あたまを使う/サイエンス 2020.8.20

10億件の学習データからわかったこと。「無学年制」という新しい学習のカタチとは?

今木智隆
10億件の学習データからわかったこと。「無学年制」という新しい学習のカタチとは?

はじめまして。RISU Japan今木智隆です。

このたび、STUDY HACKERこどもまなび☆ラボにて、連載『学びノべーション』を始めることになりました。この連載を通して、「いま本当に必要な教育」をお伝えしていきます。

成績を超えた人材育成へ――エリートコースはもう古い

まずは自己紹介をさせてください。私は、タブレット型学習サービスを提供するRISU Japan株式会社(以下、RISU)を運営しています。タブレット型学習サービス以外にも対面塾であるRISU塾を運営しており、対面・オンラインの枠にとらわれない、広い意味での「理数系教育」を扱っています。

このように書くと、「算数や数学の成績が優秀な子どもを育てること」が目的の会社だと思われがちです。もちろん、学校の成績がよいことは算数の理解が深まっている証ではありますが、私の理念は少し違います。

私が目指すのは、「成績より先の人材育成」です。現代では、勉強していい学校に入り、いい会社に入り、いい年収を稼ぐことがかつてほど魅力ではなくなっています。生活必需品の値段が劇的に下がり、欲しいものがそれほど苦労せずに手に入るようになったからです。また、人生における選択肢の幅も広がったため、かつてはたくさんの人が憧れていた「エリートコース」の魅力が相対的に低下してしまったのでしょう。

「ただ試験のためだけに算数を勉強する」ということは、もはや現代社会においてあまり意味がなくなっているのです。だからこそ、子どもたちには、目先の問題が解けるだけでなく、問題を解くことを通して、「学ぶことそのものの楽しさ」を知ってほしい。私はそう願っています。

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「才能あふれる社会」を創り出す教育

RISUのスローガンは「才能あふれる社会を創り出す」ですが、このスローガンには私の願いが込められています。それぞれの子どもが学ぶ楽しさを知り、自分を高めていくことで、その子にしかない才能が開花するのです。

「才能あふれる社会」についてもう少しだけお話しさせてください。そのビジョンが、この連載ではとても重要になるからです。

ここで、少し視野を広げて、「教育」の歴史を考えてみましょう。近代教育が誕生したのは200年前、産業革命と同じ時期です。そこで目指された教育は、工場で大量に均質な商品がつくられるように、学校という工場で大量の生徒をつくり続けるものでした。それは、現在も続く「教室での集団授業」という学びの形に強く現れていますよね。

恐ろしいのは、この200年前のモデルがいまもって教育のスタンダードであり続けているということ。これは昨今、教育界を騒がせている新型コロナウイルスによる感染拡大に対する学校の対応からもおわかりいただけるでしょう。今回、日本で初めてオンライン教育の本格的な導入が模索されましたが、その議論がなかなか進まないのは、この集団授業のモデルが現場に強く作用しているからです。

考えてみてください。集団授業のモデルは現代において、いまなお有効な方法でしょうか? 言うまでもなく、産業革命の時代と現代では、社会の構造も、それを支える産業の構造も大きく変化しました。それにともなって、大人のライフスタイルも、子どものライフスタイルも大きな変化を遂げています。なかでもインターネットの普及による情報化社会の進展は、教育を考えるうえで外せないテーマです。そもそも、オンライン教育の議論も情報社会でなければできないわけですから――。

このように変化している現代社会において、200年前の教育を子どもたちに提供し続けることは、正しいとは言えないはずです。多様化した社会に必要なのは、「その子だけの才能」なのだから。子どもひとりひとりの才能をもっと伸ばしてあげられるような教育が必要になってきているのです。

「無学年制」という新しい学習のカタチ

そんな現代社会を生きる子どもたちにマッチした教育法・教材はないものか。そのようにしてつくったのが、RISUタブレットです。

2015年にスタートした「RISU算数」は、個別フォロー・無学年制によるタブレット学習サービスです。生徒の学習状況が逐一記録され、それに基づいて子どもへの学習アドバイスがメールで送られます。タブレット学習の利点を活かし、集団学習では不十分な生徒への個別フォローを行なっているわけですね。

また、学年の枠を飛び越えてどんどん進む子もいますから、無学年制を採用しました。これによって、意欲ある子どもの先取り学習が可能になっているわけです。子どもひとりひとりに合った学びをそれぞれのペースに合わせて提供しているため、効率的な成績アップだけでなく、学ぶ楽しさまで感じられるのです。

つまりRISUの教材は、集団授業を軸とした近代教育に対するアンチテーゼなのです。集団で画一的な教育を行なうのではなく、それぞれの子どもがそれぞれのペースで、それぞれに必要な学力を身につけ、よりよい未来をつかむ。それこそが、RISU Japanが描く「才能あふれる社会」です。

私は、子どもたちが自分自身の本来の才能に気づき、それを伸ばしていける教育についてずっと模索してきました。逆に言えば、私の目からは、いまの教育はそうした、子どもの未来にとって重要なことが置き去りになっているように見えるのです。

学ぶことの楽しさに気づき、自分自身の才能を伸ばしていける子どもを育てる教育はいま、どこにあるのか。この連載では、そうした問題意識をみなさんと共有していければいいと思っています。

「子どもの才能を伸ばす教育」を探しに行こう

「算数に特化した無学年制のタブレット教材」という、これまでになかったサービスを提供するなかで、蓄積したデータから、これからの「学び」にイノベーションを起こせるような学習法や教育法にあらためて気がつきました。

そして去年、それらのデータや学習法についてをまとめた書籍『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方(文響社)』を出版しました。人生で初めて執筆した本で、構想から出版に至るまで約2年……。執筆が終わったときには「もう本は書かないぞ!」と強く思いました(笑)。

書籍では、RISUタブレットから得られた10億件を超えるデータや、海外の研究機関や文部科学省が出している統計をもとに、「算数や勉強について私たちが知らない残念な真実」などについて詳細に説明しています。たとえば、以下のような残念な真実です。

9割の子どもが間違える問題はたった「3つ」に分類できる
算数でつまずく子どもが、必ずといっていいほど間違えてしまう問題があります。「位」「単位」「図形」です。これらの問題は、恐ろしいことに、ただ「この問題ができない」だけでなく、「その単元そのものを理解できない」につながってしまいます。今後の算数の理解度や成績をも左右する間違いは、早めにクリアしておきたいものです。

 

宿題をさせると、子どもの学力は下がる!?
じつは、いくつかの統計によって「宿題をしても学力は上がらない」という結果が出ています。それどころか、「宿題は学力にマイナスの影響を及ぼす」という衝撃のデータもあるのです。だから、「宿題やりなさーい!」と親が叫ぶ必要はありません。(※子どもが勉強嫌いにならない「宿題のやらせ方」も紹介していますのでご安心を)

 

本連載では、上記のような「RISU算数」から得られた知見はもちろんのこと、私が世界から集めた多くの事例をできるだけわかりやすく、かつ実用的にお伝えできればと思っています。

さあ、真に子どもたちの豊かな才能を伸ばす教育を探す旅に出かけましょう。

10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方
今木智隆 著/文響社(2019)

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■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法