教育を考える/体験 2018.9.26

「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果

「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果

我が国の青少年の健全育成を図ることを目指す、独立行政法人国立青少年教育振興機構。その主な活動は「教育的観点から青少年に体験活動の機会や場を提供する」というもの。同機構の言う「体験」とはどんなもので、それが子どもたちにどんな影響をもたらすのでしょうか。2017年4月から理事長を務める、鈴木みゆきさんに教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

「体験」を通じて「たくましく生きていく力」を育てる

わたしが理事長を務める国立青少年教育振興機構は、もともと3つの団体でした。『国立オリンピック記念青少年総合センター』『国立青年の家』それから『国立少年自然の家』です。それらが統合されて、2006年4月に発足したというわけです。活動のベースは、国立オリンピック記念青少年総合センター、青少年交流の家、青少年自然の家という全国28施設の運営です。「子どもの頃に利用したことがある」という方も多いのではないでしょうか。

そのねらいは、「体験活動を通した青少年の自立」にあります。わたしたちの言う「体験」とは、海や山でさまざまな活動をおこなう自然体験、生活体験、社会体験、そして、集団宿泊。それらの体験を通じて、子どもたちの「たくましく生きていく力」を育てることを目指しています。

子どもたちが得られる力をもっと具体的に言うと、ひとつは「感じる力」。ある脳科学の研究者によると、「東京の音は単調」なんだそうです。一方、自然のなかには木々の葉がこすれる音、小川のせせらぎに虫や鳥の声など、複雑な音がひしめいています。そして、それらは季節や時間帯によってもどんどん変化する。音だけではありません。光や闇の存在も、都会より強く感じられますよね。自然には子どもの感性に訴えかけるものがすごく多いのです。そういう自然に身を置くことで、子どもたちの感性は確実に高まります

写真提供/国立青少年教育振興機構

そして、山を登る、カヌーをこぐといった体験によって、困難に立ち向かい「やり抜く力」が得られます。また、家族や友だちなどのグループで体験をするなかで得られるのは「関わる力」。野外炊事をするのも、ひとりではなかなかできません。必然的に人と関わり、みんなで力を合わせることになる。嫌なことだって、仲間と話し合ったり励まし合ったりしながら解決する必要がある。人と関わり、ものと関わりながら、「耐える力」「乗り越える力」を得ることにもつながっていくでしょう。そういった、さまざまな力の交差点にあるのが「体験」なのだと思います。

子どもが「やりたい」と思ったときがやらせどき

子どもたちの自然体験は減っていると思われがちですが、じつはそうではない面もあります。ブームということもあって、キャンプ人口は増えていますからね。ただし、手軽に行けるキャンプ場だと、現地に行けばすでにテントは張ってあり、お肉は切られていて野菜も用意されている。もちろん、入門としてはそれでもいいのですが、そこで満足してほしくはありません。一方、わたしたちの施設の姿勢は、「最初から最後まで丸々全部やっていただきましょう!」というものです。

そして、重要なのは子どもにそういう自然体験をさせるタイミングですよね。どんなことも、「やらされる」のではなく、子どもが自発的に「やってみたい!」と思ったときにやらせることが大事です。むかしもいまも変わらず、子どもたちは自然に対する好奇心を持っています。ですから、そういうタイミングが必ず訪れるのです。ところが、「じゃ、やってごらん」と言える環境がいまはなかなか用意されていないのが実情です。

公園に関する問題もいろいろと取り沙汰されていますよね。たとえば、園庭がなくても近くに公園があるからと保育所が認可されます。そうすると、周囲の保育所から子どもたちが同じ公園に集まることになります。遊具は取り合いになるし、結局、子どもたちは思い切り遊べません。また、一堂に集まる人数が多いので危険もあるかもしれません。特に都心では、子どもたちにさまざまな体験をさせることはなかなか難しい時代なのです。だからこそ、わたしたちの施設の存在意義が高まっているのだと思っています。

もちろん、わざわざ自然のなかに出かけなくても、家庭など身近な場所でできることもたくさんありますよ。幼い子どもに体を動かす楽しさを教えるのなら、その子のレベルに合わせて自宅の椅子から飛び降りさせてみるというようなことでもできるでしょう。ただ、それを子どもがどれだけ面白がってくれるかという問題はあるはずです。もし、それを岩場や築山のような場所でやったらどうでしょうか? 同じ遊びをするのでも、自然のなかでやったほうが当然ながら子どもたちは面白がります

写真提供/国立青少年教育振興機構

その点、わたしたちの施設はそれぞれがまったくちがう自然環境にあります。山に海、里山、なかには雪に囲まれた施設も……。それぞれに特色があって、スタンプラリーをつくりたいくらいですね(笑)。施設によって異なりますが、体育館や武道場、グラウンド、野球場などスポーツ設備も充実しています。温泉がある施設もあるほどです。

写真提供/国立青少年教育振興機構

じつは、これらは一般の方でも利用できるものなんです。施設利用料金は、青少年や指導者は無料、会社の研修で利用するなど一般の方でもひとりにつき1泊800円3食の食事料金にシーツなどの洗濯料金を含めてもひとりあたり2000円程度でご利用いただけます。リーズナブルに泊まって活動できますから、ご家族やグループで利用していただき、「体験」を通して子どもたちのさまざまな力を伸ばすきっかけをつくってあげてほしいですね。

国立青少年教育振興機構施設利用案内

■ 『早おきからはじめよう
鈴木みゆき 著/ほるぷ出版(2008)

■ 国立青少年教育振興機構・鈴木みゆき理事長 インタビュー一覧
第1回:「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果
第2回:「大人の愛」と「協働力」が子どもを大人に導いていく――親以外の人との交流によって広がる子どもの視界
第3回:子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」――体験によって養う「自信」と「立ち上がる力」
第4回:「お手伝い」が子どもにもたらすいくつものメリット――お手伝いの習慣が高い学力につながる理由

【プロフィール】
鈴木みゆき(すずき・みゆき)
1955年6月30日生まれ、東京都出身。お茶の水女子大学大学院家政学研究科児童学専攻修了。医学博士。和洋女子大学人文学群こども発達学類教授を経て、2017年4月に独立行政法人国立青少年教育振興機構理事長に就任。過去には文科省中央教育審議会幼児教育部会委員、厚労省社会保障審議会保育専門員会委員、内閣府教育再生実行会議専門調査会委員などを歴任した子ども教育のスペシャリスト。現在、国立教育政策研究所評議員も務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。