音楽をたのしむ/歌 2018.10.31

子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?

子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?

幼いお子さんをお持ちの親御さん、親子で一緒に歌を歌っていますか? 音楽による幼児教育研究が専門の、高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授・岡本拡子先生によると、子どもにとって歌は親とのつながりを感じられるもの。親は子どもと一緒にたくさん歌を歌ってあげるべきなのだそうです。

では、幼い子どもの成長につなげるために、いったいどんな歌を歌えばよいのでしょうか。まずは、子どもが歌を歌うことの意義から語っていただきました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

歌は人間的成長に欠かせないもの

子どもが歌うことにはたくさんのメリットがあります。ただ、わたしとしては「メリット」という言い方はあまり好きではないんですけどね。というのも、いいことがあるから人は歌うわけではないからです。歌うときには声を使います。そして、声を使うということは体を使うということですから、歌うという行為は人間のプリミティブな欲求、本能に根ざしているものと言えるからです。

歌というものが生まれた当初は、おそらく、伝達やコミュニケーションのために、そのうち儀式や神事などに使われたのでしょう。それから、気持ちの高揚や感情を表すひとつの手段として、また、人の楽しみとして使われていった。それが歌なのです。

では、子どもの歌となるとどうでしょうか。まず、どこからが歌でどこからが歌ではないのか、ということを考えてみてください。たとえば、子どもがお友だちの家に遊びに行ったときに言う「ひーろーちゃん、遊びましょ」。これは歌でしょうか、歌ではないでしょうか。遊びの輪に入れてもらうときの「いーれーて」「いーいーよ」、あるいは数を数えるときの「いーち、にーい、さーん、しーい」はどうでしょう。これらには決まったリズム、メロディーがあるとも言えますよね。

子どもたちは、誰かがつくった歌を歌うだけではなくて、遊びのなかでどんどん気持ちが弾んでくると、たくさんの「歌」を歌っているのです。これらも歌であり、音楽の入り口と言えるでしょう。そして、お母さんなど周囲の大人も子どもと一緒にたくさん歌ってあげるべきだと思います。それにはふたつの理由があります。ひとつは、子どもにとって、歌は親とのつながりを感じられるものだからです。

親が乳幼児をあやす際に自然に発する高い音域で抑揚のある「マザリーズ」と呼ばれる話し方で話すと、子どももそれに応えて声を発しますが、じつはその声の波形やリズムは親のそれらとまったく同じなのです。その時点で、親子の音楽的なやり取りははじまっていると言っていいでしょう。それはコミュニケーションというより、「情動の交流」と呼ぶべきものです。

子どもが明確に歌と呼べるものを歌うようになるのは1歳頃からですが、それ以前にも赤ちゃんはリズミカルに歌っています。そうして親と「歌」を交わすことで、子どもは親とのつながり親と通い合っていることを無意識のうちにも感じるのです。

それから、親など周囲の大人が子どもと一緒にたくさん歌ってあげるべきもうひとつの理由は、歌が人間的成長に欠かせないものだからです。誰かと一緒に歌を歌う際に重要なのは、呼吸を合わせることですよね。そして、人が呼吸を合わせることが求められるのは歌うときだけではありません。会話のなかでどう相づちを打つかといったことも、人と呼吸を合わせることのひとつでしょう。

人は必ず社会のなかで生きていくもの。だからこそ、人との関わりのなかで、「自分が社会の一員なんだ」と感じることは、子どもの成長に絶対に欠かせないものです。人と呼吸を合わせることが求められる歌というものは、そういう社会性を育むことに大きな役割を果たすものだとわたしは考えています。

また、親が子どもと一緒に歌えるということは、親子関係がいい状態にあるというサインでもあります。怒ったりイライラしたりしているときには大人は歌いませんよね。歌を歌うということは親がリラックスしていることの証なのです。子どもが健やかに育つためにも、親がそういう心の余裕を持てるような家庭、社会であってほしいですね。

歌だけではなく五感が総合的に子どもの感性を育む

では、どういう歌が子どもの成長につながるのでしょうか。幼い子どもの場合、子どもの認知能力や発達ときちんと合っているものである必要があります。簡単に言えば、子どもが「表現できる歌」であるべきでしょう。

日本にはわらべ歌という、子ども自身がつくって歌い継がれてきた歌があります。それらの多くは、日本語のリズムや抑揚に合わせてつくられた音域が狭いもの。子どもにも無理なく発声できて、話しはじめたばかりの子どもでも、しゃべることの延長のような感じで歌えます。

幼稚園や保育所の年少さんくらいの子どもの場合だと、有名なところでは『ちょちちょちあわわ』『東京都日本橋』など、赤ちゃんでも一緒にできる手遊び歌がいいでしょう。それから、年少さんの子どもでも歌詞の意味が理解しやすいもの。たとえば、『ぞうさん』『おつかいいありさん』『やぎさんゆうびん』など。これらは、動物に「さん」をつけて人間のように扱っているので、子どもが内容を理解してイメージしやすいのです。

最近の保育の現場を見ていると、子どもには難しい歌を歌わせていると感じることもあります。なかには、「大人にも難しいんじゃないかな?」と思うような歌もあるくらい。それに、大人が聴いてうれしい歌も多いですね。子どもの歌と言いながら、大人にウケる歌です。そうではなくて、もっと子どもの発達に目を向けて、それに合った歌を歌わせてあげてほしいですね。

そして、大切なのは、いろいろな歌を歌うより、子どもが大好きな歌を(作詞・作曲という意味ではなく)つくってあげること。季節に関する歌なんていいですね。夏になったら、あなたのお母さんが必ず歌ってくれた歌があるとしましょう。子どもの頃の記憶というのは、歌と密接に結びついているものです。すると、大人になっても夏がくるたびに、お母さんの歌とともに、お母さんと散歩したときに見た景色やそのときの草の匂い、つないでいた手の感触といった五感がよみがえってくる。それらのさまざまな感覚こそが、あなたが大人になるための感性を育んでくれたのです。

感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例と指導案 音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別
岡本拡子 著/北大路書房(2013)

■ 音楽教育のエキスパート・岡本拡子先生 インタビュー一覧
第1回:幼少期における音楽体験の意味――「音楽という環境」を通し子どもの感性を伸ばす
第2回:子どもの感性を育む「歌と五感」――幼い子どもの成長につながる歌ってどんな歌?
第3回:「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる
第4回:【年齢別おすすめ】子どもの想像力がアップする! 5つの「手遊び歌」

【プロフィール】
岡本拡子(おかもと・ひろこ)
1962年8月25日生まれ、大阪府出身。大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程音楽教育専攻修了。聖和大学大学院教育学研究科博士後期課程幼児教育専攻満期修了。聖和大学助手、美作大学短期大学部講師などを経て、現在は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科教授。大学在学中より幼稚園や小学校などで「歌のお姉さん」として活動。その後、子育てをしながら大学院で幼児教育を学ぶ。現在は保育者養成に携わりながら、幼児やその保護者を対象としたコンサートや保育現場でのコンサートをおこなうほか、子どもの歌の作詞・作曲を手がける、保育者研修の講師を務めるなど、幅広く活躍する。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。