お子さんに対して、つい「あれができていない」「もっとこうだったらいいのに」と厳しい評価を下してしまっていませんか? 親子で一緒に過ごす時間が長い週末などは、とくにその傾向が強まる保護者の方も多いのではないでしょうか。
親から向けられた否定的な接し方や声かけは、子どもの「自己効力感」を育むうえで大きなマイナス要因になります。今回は、子どもの自己効力感を上げるために、親としてできることや声かけの工夫について考えていきます。
学力や人格形成に影響を与える「自己効力感」
「自己肯定感」に比べるとあまり馴染みがないかもしれませんが、「自己効力感」も子どもの学力や人格形成に与える影響が大きいと言われています。
「自分はやればできる!」という気持ち。1977年にカナダ人心理学者のアルバート・バンドゥーラが提唱した概念であり、「自分が行なうことには効力がある」と信じる感情を指す。
自己効力感が高い人は「自分には問題を解決する力がある」と信じているので、目標に向かって積極的に努力する。たとえ失敗しても、「自分はなにをやってもうまくいかない。ダメな人間だ」と落ち込まず、失敗から成功へのヒントを学ぶことができる。
ウェルビーイング心理教育アカデミー代表理事で臨床心理士の松村亜里氏は、著書『世界に通用する子どもの育て方』(WAVE出版)のなかで、「わが子が難しいことに挑戦しない、と悩んでいるなら『自己効力感』を育てるとよい」と述べています。
松村氏によると「教育や心理学の研究では、あらゆる動機づけや構成概念のなかで、自己効力感が『行動』を最も予測する」のだそう。たとえば、「痩せたいからダイエットしなきゃ」というケース。「体重を落とせば健康にいい」「スリムになったらすてきな洋服が着られる」と漠然と思い描いているだけでは、食事制限や運動をすぐに始める動機づけとしては弱く、たとえ行動に移せても長続きさせるのは難しいでしょう。しかし、「私は絶対に痩せられる」という高い自己効力感が備わっていると、ダイエットに成功する可能性がぐんと高まります。
なにかに挑戦するときに、第一歩を踏み出すためにも欠かせない「自己効力感」ですが、本来子どもは、生まれつき自己効力感をもっていると言われています。たしかに2、3歳くらいの子どもは、なにかにつけて「私もやる!」「僕にやらせて!」と、自分でやりたがるもの。もちろんそのときの子どもは自信満々で、「うまくできなかったらどうしよう……」なんて考えることはないですよね。
ではなぜ、成長するにつれて、自己効力感が伸びる子と低下してしまう子に分かれてしまうのでしょうか。原因のひとつとして、身近な大人の接し方や声かけの仕方など、周りの環境が影響を及ぼしていると考えられます。
自己効力感が高い子と低い子、どう違う?
自己効力感が高い子・低い子には、それぞれ以下のような特徴が見られます。
■自己効力感が高い子の特徴
- 何事もまずはチャレンジする
- 「やればできる」と思っているので全力で取り組む
- 失敗しても「次は成功するぞ」と前向きに乗り越えられる
- 自分の能力を人と比べない
■自己効力感が低い子の特徴
- やる前から諦める
- 「どうせダメだ」と思っているので全力で取り組まない
- 失敗すると「やっぱりダメだった」とさらに落ち込む
- 劣等感が強い
自己効力感が高い子と低い子では、どちらが毎日充実して過ごせるか、またどちらのほうが将来の可能性が広がるか一目瞭然ですね。
スタンフォード大学心理学教授のキャロル・ドウェック氏が行なった実験では、「自己効力感が高い子は、間違いから学習し、それを修正することができる」という結果が出たそうです。
その実験とは、子どもたちに簡単なパズルの課題を与えてクリアさせて、次に難しいパズルに挑戦させるというもの。すると、難しい課題に嬉々として取り組み、課題が難しいほどやる気になっていく数人の子どもたちの様子が見てとれました。
その反応は、「挑戦大好き! わかることが増えたらいいなって思ったんだよ!」と何とも前向きなもの。ドウェック氏によると、この子たちはそもそも、難しいことやできないことを「失敗」とは思わないのだと言います。反対に、難しい課題をうまくこなせず、前向きに取り組めない子たちは、「みじめ」「最悪」という気分を味わったのだとか。
この反応の違いこそが「自己効力感」の有無につながります。自己効力感が高い子は、目の前の壁を苦だと思わず、むしろわくわくしながら乗り越えようとするたくましさがあります。
さらに次の実験では、自己効力感を伸ばすには他者の声かけが大きなカギになるということがわかりました。
まず、小学5年生500人に簡単なパズルをしてもらい、半分の子どもたちには「君は賢いに違いない」と能力をほめる声かけをします。そして残り半分の子どもたちには、「君は一生懸命やったに違いない」と努力をほめました。
その後、子どもたち自身にパズルを選んでもらうと、能力をほめられたほうのグループは、半数以上が簡単なパズルを選び、努力を認められたグループは9割が難しいパズルを選ぶという結果が出たのです。
声かけによって「努力次第で能力を伸ばせる」と気づいた子は、努力は成功へのプロセスであり、失敗もその一過程に過ぎないと理解したため、挑戦することを恐れませんでした。一方で、声かけによって「能力は変わらない」と信じてしまった子は、失敗は自分が能力をもっていないことの証明になってしまうので、挑戦することを恐れるようになってしまったのです。
このように、まわりの人の声かけひとつで、子どもの自己効力感を高めることができるのです。では、具体的にどのような声かけをしてあげると効果的なのでしょうか。
子どもの自己効力感をアップさせる親の言葉
子どもの自己効力感を伸ばす親の対応と声かけについて、いくつかご提案します。
■結果ではなく「プロセス」をほめる!
「頑張って最後までやりきったね!」
「いろんな方法を試してみたんだね」
「そんな考え方があるなんて、お母さんも知らなかったよ」
前述の実験にあったように、「◯◯ができたから君は優秀だ」よりも、「じっくり考えて答えを出したんだね」などプロセスを認めてほめてあげましょう。結果だけをほめていると、結果を出せなかったときに「自分に能力がないからだ」と感じてしまいます。取り組んだ過程の努力や、挑戦したという姿勢、そして子どもなりに工夫した点に言及することが大切です。
■ほめるときは具体的に!
「たくさんの色を使ってカラフルな絵が描けたね」
「いろいろなやり方を試して、ひとつの答えを導き出したんだね」
「こぼさないように、しっかりと両手で支えて運んだんだね」
子どもをほめるときに、つい「すごいね!」「えらいね!」と、ひとことで済ませていませんか? ほめ言葉は具体的であればあるほど、ほめられた側はモチベーションが上がり、「次も頑張ろう!」と意欲が湧いてくるものです。
■失敗を「悪いもの」としてとらえない!
「失敗しても最後まで諦めずにやり通したね」
「この結果が出たおかげでたくさんのことに気づけたね」
「次はこうしよう、って新しいアイデアが思いついたよね」
大人は長年の経験から、失敗から学ぶことの大切さを知っています。しかし子どもは、自分が失敗したせいで両親が悲しんだり、残念がったりしている様子を見ると、「失敗は悪いことだ」と感じてしまいます。子どもが失敗したときこそ、その経験から学べることがあると伝えてあげましょう。
また親御さん自身も、なにかに失敗したときに「お母さんって本当にダメね」「はぁ、もういやになっちゃう。きっとまた失敗するわ」とぼやくのではなく、「いま練習中なの。今度は成功するからね」「よし、次は違う方法を試してみようかな」と前向きな言葉をお子さんに聞かせてあげてください。その姿を見たお子さんは、きっと「挑戦することは怖くない」「失敗してもいいんだ!」と感じるはずです。
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引っ込み思案、新しいことに挑戦しようとしない、やる前から諦める――。このような傾向が見られる子は、自己効力感を伸ばしてあげることで、次第に「自分はできる!」と自信をもって取り組めるようになります。まずは普段の会話から、お子さんの自己効力感を高めるためのサポートをしてあげましょう。
(参考)
STUDY HACKER|心理学者アルバート・バンデューラの「自己効力感」とは?
松村亜里(2019),『世界に通用する子どもの育て方』, WAVE出版.
TED|必ずできる!ー未来を信じる「脳の力」ー
島村華子(2020),『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.