのオリンピック選手は早朝ランニングをやって強くなったんだって。おまえもやってみよう」と言って子どもにやらせても絶対に強くならない。ところが、「あのオリンピック選手は早朝ランニングをして強くなったらしいよ。そうやって頑張ったから夢がつかめたんだね」という情報を与えておいて、子どもがそれを聞いて自分で早朝に起きて走りはじめれば、必ず結果がついてきます。

子どもが早朝ランニングをはじめたら、「自分で起きて走ったの? 凄いね! じゃあ朝ご飯に好物をつけよう!」なんて言ったら、子どもは嬉しくてまた頑張れますよね。手取り足取り手伝ってはいけないけれど、ヒントや刺激を与えることは親が子どもにできる最大のサポートですから。ヒントを与えたら、まずは見守ってみる。それはやはり、とても大事なことです。

子どもが自主的に取り組もうと思うような準備をしてから、そっと「やる気スイッチ」を押してあげればいい。たとえば、家に卓球のラバーのカタログをこそっと置いておいて、それを見た子どもが自分から「お母さん、このラバーを使ってみたいんだけど」と言ってきたら、少しだけ条件を与えてラバーを買ってあげましょうよ。条件をつければ、それをクリアするために子どもは努力しますからね。ましてや、そこまでして買ってもらったラバーなら大事にするでしょう。そして、また練習を必死になって頑張るという好循環に入れます。

そんな風にして、うまく子どもが自主的に動くように仕向けてあげてほしいのです。その繰り返しで、子どもは自主性が育っていき親離れしていきますし、親も子離れできるように感じます。寂しいことではありますが、いずれ子どもは親から離れていきます。親は子どもが親離れするタイミングがいつ訪れてもいいように、その覚悟を持って子どもと接することも大事なことかもしれません


山形県天童市の小学校で研修を行う宮﨑さん。生徒たちが真剣に聞き入っているのは、宮﨑さんの情熱が伝わっているからこそ


宮﨑さんは、子どもの親離れ、親の子離れも子育ての重要なポイントだと話します

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子どもと同じ熱量を持って子どもと接することが大切ですが、親はヒントを与えるだけで手伝ってはいけない――宮﨑さんはそう説きます。大人になると、「こうしたらこうなる」という経験を持っていますから、どうしても子どもを手助けしてしまいがちですよね。

でも、あくまでも「やる気スイッチ」を軽く押してあげればいいのです。もしくは、スイッチを押さず見守るだけでもいいのかもしれません。そのスイッチに気づき、子どもが自分でスイッチを押せるようになったなら、もっといいですよね。

■ 元卓球日本代表・宮﨑義仁さん インタビュー一覧
第1回:習い事としての卓球~頭の回転が速くなり、反射神経が向上~
第2回:子どもの“やる気スイッチ”を入れる方法
第3回:【夢のつかみ方】~突き抜けるまでやり抜くことで結果がついてくる~

【プロフィール】
宮﨑義仁(みやざき・よしひと)
1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校〜近畿大学〜和歌山銀行。長崎市立淵中学校に入学後、卓球部の友だちが教室で卓球をやっているのを見て、「楽しそうで自分もやりたい」と思い卓球部に入部。高校時代は九州地区で活躍し、大学時代に全国区、社会人になった以降は世界でも活躍。1985年の世界卓球選手権では団体3位、シングルス5位、ダブルス5位という成績を残した。1987年の世界卓球選手権ではシングルス9位、ダブルスで5位となり、1988年のソウルオリンピック日本代表権を獲得し出場。翌年の1989年に一度現役を引退し、ナショナルチームの男子コーチに就任。ナショナルチーム女子監督を経て、1991年には現役に復帰し37歳までプレー、2001年まで和歌山銀行総監督として活躍を続けた。同年に引退後は、ナショナルチーム男子監督に就任。2012年のロンドンオリンピックまで監督を務める。同年10月からJOCエリートアカデミー総監督となり、次世代のジュニア育成に力を注いでいる。試合のテレビ解説も行っており、分かりやすい解説が好評。公益財団法人日本卓球協会常務理事。

【ライタープロフィール】
田坂友暁(たさか・ともあき)
1980年生まれ、兵庫県出身。バタフライの選手として全国大会で優勝や入賞多数。その経験を生かし、水泳雑誌の編集部に所属。2013年からフリーランスとして活動。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆。また映像撮影・編集も手がける。『スイミングマガジン』で連載を担当する他、『DVDレッスン 萩原智子の水泳 基礎からチャレンジ!』、『DVDレッスン 萩原智子のクロール 基礎からチャレンジ!』(ともにGAKKEN SPORTS BOOKS)、『呼吸泳本』、『明日に向かって~病気に負けず、自分の道を究めた星奈津美のバタフライの軌跡~』(ベースボール・マガジン社)などの書籍も多数執筆。