あたまを使う/算数 2025.5.12
更新日 2025.5.29

【専門家5人に聞いた】子どもの算数力&算数センスを伸ばす! 年齢別・最強の家庭学習テクニック

編集部
【専門家5人に聞いた】子どもの算数力&算数センスを伸ばす! 年齢別・最強の家庭学習テクニック

「うちの子、算数が苦手みたい……」と感じていませんか? じつは、算数に苦手意識をもつ子どもは少なくありません。それは、算数が“積み上げ型”の教科だから。ひとつでもつまずくと、先の学習につながらないという特性によるものなのです。

ですが、算数力は、ちょっとした関わり方や家庭での工夫次第で伸ばすことができます!

本記事では、立教大学特任教授(取材時)の黒澤俊二氏や、算数塾「RISU」代表の今木智隆氏など、専門家のアドバイスをもとに「家庭できる子どもの算数力を伸ばす方法」を年齢別にご紹介。日常の会話や遊びを通じて、無理なく楽しく算数に親しむコツをお届けします。

なぜ、子どもは「算数が苦手」になるのか?

算数に苦手意識をもつ子どもが多い理由について、算数塾「RISU」代表の今木智隆氏は、算数は「積み上げ型」の教科だからと分析します。

たとえば、かけ算が理解できていなければ円周率の計算ができないように、細かい単元の習得を積み上げなければ次の単元に進めません。ゆえに、どこかで重要な要素が抜け落ちたまま先に進んでしまうと、学年が上がるにつれて理解できないことが増え、苦手意識の原因となります。

算数はひらめきや直感よりも、ひとつひとつの単元をしっかりと理解し、コツコツ努力することが必要なのです。

また就学前からの「先取り教育」は、子どものタイプによっては逆効果になることも……。今木氏によると、ゲーム感覚で高得点を喜ぶ子には向いていますが、じっくり学ぶタイプには効果が薄いとのこと。算数という教科の特性を鑑みて、お子さんが算数嫌いにならないようにサポートしてあげたいですね。

次項からは専門家の意見をもとに、さまざまな視点から「算数力の伸ばし方」について解説していきます。子どもが楽しみながら算数を身近に感じられるような工夫をしていきましょう!

子どもの算数力を伸ばす02

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【家庭の関わり方】「親子の会話」で算数力は育つ|黒沢俊二氏

「わが子の算数力を伸ばしてあげたい」とは言うものの、そもそも「算数力」とは具体的に何を指すのでしょうか。元立教大学特任教授の黒澤俊二氏は、以下の3つの力を算数力と定義づけています。

1. 算数の知識と技能を使い処理する力
2. 論理的、統合的・発展的に考え、表現する力
3. 数学を使って問題を解決する力

これらの力をより効果的に身につけるには、小学校入学前から家庭でできることがたくさんあります。たとえば、幼い子どもは頻繁に「なぜ?」「どうして?」と親に問いかけます。黒澤氏によると、この姿こそ算数科で重点目標としている「筋道を立てて論理的に考える」力を育むヒントが隠されているのだそう。

ときには「面倒だな……」と感じて、聞き流してしまうこともあるでしょう。しかし、きちんと対応することで子どもの算数力はぐんぐん伸びていきます。親の対応として効果的なのは、黒澤氏が提案する「アイウエオ」です。

ア:子どもの言葉に「いづち」を打つ
イ:子どもの言葉の「いところ」を指摘する
ウ:子どもの言葉に「なづき」ながら聞く
エ:子どもの言葉を「じて」みせる
オ:子どもの言葉を「ウム返し」に繰り返す

また、数を数えたり、数の違いに気づいたり、子どもが算数的発言をした際は、「賢いね」「頭がいいね」といった “評定” をしないことも重要です。「じっくり聞いていたんだね」「よく考えたね」など、そのプロセスにある努力や興味関心を認めることで、その後の知識獲得への意欲も高まっていくでしょう。

【算数力の伸ばし方】

  • 子どもの「なぜ?」「どうして?」を聞き流さずに、しっかり向き合う
  • 「アイウエオ」のリアクションを意識しよう
  • 子どもの算数的発言に対して、評定するのではなく “プロセスの評価” を

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算数力は会話の中で育つもの。5つの「カキクケコ」を大切にしよう。
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子どもの算数力を伸ばす03

【幼児期】「数の概念」は体感で育つ|沢井佳子氏

大人と子どもでは、数の概念に対するとらえ方が異なります。「小さい子どもがいくら10まで数えられたとしても、きちんと『数』を理解できているとは限らない」と一般社団法人こども成育協会理事の沢井佳子氏が指摘するように、幼い子どもにとって数の概念は複雑です。

いくらお風呂で50や100まで数えられたとしても、それはただ「長い言葉」を覚えただけであり、お経を唱えさせることとなんら変わらないのだそう。個数を表す「集合数」や順番を示す「順序数」など、数の意味を正確に学ぶにはかなりの時間を要するのです。

そこで沢井氏は、数の概念を教えるのに最もよい方法として、「実感をともなって学ぶ」ことを推奨しています。たとえばブロック遊びなど、実際に手を使って直接触れながら学ぶことで、数に対する理解が深まります。

同様に、時間概念に関しても実感をともなう学びがおすすめです。「7時に起きて、テレビを見ながら朝ごはんを食べる」ことが習慣化している場合、8時に起きてしまったらテレビの番組がいつもと違うことに気づきます。これこそが、実感をともなった時間や数字の概念を刻むことであり、日常生活が学びにつながる瞬間です。

「大人が数字や計算ばかりにこだわって教えることは、子どもを数嫌いにさせかねないので注意しましょう」と沢井氏が述べるように、日常のなかで実感をともなった経験を増やしてあげることが大切です。

【算数力の伸ばし方】

  • 無理やり詰め込むような教え方は、算数力を伸ばすのに意味がない
  • 手を動かすブロック遊びなどを通じて、「実感」をともないながら数への理解を深めることが大事
  • 規則正しい生活習慣が時間の概念を実感させる

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「10まで言えるのに、5個が数えられない」? 未就学児屁の“数”と“時間”の数え方

子どもの算数力を伸ばす04

【小学校入学前後】「算数センス」を育て、つまずきを防ぐ|木野未来氏

小学校入学直後の算数は、子どもたちの生活体験をベースにゆっくりと進むので、「ちゃんとついていけるかな?」と心配しなくても大丈夫です。むしろ、入学前に育むべき力は計算力ではなく、遊びや生活のなかで育む「算数センス」だと元小学校教員の木野未来氏は話します。

では、具体的にどのようにして「算数センス」を育めばよいのでしょうか。木野氏は、お手伝いやおやつの時間、遊びの内容を例に挙げて解説しています。大事なのは、子どもが実際に物を動かしたり、触ったりできる体験を学びにつなげること。

【日常生活で算数センスを育む方法】
・お手伝い:食事の準備をする際に「お皿を3枚並べてね」とお願いする。実際に並べながら数を数えることで、数の大きさを体感的に理解できるようになる。
・おやつの時間:「6枚のクッキーを3人で分けよう」「10枚のクッキー、3枚食べたらあと何枚残ってる?」など、クッキーという実物を実際に触ったり動かしたりして、楽しみながら数の操作をさせる。
・遊び:
「すごろく遊び」→数の順序や増減の感覚が育つ。「お店屋さんごっこ」→値段の計算やおつりの概念を楽しみながら学ぶ。

最後に木野氏は、子どもの算数センスを磨く大事なポイントとして、「計算の正誤よりも考えるプロセスの重要性」について説いています。つまり、計算の答えが合っているかよりも、答えにたどり着いたプロセスが大切ということ。「なるほど、そうやって考えたんだね」と、子どもの考え方に寄り添ってあげることを心がけましょう。

【算数力の伸ばし方】

  • お手伝いやお片づけの時間を利用して、数センスを育む工夫を
  • おやつの時間や遊びのなかで、楽しみながら算数センスを育む
  • 計算の答えが間違っていても、結果を導き出したプロセスを認める

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入学前からできる! ベテラン小学校教員が明かす「算数センス」の育て方

子どもの算数力を伸ばす05

【小学校中学年】「四則計算=基礎力」の育て方|杉渕鐡良氏

小学校中学年になると算数の授業はぐんと難しくなり、つまずきやすくなります。そのためこの時期は、算数を学習するための基礎である四則計算をきっちりと身につける必要があります。「四則計算さえ身についていれば、問題の内容について考えることに集中でき、応用問題に進んでもスムーズに理解できる」と話すのは、小学校教諭の杉渕鐡良氏です。

しかし実際は、四則計算の学習は地味で単純なものが多いため、集中力が続かない子も多いのだそう。お子さんのタイプにもよりますが、「基礎の重要性を実感させるために、先に応用問題にチャレンジさせるのもあり」だと杉渕氏はアドバイスしています。「応用問題を解くためには四則計算ができなければならない」と理解できれば、基礎の習得に励むようになるケースも。

家庭のなかでは、生活と四則計算を結びつる機会を与えてあげましょう。たとえば、以下のように取り入れるとスムーズに理解できますよ。

【日常生活で算数力を伸ばす声かけ例】

・スーパーで買い物中に……
「3個で480円のリンゴと、2個で390円のリンゴがあるね。どっちを買ったらお得になると思う?」と子どもに相談する。子どもは親の役に立ちたくて頭をフル回転して計算してくれるでしょう。
・自動車で遠出するときに……
「ここから遊園地までの距離は〇kmだね。時速60kmで走ったら、何時くらいに着くかな?」と、楽しいお出かけと計算を結びつけるのも◎。
・日常会話のなかで……
「お父さんは3分に1回怒ります。お母さんは5分に1回怒ります。お父さんとお母さんが一緒に怒って大爆発するのは何分後でしょうか?」などふざけつつも、算数の応用問題として成り立つ出題をする。

いずれもポイントは「親も子どもと一緒に楽しむ」こと。算数への苦手意識を払拭するには、楽しく・身近に感じてもらうことが大切です。

【算数力の伸ばし方】

  • 算数の基礎である四則計算を習得させるために、子どものタイプに合った取り組みを
  • 買い物や車移動など、日常生活の中で簡単な算数の問題を出す
  • 真面目に計算に取り組ませるよりも、親子のコミュニケーションの一環として、ゲーム感覚で楽しみながら取り組む

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算数の力は“楽しく”伸ばす! 地味で単純な「四則計算」を笑うほど面白いものにする工夫

子どもの算数力を伸ばす06

【3歳~小学生以上】そろばんで「算数感覚」と「自己肯定感」を育てる|藤本トモエ氏

子どもの算数力を上げる定番の習い事と言えば「そろばん」。なぜそろばんが算数力アップにつながるのか、トモエ算盤株式会社代表取締役社長の藤本トモエ氏は次のように述べています。

まず前提として、子どもたちが初めて出会う抽象的な概念は「数」であるということ。「犬は犬」「飴玉は飴玉」というリアルな世界で生きている幼い子どもにとって、1匹であれ1個であれ、同じ「1」という数字で表すという抽象的な概念を理解するのは難しいのだといいます。

その点、“珠” があるそろばんは、数を目で認識できて指を動かせば答えが出せます。シンプルですが、抽象的な概念がクリアになることで、数への理解度がぐんと深まるのです。

そろばんを学ぶメリットはほかにも。時間と正確さを測るそろばんは、上達を客観的に実感しやすいという特徴があります。たとえ時間がかかったとしても、「きちんと練習すれば次に進める」という小さな達成感を得やすいのです。そしてそれは「自分はできる」という自信にもなり、結果的に「勉強以外のさまざまな場面での積極性にもつながる」と藤本氏は述べています。

またそろばんに限らず、どんな習い事でも上達するためには継続が必要不可欠です。最近では、「なかなかうまくならないからつまらない」「できないことが多くて落ち込む」というだけで、すぐに習い事をやめてしまう親子が多いのだそう。ですが、藤本氏は「できないことに直面しても、継続的な練習を繰り返せば克服することができる、という経験を子どもたちにさせてあげるべき」と強く主張します。

そのためにも、練習を毎日持続させる工夫やスケジュール管理を親がサポートしてあげましょう。スムーズな習慣づけのためにも、子どものやる気につながる声かけや、自宅での過ごし方のスケジュールを一緒に決めるなど、お子さんのタイプに合わせて工夫してあげてくださいね。

【算数力の伸ばし方】

  • 数への概念を実感するために、そろばんを取り入れるのも◎
  • スモールステップで少しずつ目標をクリアする過程が、算数学習へのモチベーションを上げる
  • 習い事の自宅練習は、親が習慣づくりのサポートをしてあげるとスムーズに続けられる

もっと詳しく!
そろばんを通して“自己肯定感”を育んでほしいーー『トモエ算盤株式会社』藤本トモエさんインタビュー

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子どもの算数力は、日常生活で得られる体感や経験によって、自然と育まれます。大切なのは、毎日の生活のなかで、子ども自身が数に親しめるような関わり方や環境を整えてあげること。「できた!」という小さな成功体験の積み重ねが、やがて大きな自信につながっていくでしょう。

文/野口燈

(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
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