2018.9.27

「大人の愛」と「協働力」が子どもを大人に導いていく――親以外の人との交流によって広がる子どもの視界

「大人の愛」と「協働力」が子どもを大人に導いていく――親以外の人との交流によって広がる子どもの視界

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我が国の青少年の健全育成を図ることを目指す、独立行政法人国立青少年教育振興機構。その主な活動は「教育的観点から青少年に体験活動の機会や場を提供する」というもの。2017年4月から理事長を務める鈴木みゆきさんによると、「自然体験が子どものさまざまな力を伸ばしてくれる」のだそう。そして、そういう体験と同じくらい、地域の大人や少し年上のお兄さん、お姉さんとの交流も子どもにとっては大切なものだと言います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

親が一歩を踏み出し面白がって自然体験をする

自然体験は、子どもの「感じる力」や「やり抜く力」「耐える力」などさまざまな力を伸ばしてくれるものです(インタビュー第1回参照)。ただ、子どもが幼いうちに自然体験をさせてあげたいと思ったところで、そう簡単にできないと悩んでいる親御さんもいるでしょう。共働きの家庭が増えて、父親も母親も仕事で忙しいというケースもあるでしょうし、子ども自身が自然になかなか興味を示さないということもあるかもしれません。

ただ、どんな場合であっても、まずは親が「やってみよう!」と思う、そして実際にやってみることが大切。わたしたちの調査でも、自然体験が少ない子どもはたいていその親も自然体験が少ないということがわかっています。

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(国立青少年教育振興機構調べ)

たとえば仕事で疲れたというときに、「きれいな海を見たい」とか「山の澄んだ空気を思い切り吸い込みたい」と思うこともあるでしょう。そうであるのなら、なにはともあれその一歩を踏み出してみる。そうやって親が面白がることは、子どもも必ず面白がるものですよ。子どもに自然体験をさせたいからと、「行ってらっしゃい」と子どもを送り出すだけでは駄目なんです。親子をセットで考えて、子どもと一緒に体験してあげてください

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写真提供/国立青少年教育振興機構

自然にあまり興味を示さない子どもでも、親の前で自然のなかに身を置けばすぐに走り回りはじめるものです。そして、だいたい転ぶ……(笑)。足元がよくない自然のなかでは、最初はうまく走れなくて当然ですよね。でも、ほんの数日もすれば、山のでこぼこ道でも海の岩場でも、とっても上手に走り回ることができるようになります。それこそ体験によって身につく力じゃないですか。

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他者との体験の共有により「協働力」を身につける

そして、できれば家族以外の人と一緒に体験することをおすすめします。なぜなら、他人と協力して働くことができる「協働力」が身につくからです。協働力は、グローバル化が進むいま、子どもたちにとってすごく大切な力のひとつ。少し話がずれるかもしれませんが、ここで子どもたちの協働力を伸ばすためにわたしたちがおこなっているイベントについて少し紹介しておきましょう。

まずは、今年ではじまって16年目になる『日中韓子ども童話交流』という活動。日本、中国、韓国の10歳から12歳の子どもたち合計100人をミックスして10のグループにわけ、それぞれが絵本をつくるというものです。これが見ていて面白いんですよ! 最初は言葉もまともに通じませんし、互いに牽制し合ったりもする。でも、最後は多くの子どもたちが別れを惜しんで泣いちゃうほどです。身振り手振りで懸命に自分のイメージを伝え、「協働」して1冊の絵本を一緒につくり上げるうち、心の交流がしっかり生まれたという証なのでしょう。

そして、一般の親子が参加できる『ファミリーキャンプ』というものも数多く実施しています。これは、青少年自然の家など全国に散らばるわたしたちの施設でお互いに知らない親子同士がキャンプをするというもの。自然体験をとおして親子の絆を深めることが大きな目的なのですが、子どもを寝かせた後に親だけでくつろぐうち、親同士が仲良くなっちゃう。すると、親たちのコミュニケーションが子どもにも伝染するんですよね。そうして、子どもは家族以外の人間とのコミュニケーション力や協働力を身につけるというわけです。

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写真提供/国立青少年教育振興機構

そういう点においては、住んでいる地域での交流も子どもたちにとっては大切ですよ。子どもを愛することは親の重要な役割です。親の愛を感じることで、子どもたちは自分に自信を持ち、人生を力強く歩むための自己肯定感を高めていきます。ただ、親の愛は大事ですが、子どもを愛するのは親だけじゃなくていいのです。親に代わる人がいるということがとても大事になる。それこそ、むかしの雷おやじみたいなおじさんや、逆にすごく慈愛に満ちたご近所のおばあちゃんのような存在が子どもには必要なのです。

親以外の大人との交流で、まず、子どもは「礼儀」を身につけます。親への甘え方とはちがう態度で接したり、あるいは親が相手なら反発するようなことも素直に聞き入れたりと、子どもなりに「公私」の感覚を持つのです。また、子どもの頃、「大人の話に子どもが口を挟むな!」なんて周囲の大人に言われた経験がある人もいるでしょう。これは、「場を知る」「立場をわきまえる」ということにつながるものです。

そして、地域での交流ということで言えば、「斜めの関係」も大切なものだと思います。それはなにかと言えば、子どもよりちょっと年上のお兄さんやお姉さんとの関係のことです。疲れたときにお兄さんがランドセルを持ってくれた、水切りの石を上手に投げるコツを教えてくれた——。そういう周囲の大人、お兄さんやお姉さんとの交流が、大人へと向かう子どもの視界を広げてくれるのです。

ただ、少し年上のお兄さんやお姉さんならともかく、周囲の大人にとっては子どもとのそういう関わり方は難しくなってきています。かつてと比べて、いまの親は、子どもと他人との関わりに敏感で警戒心がすごく強い。親が子どもを守ろうとするのは当然のことですし、危険な人間が本当に周囲にいる可能性もありますから、そういう風潮を過保護だと安易に非難することはできません。とはいえ、子どもと地域の大人との交流が希薄になり過ぎないようにする必要もあるのではないかと感じています。

国立青少年教育振興機構施設利用案内

■ 『早おきからはじめよう
鈴木みゆき 著/ほるぷ出版(2008)
早おきからはじめよう

■ 国立青少年教育振興機構・鈴木みゆき理事長 インタビュー一覧
第1回:「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果
第2回:「大人の愛」と「協働力」が子どもを大人に導いていく――親以外の人との交流によって広がる子どもの視界
第3回:子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」――体験によって養う「自信」と「立ち上がる力」
第4回:「お手伝い」が子どもにもたらすいくつものメリット――お手伝いの習慣が高い学力につながる理由

【プロフィール】
鈴木みゆき(すずき・みゆき)
1955年6月30日生まれ、東京都出身。お茶の水女子大学大学院家政学研究科児童学専攻修了。医学博士。和洋女子大学人文学群こども発達学類教授を経て、2017年4月に独立行政法人国立青少年教育振興機構理事長に就任。過去には文科省中央教育審議会幼児教育部会委員、厚労省社会保障審議会保育専門員会委員、内閣府教育再生実行会議専門調査会委員などを歴任した子ども教育のスペシャリスト。現在、国立教育政策研究所評議員も務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。