からだを動かす 2019.8.28

「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法

「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法

小学校の体育での定番の運動というと、「縄跳び」が挙げられます。縄を回して跳ぶだけ――。大人からすればごく単純な運動に思えますが、縄跳びが苦手だという子どもは意外なほど多いといいます。その苦手意識をきっかけに運動自体を敬遠するようにさせないためにも、人並みに縄跳びができる子どもにしてあげたいものです。そのための方法を、運動が苦手な子どもを対象にした体育指導のプロフェッショナルである西薗一也さんに教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

基本の前跳びが1回もできないという子どもも珍しくない

そもそも、なぜ小学校の体育で縄跳びをよくやらせるのかというと、まずは縄跳びが全身運動だということが挙げられます。体全体の筋肉を使う縄跳びはバランス良く全身を発達させることができるわけです。また、片脚跳びや二重跳び、腕を交差させるあや跳びなどとなると、かなり細かい体の動作が要求されますから、小さい子どもが体の使い方を学ぶにも最適な運動でもあるのです。

加えて、単純に手っ取り早く体を温められるということもあるでしょう。体育の授業で縄跳びをやるのは基本的に冬ですよね? 暑さの厳しい夏にはまずやりません。代わりに鉄棒を冬にやらせるとしたらどうですか? そもそも鉄棒自体が冷たいうえに、順番を待つ子どもは凍えながら待機しなければなりません。一方、縄跳びなら全員が一斉にはじめられて、すぐに体も温まる。縄跳びをすることには冬場のウォーミングアップという意味もあるのです。

それだけ定番の運動であるにもかかわらず、なかには基本の前跳びすらもまともにできないという子どもも少なくありません。それは、やはり授業できちんと跳び方を指導しないからでしょう。インターネットなどで調べてみても、たとえば二重跳びの上達方法といった記事や動画はいくらでも見つかります。でも、「前跳びで1回跳ぶ」ための方法を解説するような情報はどこにもないのです。

誰も教えてくれないうえに、自分で学ぶこともできないのですから、前跳びができない子どもはずっとできないままということになります。そんなものに対して向上心が湧くわけもありません。でも、1回でも跳ぶことができれば、その子どもの縄跳びに対する認識は大きく変わります。その1回が成功体験となって自己肯定感を高め、どんどん新たな挑戦していくようになるでしょう。そうさせるためにも、子どもが「前跳びで1回跳ぶ」ための方法を僕は研究してきました。

縄跳びが苦手な子どもが少なくない理由とは?

まずは、その前提にある話をしましょう。発達段階の途中にある子どもは、まだ自分の力の出力をうまくコントロールできません。「ゼロか100か」というような力の使い方しかできないことが子どもにはよくあるのです。よく見られるパターンが、必要以上に大きく膝を曲げて高くジャンプをするという跳び方。この跳び方を体重の重い大人が続ければ、すぐにバテてしまうでしょう。でも、縄の太さが5ミリだとすれば、縄跳びに必要なジャンプの高さは6ミリで十分です。そういう跳び方を教えてあげる必要があるのです。

また、子どもによっては「発達性協調運動障害」という障害を持っているケースもあります。「協調運動」とは、ごく簡単にいうと手脚で別の動きをするという運動のこと。つまり、発達性協調運動障害の子どもは、手脚をバラバラに動かすことがとても苦手なのです。なぜこんなことが起きるのかというと、赤ちゃんのときの反射が残っているからです。

赤ちゃんは手を開けば足も連動して開きます。これは「原始反射」と呼ばれるもので、反射ですから自らの意志でそうしようとしているわけではありません。でも、本来は成長するにつれてその反射が減っていき、協調運動ができるようになります。ところが、病気などで幼児期に運動ができなかったというような場合、原始反射が残ってしまうことがあるのです。

では、縄跳びの動きとはどういうものでしょうか。ふつう、ジャンプをするときには手を後ろに引いて膝をぐっと曲げ、手を上に振り上げながら跳び上がりますよね? それが自然な動作です。でも、縄跳びのときはどうかというと、通常のジャンプとは真逆で、手を下に振り下ろしながら飛び上がらないといけません。じつは、縄跳びにはかなり高度な協調運動が必要とされるのです。

一つひとつ段階を追って縄跳びの動作を体に染み込ませる

自分の力の出力をうまくコントロールできないうえに、なかには協調運動が苦手な子どももいる――。そう考えれば、一つひとつの段階を追ってじっくりと縄跳びの動作を体に染み込ませてあげるしかありません。

そもそも、最初から縄を飛ぼうとするからできないのです。であるならば、まずはジャンプをせずに縄を回すことから練習すればいい。まだ力の出力をうまくコントロールできない子どもに多く見られるのは、縄を床にたたきつけるような回し方です。それでは、縄が高く跳ね上がりますから、縄が足に引っかかる可能性が高まります。そうではなく、自分のつま先にゆっくりと縄をあてることからやらせてみてください。

そして、今度は先にお伝えしたように「6ミリのジャンプ」を教えてあげる。もちろん、最初は縄を飛び越える必要はありません。つま先に縄があたったらゆっくり6ミリのジャンプ。今度はつま先に縄があたった瞬間、その次は床に縄があたった瞬間というふうに、徐々に正しいタイミングでジャンプができるように誘導してください。

そして、それらの過程で何度も褒めてあげてほしい。縄を優しくゆっくり回すことができれば褒めるつま先に縄があたったときに6ミリのジャンプができれば褒めるという具合です。そのうち偶然でも、はじめてきちんと跳べる瞬間が訪れるはずです。そのときは、それこそ褒めちぎってください。その強烈な印象が子どもにとっては成功体験になるわけですからね。

逆に焦らせるような言動は絶対に避けましょう。「前跳びなんてできてあたりまえ」などと考え、鼓舞するつもりで「なんでできないの!」なんて言葉を子どもにかけることはご法度です。その言葉が、子どもの向上心を奪ってしまうことになるでしょう。

また、焦らせることも禁物です。僕のような立場の人間なら、限られた指導時間でなるべく早く成果を出す方法も知っていますし、そうすることを求められます。ですが、つねに子どもといる親がそうしようとする必要はないのです。ゆっくりじっくりと時間をかけて、子どもが一つひとつステップを上がっていくたびに褒めてあげてください。そうやって成功体験を積み重ねていくことが大切です

『うんどうの絵本 全4巻セット(ボールなげ・かけっこ・すいえい・なわとび)』
西薗一也 著/あかね書房(2015)

■スポーツひろば代表・西薗一也さん インタビュー一覧
第1回:運動神経は成功体験で伸びる! 運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い
第2回:どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること
第3回:「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法
第4回:子どもが泳げるようになる魔法の言葉。酸素を浪費する「バタ足信仰」は捨てるべし

【プロフィール】
西薗一也(にしぞの・かずや)
東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。