教育を考える 2019.10.28

子どもの自己肯定感が低下する「ダブルバインド」。“条件付きの愛” は危険です

編集部
子どもの自己肯定感が低下する「ダブルバインド」。“条件付きの愛” は危険です

親が無意識に子どもを脅して言うことをきかせるダブルバインド。「子どもを脅すなんて!」と思うかもしれませんが、じつは日常の何気ない会話の中でも、知らないうちにダブルバインドになっている可能性があるのです。

今回は、ダブルバインドが子どもに及ぼすさまざまな影響について、詳しく解説していきます。

無意識のうちに子どもを脅すしつけ「ダブルバインド」の恐ろしさ

公園で遊ぶ子どもに「そろそろ帰るよ」と声をかけたとします。しかし、なかなか帰りたがらない子どもに次第にイライラが募り、「もういいかげんにして! お母さん先に帰っちゃうからね!」と言ったものの、当然置いて帰るわけにもいかず、立ち去る “ふり” をするーー。

スーパーに買い物に行きました。「お菓子をひとつだけ買ってあげる。自分で好きなのを選んでね」と子どもに言ったところ、500円もするおもちゃ付きのラムネ菓子を選んできたので、「これじゃなくて違うお菓子にして」と突き返すーー。

みなさんも一度は経験があるのではないでしょうか? じつはこれらは、親が無意識に子どもを脅して言うことをきかせようとする『ダブルバインド』の典型的な例なのです。

ダブルバインドとは
日本語で “二重拘束” の意味を持つ『ダブルバインド』とは、1956年に米国の文化人類学者・精神医学研究者のグレゴリー・ベイトソン氏によって生み出された造語。同時に送られるふたつの矛盾したメッセージの間で板挟みになってしまった相手が、最終的には従わざるをえなくなることで、ストレスを溜め込むコミュニケーションパターンを指す。

 

この『ダブルバインド』、私たちが考える以上に子どもに与える影響が大きいようです。

ダブルバインドによって引き起こされる悪影響の数々

ダブルバインドが子どもに与える影響とは、いったいどのようなものなのでしょうか。『1人でできる子になる「テキトー母さん」流 子育てのコツ』(日本実業出版社)など多数の子育て本を執筆している立石美津子さんによると、一番の悪影響は間違ったコミュニケーションの方法を学んでしまうことだといいます。

弟や妹、友だちを脅すようになる

ダブルバインドによってしつけられた子どもは、自分よりも立場が弱い弟や妹、友だちに対して「おもちゃ貸してくれなかったら、もう一緒に遊んであげない」などと脅しのような発言をするようになります。

立石さんによると、子どもは親の背中を見て育つので、相手を自分の思い通りにコントロールするには脅せばいいんだと学んでいるに過ぎないそう。本人には悪気はなく、コミュニケーションの取り方を間違って学んでしまっているのです。

親を信用しなくなる

子どもはいずれ成長し、知恵がついてくるもの。幼いうちは親は絶対的な存在であり、生きていくためには従わなくてはならないと本能的に感じています。しかし、いずれ大きくなるとお母さんは嘘を言っている」「お父さんは口ではこういうけど、結局いつも実行しないと、親を信用しなくなるのです。

すると、立場が逆転したかのように「ゲームを買ってくれたら勉強するよ」「帰りにお菓子を買ってくれないと、ピアノのレッスンに行かないからね」などと親に対して脅すような発言が増えてくるのです。

自己主張できなくなる

『ママも子どもも悪くない! しからずにすむ子育てのヒント』(学研プラス)の著者であり臨床心理士の高山恵子先生は、自分の選択を否定されたり、変更を余儀なくされたりするダブルバインドの状態が続くと、子どもは自己主張をしなくなると述べています。

「自分の意見を言っても、どうせまた否定される」「結局はお母さん(お父さん)の思い通りに物事が進む」と思い、自分で選択することを諦めてしまうのです。

自分で考えることをやめてしまう

子ども教育のプロフェッショナル養成に携わる白梅学園大学教授の増田修治先生によると、子どもの自由を尊重している “つもり” の親は、ダブルバインドによって子どもの心を縛りつける傾向があるそうです。とくに自身が高学歴であり、子どもにも学歴の高さや良い就職先を望んでいるような親に、その傾向がよく見られるといいます。

たとえば、「自分が行きたい高校を選びなさい」と寛容なフリをしていても、いざ子どもが選んだ高校が気に入らないと「ちょっと偏差値が低すぎるんじゃない?」と否定してしまう親は、無意識のうちに親の価値観を刷り込ませようとしているそう。

「今の子は、空気の読めないKYなヤツと思われたくない気持ちが強いため、ヒドゥン(隠された)メッセージの影響を色濃く受ける。ダブルバインド親に育てられた子どもは、親に反抗できず、自分の気持ちや意思がわからなくなる傾向がある」

(引用元:AERA dot.|「教育毒親」ダブルバインドで子どもの思考停止も

親が思っている以上に、子どもは親の言葉に隠されたメッセージに気づいています。そして “空気を読んで”、自分の意思よりも親の願いを優先してしまうというわけです。

自己肯定感が低下する

増田先生は、ダブルバインド親は、じつは条件付きの愛情を提示しているとも指摘しています。「勉強ができるあなたが好きよ」「運動が得意なあなたが好きよ」といったメッセージを無意識に送っていることが多く、それに気づいた子どもは「勉強(運動)ができなくなったら見捨てられちゃうかも……」と思い、健全な自己肯定感を持てなくなってしまうのです。

勉強や運動ができなくても、ありのままのわが子が愛おしいということは、あまりにも当たり前すぎてわざわざ伝える必要がないと考えていませんか? 子どもの自己肯定感を伸ばすためにも、親だからこそ気づいてあげられるわが子のすばらしいところを、子ども自身にちゃんと伝えてあげましょう。

ダブルバインドにならない会話術

ありふれた親子の会話も、ちょっと気をつけるだけでダブルバインドを回避することができます。立石さんと高山先生のアドバイスをもとに、いくつかの例をあげていくので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

NG例
「テレビを見てもいいよ」とだけ告げる。
その後、ダラダラとテレビを見続ける子どもに「いつまで見てるの!」と叱る。
OK例
はじめに条件を決めて説明する。
30分だけテレビを見てもいいよ
この番組が終わったらおしまいね
とあらかじめ区切りをつけておけば、子どもは注意されても混乱することはない。そして親も、子どもの想定外の行動や発言にイライラせずにすむ。
NG例
「ごはんができたから、早くおもちゃを片づけて」と子どもに言うが、なかなか片づける気配がない。
イライラが頂点に達し、「片づけないならおもちゃ捨てちゃうからね!」「食べないんだったら今日はごはん抜きよ!」と脅す。
しかし結局はおもちゃを捨てないし、ごはんを食べ始めたら「残さず食べなさい」と矛盾したことを言う。
OK例
親の希望を一方的に押しつけるのではなく、選択肢を与えて子どもに選ばせるとスムーズに。
50数える間にお片づけできるかな? それとも30でできるかな?
と、どちらを選んだとしても親にとっては支障がないような案を提示するのがポイント。
NG例
「お菓子をひとつだけ買ってあげるから、好きなのを選んでいいよ」
しかし、おもちゃメインのお菓子を選んだ子どもに対して、「これはダメ。ほかのにして」と選んだものを否定する。
OK例
選んできたお菓子を買ってあげることができない場合は、それが欲しいのねと、いったん子どもの気持ちに共感して受け入れる。
それにより、子どもは「自分の気持ちを言ってもいいんだ!」と安心できる。その後、でも、これはラムネがひとつしか入ってないから、別のにしようかとなぜダメなのかを説明すると、頭ごなしに叱るよりもスムーズにいく。

決して子どもを脅しているつもりはなくても、子どもが親の矛盾した言動を指摘できずに、結果的に従わなければならない状況に追い込まれたら、それは『ダブルバインド』です。日々の親子の会話の中で、頻繁にダブルバインドが使われていないか、少しずつ意識していくといいでしょう。

***
ダブルバインドになってしまうのは、子どもが自分の思った通りに動かないことや、「わが子はこうあってほしい」という理想の姿からかけ離れてしまったことによる失望も関係しています。しかし、そもそも子どもは予想外の選択をするもの。自分が求めていた答えを返してくれなくても、まずは受け入れてあげることが大切です。

(参考)
PHPのびのび子育て 2019年10月号,PHP研究所.
GerNavi web|あなたも使ってない? 子どもを混乱させるダブルバインドの罪と罠
AERA dot.|「教育毒親」ダブルバインドで子どもの思考停止も
あんふぁんweb|高学歴親ゆえの子育ての難しさが問題になっている