2019.10.4

「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――

「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――

(この記事はアフィリエイトを含みます)

親であれば、子どもにしっかりと勉強をしてほしいもの。ついつい口うるさく、「勉強しなさい!」なんていっているかもしれません。でも、千葉大学教育学部附属小学校の松尾英明先生は「『勉強しなさい』といわれた子どもが本当の意味でやる気を出して勉強をするという例は一度も見聞きしたことがない」といいます。子どもの勉強に対して、親はどういう意識を持っておくべきなのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

自発的に勉強する子どもの親に見られる共通点

親に「勉強しなさい」といわれて、勉強する子どもはいます。でも、それは本当の意味でやる気を出しているわけではありません。これは、持って生まれた性格として従順性が強い子どもに見られることで、本当は勉強を好きではないのに、ただ命令に従ってしまうということに過ぎないのです。もちろん、それではなかなか勉強の成果も出ませんし、子どもにとっても不幸なことですよね。

一方で、「勉強しなさい」なんて親はひとこともいっていないのに、きちんと勉強するという子どももいます。割合としてははっきりわかりませんが、そういう子どもが一定数いることはたしかです。みなさんが子どもの頃にも、塾に通っているわけでもないのにすごく勉強ができる同級生がいませんでしたか? そういう子どもの親にはある程度の共通点が見られます。

その共通点とは、子どもが勉強するようにうまくリードしているということ。「勉強しなさい」といわないからといって、子どもが勉強することを望んでいないわけではありません。「勉強しなさい」という代わりに、子どもが勉強したくなるような環境をつくっているのです。

たとえば、勉強につながるようなものに触れる機会を増やすため、博物館科学館などに連れて行く。あるいは、さまざまな教材を与える。もちろん、無理強いするわけではありません。そうした機会を増やし、子ども自身が自分の興味にヒットするものを探すことができるようにしているわけです。

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また、子どもとの会話のなかにうまく勉強の要素を取り込んでいる親もいます。たとえば、勉強で得た知識を問うにもテストではなくクイズにする。「ちょっとクイズをやってみようか」「難しいけどできるかな?」なんていって、子どもの興味ややる気をくすぐり、日常会話のなかででも自然に勉強に触れるようにしているのです。

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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子どもは育つようにしか育たない植物のようなもの

そもそも、子どもは自然に育つようにしか育ちません。わたしは、子どもというのは植物に近いものだと思っています。植物を育てるとき、いくら「伸びろ! 伸びろ!」といったところで伸びるわけではないですよね? でも、多くの親が「伸びろ!」というように「勉強しなさい」と子どもにいい続けていることに違和感を覚えます。

また、植物にはたくさんの種類があります。それなのに、親たちはそろって子どもを、人気があって人目を引くバラのような花にしようとしているように思うのです。もしかしたら、その子はバラではなく、地味だけど道行く人々を癒やす道端の小さな花かもしれないし、食べられる野菜かもしれません。

そういう子ども自身の特質に着目してあげることが、なによりも大切なのではないでしょうか。本当なら芸術に秀でた力を持っているはずなのに、無理やり勉強に向かわされてしまえば、親が子どもの才能を摘むということになってしまうのです。

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それぞれにちがう特質を持つ人間がいるから社会は成り立つ

これは、つねに多くの子どもと接するわたしのような教員であれば当然のこととして理解できることです。1クラスの30数人の子どもたちはそれぞれにまったくちがう人間であり、子どもたちの個性はまさにでこぼこ。全員が同じように育つなんてことはあり得ません

でも、たとえ兄弟姉妹がいても、限られた数の我が子としか基本的に接することがない親には、その視点が抜け落ちているように感じます。ひとつの価値観を押しつけるように、外的な働きかけで子どもを思いどおりに育てようという発想は捨ててしまいましょう。大人だって同じではありませんか? たとえば、「この人は学歴が高いからいい人だ」「あの人は学歴が低いから駄目な人だ」というふうに、ひとつの価値観で評価されると誰でも嫌でしょう?

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誤解を恐れずにいえば、子どもにも「勉強に向いている子」と「勉強には向いていない子」がいて当然です。勉強に向いている子に、本人が求めるままに勉強をさせてあげれば、もちろん学力はしっかり伸びていくでしょう。でも、勉強に向いていない子にそうさせようとしてもできるものではありません。だとしたら、その子はどんな植物の種なのかを親がしっかり見抜いて、向いていることが仮に勉強ではなくとも、その子に合った機会や環境を与えてあげるべきでしょう。

将来、子どもたちがその一員となる社会という視点で考えれば、全員が全員、同じような人間ばかりでは社会は成り立ちません。それぞれにちがった特質を持ったいろいろな人間がいるから社会は良くなるのです。子どもが持っている特質をしっかり伸ばせるようにしてあげることこそ、もっとも大切な親の役目なのではないでしょうか。

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※本記事は2019年10月4日に公開しました。肩書などは当時のものです。

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■ 千葉大学教育学部附属小学校教諭・松尾英明先生 インタビュー一覧
第1回:「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――
第2回:クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある
第3回:熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる
第4回:求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

【プロフィール】
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年8月24日生まれ、宮崎県出身。千葉大学教育学部附属小学校教諭。「教育を、志事にする」を信条に自身が志を持って教育の仕事を行うと同時に、志を持った子どもを育てることを教育の基本方針としている。野口芳宏氏の「木更津技法研」で国語、道徳教育について学ぶ他、原田隆史氏の「東京教師塾」で目標設定や理想の学級づくりの手法についても学ぶ。著書に『「あれもこれもできない!」から…「捨てる」仕事術 忙しい教師のための生き残りメソッド』、『新任3年目までに知っておきたい ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術』、『子どもの顔がパッと輝く! やる気スイッチ押してみよう! 元気で前向き、頑張るクラスづくり』(いずれも明治図書出版)などがある。他にも教育関係の情報発信に力を入れており、ブログ「教師の寺子屋」を主宰し、メルマガ「「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門賞を受賞している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。