教育を考える 2018.7.11

道を志したときの「ワクワクした気持ち」を大切に~漫画原作者・鍋島雅治さん~

道を志したときの「ワクワクした気持ち」を大切に~漫画原作者・鍋島雅治さん~

漫画原作者として活躍する鍋島雅治さんは、高校卒業後、一度、社会に出て働いた後に大学へと入学。そこから、修行を積み漫画原作者となりました。また、現在は大学で教鞭をとるなど漫画家・漫画原作者の育成も手がけています。近著『運は人柄』(角川新書)にもまとめられた、数奇な自らの人生。そして、ときに漫画界だけではなく他の業界でも通じると評価され、講演なども依頼される育成メソッド。そのふたつの切り口から、夢をつかむうえで大切なことについて話を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/田澤健一郎

道を志した「初心忘れるべからず」
ワクワクした気持ちを持ち続ける大切さ

漫画原作者の鍋島雅治さんは、本業と並行して大学で教鞭をとるだけでなく、講演やセミナーを通じて漫画家や漫画原作者の育成に携わっています。いわば、「夢」を目指している若者に日々接し、そのプロセスや壁、成功例を現在進行形で目にしているわけです。その立場から、夢のつかむをうえで一番大切なことはなにかをたずねました。

「誰でも最初にその道を志したときは、ワクワクした気持ちでいるでしょう。それを忘れずに、がんばって持ち続けることは想像以上に大切なこと。ワクワクするのはとても大事なことなんです。漫画家の場合でも当然のことながら壁にぶち当ることもあるし、描くのがつまらなくなってくるなど飽きを感じるような瞬間に襲われることがある。そんなとき、最初のワクワクした気持ちを思い出せれば、『自分がなぜこの夢を持ったのか』『なにを描きたかったのか』ということに立ち返れるじゃないですか。自分の思いを託した夢を好きでいる気持ちを忘れてはならないし、いわば、『初心忘れるべからず』ということかもしれません」

ただ、実際は「自分には才能がない」「失敗ばかりで成功のイメージが見えない」など、絶望的な気分に陥ることも少なくありません。

失敗したり挫折したりするからこそ、ワクワクを忘れてほしくない。失敗や挫折って、夢を追う過程で誰でも絶対にするものなんですよ。でも、ワクワクという気持ちがあれば、それで『失敗した。もう自分はダメだ』とはならずに、『こうやったらダメなんだな、ということがわかった』みたいに捉えることができるようになる。やってみたことは間違いじゃない。失敗したのではなく、一歩成功に近づいた。この方法ではなく別の方法がいいんだな、と気づけることがなによりも大事なことです」

夢をつかむ前に、まず「夢を持つ」こと
親の声かけで子どもの背中を押す

確かにとらえ方ひとつで、「失敗」のイメージがずいぶんと変わります。とはいえ、実際に大学の教壇に立っている鍋島さんですから、そう理想どおりにいかないことも十分承知していることも事実。「どうせダメだよ」「夢を持ったって叶うわけがない」。そんなマインドの学生が少なくない、と痛感することもしばしば。

「芸術系の大学で漫画を学ぼうと進学してきているはずなのに、『なぜ?』と思ったのですが、それは日本の教育のせいなのかもしれません。日本の教育って『こうしてはいけない』というように、してはダメなことを先に教えますよね。これは、失敗を避けるための教育なんです。いわば、タブーを教えて規律を重んじるわけです。だけど、子どもの夢を叶えたいなら『こういうことって楽しいよね』『これをやってみようよ』『みんなの役にたってみない?』といった雰囲気をつくるのが教師……いや、大人の役割なのではないでしょうか。そういったことを通じて『歌うって楽しいな』『人をよろこばすのって楽しいな』と子どもが感じたら、夢を持つことにつながっていく。『夢をかなえる』前に、いまはまず『夢を持つ』ことが大事なのではないかと思うのです」

もちろん、そのためには親の後押しも欠かせません。なかなか勇気を出せない子どもに対しては、親が言葉で背中を教えてあげることもときには必要。

促しても一歩踏み出せない子どもに対しては、『大丈夫だよ』『やってみないとわからないよ』『大丈夫。最後まで見守っているからね』『ずっとあなたの味方だから』といった言葉で応援してあげてほしい。自己肯定の上手な子どもというのは、『わたしは親に愛されて育った』『最後まで味方でいてくれる大人がいた』と実感した経験のある子どもたちです。そういった子は、不思議と最後までやり抜く勇気も持っているものです」

幼少期、鍋島さんはあまり裕福な環境で育ちませんでした。本好きだった両親のもとで生まれ、高校卒業後は諸事情で大学進学を断念。地元の長崎から大阪に出てホテルのアルバイトとして働きはじめ、そこから一念発起して東京の大学へと入学します。

「わたしも親に愛された実感はありますが、さらに近所の大人の影響も大きかったと思います。生まれ育った家はスラム街のようなところにあって……昼間から酔っ払いが道で倒れていることも日常茶飯事だった。だけど、そういった人にも『しょうがねえな』と手を貸し、面倒を見る近所の大人が多かったんですね。それでわたしは『人間って優しいな。誰かがきっと支えてくれる。人や世間は捨てたものじゃない』と実感することができた。ひょっとしたら、それも自分の人生のなかで思い切ってチャレンジする勇気が養われた要因のひとつかもしれませんね」

鍋島さんは、大学卒業後に就職した有名漫画原作者・小池一夫さんの事務所で働いたことがいまの道につながりました。「物語」が好き、という気持ちで入った事務所で最初は経理の仕事をしながら、小池さんや周囲の先輩の影響を受け、自らも漫画原作を書きはじめます。徐々にその作品が認められ独立し、現在につながります。その過程で、小池さんの言葉にも背中を押されたそうです。

「わたしがある新人賞で3回連続して準入選、大賞を逃し続けていたときです。3回目は小池先生も『今度こそ大賞だろう』とおっしゃってくれたのですが、結局、その年の大賞は該当者なし。わたしはトップでしたが、結果的に準入選でした。そのときに小池先生はこんな言葉をかけてくれたのです。『大賞の賞金は100万円で準入選は50万円。でも、おまえは準入選3回だから大賞を上回る賞金王だ。過去に大賞は何人もいるが賞金王はおまえただひとり。だから、威張っていいぞ! 胸を張れ!』。その小池先生の言葉を聞いて、わたしは涙が止まりませんでした。この言葉が後のわたしの『人を言葉で励ましていこう。がんばっている人を応援していこう』という生き方の芯をつくってくれ、どんなに苦しいときでも、やりぬく原動力のひとつになったことは間違いありません』


運は人柄 誰もが気付いている人生好転のコツ(角川新書)
鍋島雅治 著
KADOKAWA(2018)

■ 漫画原作者・鍋島雅治さん インタビュー一覧
第1回:運とは人柄で高められるもの~成功のために必要な条件は、「才能が1、努力が2、運が7」~
第2回:道を志したときの「ワクワクした気持ち」を大切に
第3回:愛されている実感があれば子どもはチャレンジできる
第4回:話下手でも興味を持って素直に聞く~「取材力」が子どもの未来を変えていく~

【プロフィール】
鍋島雅治(なべしま・まさはる)
1963年生まれ、長崎県出身。長崎県立佐世保商業高校、中央大学文学部卒業。スタジオシップ勤務後に漫画原作者として活躍。代表作に、『築地魚河岸三代目』(小学館)『東京地検特捜部長・鬼島平八郎』(日本文芸社のち小池書院)、『火災調査官 紅蓮次郎』(日本文芸社)などがある。現在は、原作者として活躍する傍ら、東京工芸大学芸術学部マンガ学科の非常勤講師なども務めている。

【ライタープロフィール】
田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)
1975年生まれ、山形県出身。大学卒業後、出版社勤務を経てライターに。スポーツや歴史、建築・住宅などの分野で活動中。