「子どもが自己チューで困る。このまま大人になったらどうしよう……」「自己チューはいつ直るの?」そんな悩みを抱える親御さんは少なくないのではないでしょうか。子どもには、思いやりのある人になってほしいですよね。
じつは、相手の気持ちを考えられるかどうかは、子どもの年齢や発達が深く関係しているようです。そして、子どもが自己中心的な人間になるか、人の気持ちを考えられるようになるのかは、親のサポートが鍵を握ります。さっそく見ていきましょう。
7歳くらいまでは、「自己中心性」で物事を考える
「発達心理学の父」と呼ばれるスイスの心理学者ジャン・ピアジェは、2~7歳くらいの子どもは心理的発達途上のため、「自分以外の人には自分と違う見方や感情があることを理解できない」という事実を科学的に解明しました。そしてこの「世界を主観的な視点からしか見られない」特徴を、ピアジェは「自己中心性」と定義しています。
応用言語学が専門で広島修道大学の副学長・大澤真也氏によると、たとえば「子どもがいままで一度も会ったことのない人に対して、自分の友だちの名前や行動について話す」といった振る舞いも「自己中心性」の特徴なのだとか。大澤氏はその理由を、「子どもはたとえ相手が見知らぬ人であったとしても、自分の友だちのことについて知っていると思ってしまう」ためと説明しています。
つまり子どもは、「自分が知っているから、相手も知っている」「自分が嬉しければ、相手も嬉しい」「自分がイヤなら、相手もイヤ」と考えるということ。ですから、公認心理師の佐藤めぐみ氏が言うように、「『そんなことしたら、〇〇ちゃんどう思うかな?」という言葉が、この時期の子にとっては難しすぎる(伝わらない)」のです。
佐藤氏によると、子どもが「他者の視点」――つまり、思いやりをもてるようになるのは、7歳頃から。もしお子さんが相手の気持ちを考えられず、自己チューな行動をとっていたとしても、7歳頃までは仕方のないことだと言えるでしょう。
7歳を過ぎても他者性が育っていない子は「自己中心的」!
前述したように、子どもは7歳頃から発達とともに、思いやりをもてるようになっていきます。しかしなかには、いつまでも自己中心的で、うまく人とコミュニケーションをとれない子もいるでしょう。
ここからは、その原因と解決のヒントをご紹介していきます。
解決のヒント1:「失敗してもいい、どんなあなたでも大好き」と伝える
心理カウンセラーの佐藤栄子氏によると、自己受容が十分に育っていないと、 “自己チュー” になるリスクが高くなるそう。佐藤氏は、自己受容を「できない自分でもありのままに受け入れられる、許せる感覚」と説明しています。たとえば、自転車に乗れない子が、「いまはまだ乗れないけれど、一生懸命練習すれば、きっと乗れるようになる!」と思えるのが自己肯定感、一方、「自転車には乗れないけど、かけっこは速いから、まぁいいか」と、できない自分を受け入れることが自己受容です。
佐藤氏によると、「自己肯定感が高くて自己受容が低い子」は、なにか失敗やトラブルが起こったときに「私のせいじゃない!」と主張するような、自分大好きな自己チュー人間になりやすいのだそう。「自分はすべて完璧」「失敗するなんてありえない」と、できない自分を認められないため、「並び順が悪かった」「〇〇ちゃんのせいでこうなった」という思考回路に陥ってしまうのです。
もしお子さんが「失敗を他人や環境のせい」にするようであれば、子どもが「失敗してもいいんだ」と思える声かけを。佐藤氏は、「今日はうまくいかなかったけれど、楽しかったね」「次はできるかもしれないから、またチャレンジしようね!」など、未来につながる前向きな言葉が効果的だと話します。また、「できなくてもいい。どんなあなたでも大好きだ」というメッセージを伝えることも大切だそうですよ。
解決のヒント2:具体的なほめ言葉で、子どもの自信をアップさせる
メンタルコーチで人材教育家の飯山晄朗氏は、「自己中心的な子」の親がしがちなNG言動として、「強く叱ること」を挙げています。「言うことを聞きなさい!」「なんでできないんだ!」など、子どもを怒鳴りつけていませんか?
すでに自己中心的な子どもは、どうやら親が強く叱れば叱るほど、強く反発するようです。そうなってしまったら、ますます子どもの自己中心的な傾向に拍車をかけかねません。8,000人以上の子どもたちと向き合ってきたという飯山氏は、子どもに意見するときは、「あなたがちゃんとやっていることは知っているよ。でもこうしたほうがいいよ」と、まず、子どものできているところを認めてから、優しくアドバイスをすべきだとしています。
また飯山氏は、自己中心的な子どもは地位や名誉にこだわる傾向があると話します。そこで、折に触れて「あなたは〇〇で1番」だと伝えてあげましょう。「笑顔が1番だね」「あいさつが1番だね」など具体的なほめ言葉を伝えることが、子どもの本物の自信につながります。
解決のヒント3:「生まれつき自己中心的」でも、性格は改善される!
教育評論家の親野智可等氏によると、自己中心的な性格の子どものなかには、「先天的」つまり生まれもった性格が自己中心的傾向にある子どもがいるそうです。この場合、親はどうすればいいのでしょう。
子どもが自己中心的な言い分を並べ続けるとつい、「いい加減にしなさい!」と頭ごなしに怒っていませんか? しかし、ここで親に必要なのは、子どもの気持ちに寄り添う姿勢と忍耐のようです。親野氏は、かつての教え子だった「生まれつき自己中心的な性格」だと思える小学生・A子さんの実例を挙げながら、解決策を提示しています。以下は、A子さんの母親がとった行動です。
A子さんが、自分に非がなくて相手に非があることをずっと話していても、それを受容的かつ共感的に聞いていました。(中略)そして、たっぷり聞いたうえで、初めて相手の気持ちも考えさせようとしていました。
(引用元:ベネッセ教育情報サイト|小5の息子が自己中心な性格で困っています[教えて!親野先生])
親野氏によると、A子さんの母親のように、「子どもの言い分を、まずきちんと聞くこと」「うなずきながら、肯定しながら聞いて受け入ること」がとにかく大切なようです。
A子さんの母親は、A子さんが自己チューな話をしても、「そうだね。悔しかったんだね」と、A子さんの気持ちに共感していました。親野氏は、声かけのポイントを「行為を咎めるのではなく、まず子どもの気持ちを認めること」だとしています。
その後、高校生になったA子さんは、なんと自己中心的な性格がすっかり改善されたのだそう。親野氏は、「孫悟空を手の平にのせたお釈迦さまのような気持ち」で気長に対応することで、子どもの自己中心的な性格は変わっていくとアドバイスしていますよ。
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社会学者で早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏は、「自己中心的な人は相手と心を通わせるということができない」「実際の自分を受け入れ、実際の相手を受け入れ、そして心を通わせて生きていくということができない。人と人との心のつながりの喜びを経験できない」と断言しています。加藤氏の言うように、“自己チュー” であることは、自分自身をも苦しめることになるのです。そうならないように、親が子どもの成長を丁寧に観察し、適切な時期に他者性を育む働きかけをしてあげましょう。
(参考)
Woman excite|子どもの自己肯定感「ほめて伸ばす」は正しい?わが子を“自信満々の自己中”にしないために
東洋経済オンライン|「自己中心的な子」の親がしがちなNG言動4つ
ベネッセ教育情報サイト|小5の息子が自己中心な性格で困っています[教えて!親野先生]
コトバンク|自己中心性
日本ピアジェ会|ピアジェ理論による幼児教育
広島修道大学学術リポジトリ|ピアジェとヴィゴツキーの理論における認知発達の概念 : 言語習得研究への示唆
SHINGA FARM|ピアジェ博士の発達理論から見た7歳反抗期の理由とは
藤永保 監修(2006), 『こころの問題辞典』, 平凡社.
PHPオンライン衆知|「自分の意見には価値がある」と態度に出してくる人の自己中な心理