「ストレスコーピング」という言葉を聞いたことはありますか? 簡単に言うと『日常生活でストレスを感じたときに、そのストレスと上手に向き合うための技術や能力のこと』を意味します。最近ではビジネスの現場でも取り入れられるほど、注目を集めているストレス対処法です。
そして、その手法は、小さな子どものストレスに対しても充分に活用できるといいます。繊細でストレスを抱えやすい子、我慢強くてストレスを溜め込んでしまう子、心の不調を言葉にできない子……。幼いうちはまだストレスへの対処法がわからず、うまくストレスと付き合っていくことも、解消することもできません。
だからこそ、親子で一緒に「ストレスコーピング」を学び、日常で活用していきませんか?
ストレスのしくみを知ろう
ストレスに対処する方法を身につける『ストレスコーピング』は、練習することで確実に上達するといいます。仕事や家庭の問題に悩む大人だけではなく、気づかないうちにストレスを抱えてしまいがちな子どもたちにとっても、心身の健康を維持するために身につけておきたいスキルです。
まず、ストレスについて考えてみましょう。ストレスとは「何かしらの外部からの刺激で心身に負担が生じるもののこと」を指します。そしてストレスは、次の3つの要素で構成されています。
- ストレッサー(ストレスの要因)
- 認知(物事の捉え方)
- ストレス反応(身体や精神に影響が出る)
心身の疲労、環境の変化、人間関係の悩みなど多岐にわたる
ストレッサーに対して、それをどの程度脅威に感じるかでストレス状況が変わる
ストレスを認知してその状況が続くことにより、心身がその防衛に耐えきれなくなりさまざまな症状を引き起こす
幼い子どもたちにとっても、ストレスの要因はさまざまです。お友だちとケンカした、わがままが通らない、しゃべりたいのに我慢しなきゃいけない、みんなにバカにされた、テストの点数が悪かった……。ただし、同じ出来事が起きても、クヨクヨと気に病んで落ち込む子もいれば、まったく気にしない子もいます。
重要なのは、我が子がどのようなときにストレスを感じるのか、ということ。そして、それをすばやくキャッチして、心理的・身体的な負担を減らすためにどのように対処したらいいのか、ということです。
『ストレスコーピング』は、認知の方法に働きかけることで感情などに変化をもたらし、ストレス対処能力を向上させます。感情論ではなく、あくまで合理的にストレスに対処するというこの手法は、子どもが成長してから自分自身でストレスを乗り越えるときにも役立つでしょう。
ストレスコーピングとは?
ストレスコーピングは、大きく3つに分けられます。
- 「問題焦点型」
- 「情動焦点型」
- 「ストレス解消型」
ストレッサー自体に働きかけ、問題を解決しようという考え方。ストレッサーに直接働きかけることでストレッサーを変化させ、問題となっている点や課題を明確にする方法。
ストレッサーによって、傷ついたり悲しんだりした感情を誰かに話すことで表出させる。気持ちを相手に聞いてもらうことで、感情を整理したり発散させたりする方法。
ストレッサーを感じたときではなく、感じてしまった後にストレスを身体の外へ追い出したり、発散させたりする対処法。無意識に行っていることも多い。
小さなお子さんには、2の「情動焦点型」と3の「ストレス解消型」が取り入れやすいでしょう。
傷ついた気持ちを言語化する「情動焦点型」を取り入れてみよう
みなさんも、気のおけない友人や家族に、嫌だったことや悲しかったことを話してスッキリと気持ちが晴れた経験があるはずです。しかし、うまく言葉にできない年齢のお子さんや、気持ちを言語化するのが苦手なお子さんの場合、聞き出すことは難しいですよね。洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの伊藤絵美先生によると、そんなときは「行動観察」をしてみるといいそうです。
■声かけの例
「最近よく○○しているみたいだけど、どうしたの?」
「こういうときによくお腹が痛いって言っているけど、どうしたの?」
■声かけの注意点
「だいじょうぶ?」と聞くのではなく、「困っていることはある?」と子どもが訴えやすいように話しかけるのがコツです。子どもが話し始めたら最後まで聞き役に徹し、決して話を遮ることはしないように。気持ちを受け止めてあげるだけで充分です。
もし余裕があれば、一通り話し終わったあとに「これからどうするか」について話し合ってみましょう。子ども自身に今後の方向性を決めさせることで、決断力や自信にもつながります。
ストレスを外へ発散させる「ストレス解消型」を取り入れてみよう
注意すべき点は、生き物を傷つけたり物を壊したりする発散法は「絶対にダメ」と教えること。子どもがイライラして自分より弱い人物や物に当たってしまうようなら、「石は投げたらダメだけど、クッションならいいよ」などの代替案を提案してみましょう。
また、大人でも、一心不乱に野菜をみじん切りにしたり、頭の中を空っぽにして洗面台の汚れが取れるまでひたすら磨き上げたりしたあと、モヤモヤした気持ちが解消された経験がある人も多いはず。それは、ストレスコーピングの手段として子どもにも充分応用できます。
たとえば、一枚のティッシュやいらない紙を用意して、できるだけ細かく、手でちぎります。手を使って細かな単純作業をすることが、嫌な気持ちや不安を治めるのに役立つというわけです。
ストレスから自分を助ける「ストレスマネジメント」ができれば、大人になってからもストレスと上手に付き合っていくことができます。認知行動療法においても、小さいうちから『ストレスコーピング』を練習することで、より効果が期待できることが実証されています。ぜひ親子で取り入れてみてくださいね。
今すぐできる! 親子でストレスコーピング
ほかにもいくつかのストレスコーピングの方法をお教えします。
◉頭の中で楽しい計画を立てる
明日のことでも遠い未来のことでも、実現可能なものでも壮大な夢でも、なんでも自由に計画します。
「バスタブいっぱいにゼリーを作る!」
「運動会のかけっこで一番になる!」
「宇宙旅行に行って宇宙人と友だちになる!」
楽しい未来を想像することで、ストレスに心がとらわれなくなります。
◉頭の中で自分を励ます
落ち込んでいる自分、悲しみに打ちひしがれている自分、やる気が出ない自分など、頭の中でイメージします。そしてもう一人の自分がその子に声をかけるところを想像してみましょう。
「それはとても悲しかったね。つらいね。でもそんなに自分を責めなくてもいいよ」
「前に失敗したことを思い出して動けずにいるんだね。でも大丈夫。きっとうまくいくから勇気を出して」
自分が言われたい励ましの言葉をかけてあげることで、実際にお友だちを励ますときにも温かい言葉が出てくるようになります。
◉ストレス反応を体験する練習をする
まだ経験していないことでも、自分がその状況に置かれていることを想像してみると、心の動きを言葉で表現する訓練にもなります。
「お友だちのAちゃんが別のお友だちの悪口を言ってきた」
「授業中ふざけていた子を注意したら、先生から自分も一緒に騒いでいると思われて怒られた」
「誕生日なのに『おめでとう』と言ってもらえなかった」
このような状況を想像して、どんな気分になるか言葉にしてみるのです。
また、日頃から自分の中で起こっている変化や変調をとらえて言語化する訓練をしましょう。小さいうちは親が「これはこういうこと?」と助け船を出してあげます。「嬉しい」「楽しい」以外の複雑な心の動きにも敏感になるように、たくさんの経験をさせてあげるといいですね。
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ストレスコーピングは繰り返し練習することで上達します。最初のうちは親子で一緒に、次第に子どもだけでもできるようになれば、ストレスとうまく付き合っていけるようになるでしょう。
(参考)
BIZHINT|ストレスコーピング
CANVAS|5分で理解!ストレスコーピングとは?分かりやすく解説します
Z-SQUARE|子どものストレス対処法(1)
LEE|子どももストレスを抱えてる?! 親子でコーピングを学んでストレスフリーに