音楽をたのしむ/楽器 2018.9.19

子どもの音感を伸ばす3つのステップ――音感はトレーニングによって育てられるもの

子どもの音感を伸ばす3つのステップ――音感はトレーニングによって育てられるもの

音楽的才能の証として、しばしば話題になる「音感」。これ、じつは先天的なものではなく、育てられるひとつの才能なんです。聴覚が発達する幼少期は、音感を育むのに最適な時期。ヴァイオリニストや指揮者として演奏活動を行う傍ら、自身が開く教室でたくさんの子どもたちにヴァイオリンを教える西谷国登さんに、子どもの音感を伸ばす方法を教えてもらいました。

構成/岩川悟 文/Tokyo Edit

音感は「育てられるもの」

音感って、なんとなく限られた人だけに備わった天賦の才のような気がしてしまいますよね? でも、そんなことはないとわたしは思っています。年齢や性別、そして国籍もさまざまな子どもたちにヴァイオリンを教えていますが、音感は先天的なものではなく、訓練によって育つものだと確信しているからです。また、音感は「有る」「無い」ではなく何百段階もあり、その人によって音感能力はちがいがあると見ています。

簡単に説明すると、音感には絶対音感と相対音感の2種類があります。このうち絶対音感は、「ド」という音名を聴いて「これは<ド>だな」と感じ理解できる能力のこと。この能力を持つ人は、音楽だけでなく風の音や雨の音までもドレミなどの音名に聞こえると言われています。

これに対して相対音感は、ある音を基準として他の音の高さ(音程)を認識できる能力のこと。 例えば、「ソ」の音を聴いただけではなんの音かわからないけれど、「ド」の音を聴いた後に「ソ」を聴くと「これは<ソ>だな」と認識できる。これが、「相対音感がある」ということです。

相対音感は年齢を問わず習得できますが、絶対音感は幼少期(6歳頃)以降はいくら訓練しても習得できない――。このような説が音楽業界には古くからあります。しかしわたしは、絶対音感でさえも訓練によって伸ばせると思っています。

音感の習得は、いわば言語の習得と似ています。大人のわたしたちだって、幼児期には「あいうえお」を知らなかったですよね? 学ぶことで「この文字は<あ>と言うんだな」と認識できるようになったのです。絶対音感もそれと同じことで、「これが<ド>だよ」と何度も教われば、「こういう音が<ド>と言うんだ」と認識できるようになるはずです。

しかし、だからといって幼少期に音感トレーニングをしなくて良いというわけではありません。特に3~6歳くらいまでは、聴く力(聴覚)がもっとも急激に発達する時期。この時期に適切なトレーニングを行って音感を身につけておくことは、子どもの音楽的才能を効率的に伸ばすのに欠かせないと考えています。

音感を育てるトレーニング

音感を育てるトレーニングは、家庭でも行うことができます。ここでは、わかりやすいように3つのステップにわけて説明します。準備するものは、ピアノやエレクトーンなど音が正確に出る楽器だけ。今日からでもお子さんと一緒にはじめてください。

1.正しい音を覚えさせる
親が子どもの隣でピアノなどを弾いて、「これが<ド>の音で、これが<レ>の音だよ」と、ドレミファソラシドの各音を教えてください。子どもが理解しやすいように、1音ずつゆっくりと時間をかけることがポイント。1日で覚える必要はありません。1日1音ずつ増やしていっても構いません。

2.音名「ドレミ……」で歌を歌う
親が歌を歌うのも、子どもの音感を伸ばすことに効果的です。お母さんの歌声というのは心に残るものです。歌う曲目は『かえるのうた』や『きらきら星』など、簡単な童謡でOK。しかし、もっとも大事なことは「ドレミ」で歌うことです。子どもに正しい音を伝えるためにも、できるだけ音程は正確に歌いましょう。

3.最後は一緒に子どもと歌う
一緒に歌うときはゆっくりと一つひとつの音を確実に「狙いに行く」ということを意識してみてください。そしてなにより大切なのは、一緒に楽しむこと。子どもの頃に感じた「歌うこと、音楽って楽しいな!」という気持ちは、大人になってからも覚えているものではないでしょうか。子どもと一緒に歌う時間を心から楽しんでくださいね。

このトレーニングの目的は、音名である「ドレミファソラシド」の存在を子どもに教えてあげることです。特に幼い子どもには、まだ「音程、音名」という概念自体がないのです。この概念がないまま楽器をはじめてしまうと、楽器の指番号などの数字や記号で音楽をとらえてしまい、音楽の楽しさに気づくことができません。まるで、パソコンのキーボードをタイピングしているような感覚になってしまいます。

順序として、1~3歳くらいまでは上記のようなトレーニングを行い音楽に親しませて、3歳くらいから楽器を習わせると良いのではないでしょうか。わたしの場合は、3歳からピアノ、5歳からヴァイオリンを習いはじめました。ヴァイオリンをはじめる頃には、基本的な譜面の知識やリズム感、音感が備わっていました。なので、パソコンのタイピングではなく音楽の曲を練習しているという感覚で、スムーズにヴァイオリンの練習をはじめられたのです。

音楽の豊かさがわかる子に育てる

音楽が好きな方なら、「子どもにも、音楽で心を動かせる(もしくは動かされる)人になってほしい」と願われることもあるでしょう。素晴らしい音楽は、途方もない感動を与えてくれますよね。わたしがはじめて「素晴らしい!」と感じたのは、世界的に有名な弦楽四重奏団であった『東京クヮルテット』の演奏を聴いたときのことでした。

それまでのわたしは、ヴァイオリンを弾くことは好きでも、じつはクラシック音楽を聴くことはそれほど好きではありませんでした。音楽を続けていくにあたり、「本当に音楽を好きだと言えるのだろうか?」と自問自答を繰り返したものです。ですが、そんな疑問や気持ちが吹き飛んでしまう出来事がありました。留学中に、世界一流の『東京クヮルテット』の演奏を聴いた瞬間です。耳に入るものすべてが完璧であり、自分の常識や理想を超え、自然と涙が流れていました。その瞬間、わたしは音楽が好きで、続けていて正解だったと確信したのです。

本物の音楽を聴き、感動することができれば、その瞬間から「音楽なんて興味ない!」なんて言えなくなる。いまでは自信を持ってそう言えます。お子さんに音楽の豊かさを感じてほしいと思われるのでしたら、このときのわたしのように、本人の琴線に触れる本物の音楽を聴かせてあげることが、一番の近道だと思います。

「本物の音楽」といっても、クラシックでなければいけないとか、ジャズでないといけないとかそういう縛りはありません。子どもが楽しんで聴ける音楽かどうかがすべてです。それを見つけるには、まずはいろいろな音楽に触れさせてあげることに尽きます。親が好きなアーティストの曲を家で聴いたり、一緒にコンサートに行ったりするのも効果的でしょう。子どもが「音楽を聴くのって楽しい!」と思えるように、ぜひいろいろな「音楽経験」をさせてあげてくださいね。

■ ヴァイオリニスト・西谷国登さん インタビュー一覧
第1回:子どもの音感を伸ばす3つのステップ――音感はトレーニングによって育てられるもの
第2回:幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット――身体面・精神面にもたらされる良い影響
第3回:子どもが大成していく「褒める」教育――我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと
第4回:ヴァイオリンを通じて見える「理想の親子関係」――子どもをぐんぐん伸ばす親の特徴

【プロフィール】
西谷国登(にしたに・くにと)
1983年2月5日生まれ、東京都出身。ヴァイオリニスト・指揮者。ニューヨーク大学大学院修了(M.M.特別奨学金含む)ポートランド州立大学卒業(B.M.4年連続奨学金授与)。大学入学時より大学オーケストラの首席コンサートマスターを務め、2006年7月、2007年6月、2009年5月に米国各地にてリサイタル(いずれも満席)を行う。2010年、日本に帰国。2012年9月、日本帰国後初リサイタル(1日2回公演)を行う。その後、2014年5月より2016年5月、2018年5月と浜離宮朝日ホールにてリサイタルシリーズを行っている。また、日米のさまざまなオーケストラと共演。5枚のCDアルバムを(株)エス・ツウよりリリース。最近では、NHK-BS、TV Asahi、J:COMに出演するなどメディアでも活躍中。在米中、ニューヨーク大学非常勤講師、ポートランド州立大学非常勤講師、ローズ市音楽学院講師を歴任。また、情熱的で的確な後進の指導には定評があり、国際コンクールを含むコンクールやオーディション等でも入賞等の結果を残している。第25回、第26回「日本クラシック音楽コンクール優秀指導者賞」2年連続受賞。2017年4月、名門米国イリノイ大学、ウェスタンイリノイ大学の各大学に招待され、リサイタルや公開レッスンの他講演を行う。これまでに、田中千香士(元・東京芸大名誉教授)、キャロル・シンデル(Yハイフェッツ愛弟子)、マーティン・ビーバー (コルバーン音楽院教授)の各氏に師事。現在、Kunito Int’l String School (KISS) 教室主宰。石神井Int’lオーケストラ音楽監督。クニトInt’lユースオーケストラ音楽監督。池袋コミュニティカレッジ講師。読売・日本テレビ文化センター講師。日米各地でレクチャー講演や公開レッスンを開催。また、各地でコンクール審査員、講座の監修・公共イベントのプロデューサーを務める。著書に『国登ヴァイオリン教本(全4巻)』(サーベル社)※Amazon売れ筋ランキング弦楽器部門第1位獲得。『ヴァイオリン留学愚痴日記@米国オレゴン州ポートランド』(文芸社) などがある。
西谷国登公式サイト https://nkunito.com

【ライタープロフィール】
株式会社Tokyo Edit
金融・経済系を中心としたメディア、コンテンツの企画・制作・運用を行う。運営するチーム「Tokyo Edit」には、ライターや編集者の他、デザイナーやカメラマン、プログラマーなど、幅広い職種のクリエイターが登録。高品質で結果の出るコンテンツづくりを目指している。