教育を考える 2019.10.7

求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

AIやロボットの加速度的な進化により、いまは時代の過渡期にあるともいわれます。これから大きく変化していく時代を生きていく子どもたちには、どんな力が求められるのでしょうか。学級運営に関する著書も多い千葉大学教育学部附属小学校の松尾英明先生は、「想像、創造、協働の力に加えて、思いやりの心こそが大切」だと教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

これまでの「作業」的な仕事はロボットが担う

わたしが考える「これから活躍できる人間」像を語る前に、まずはこれまでの時代についてお伝えしましょう。よくいわれていることではありますが、いままで重宝された人間というのは、よく命令を聞いて決められた作業を手順通りにできる人間でした。かつて、栄養ドリンクの「24時間、戦えますか」というキャッチコピーが注目されたことがありましたが、まさにその言葉のように、上からの指示があれば24時間でもバリバリ働くような人間が求められていたのです。

でも、そういう作業的な仕事に関しては、今後は間違いなくロボットが担うようになっていきます。ロボットなら、作業の手順にミスを起こすということはありませんし、それこそ24時間働くことができる。決まった作業をこなすことについては、ロボットが最強なのです。

そして、今後はそういった従来型の価値観は不要になってきます。これからの時代を生きていく人間に求められるものとしてまず挙げられるのは、「想像」「創造」の力です。みんなが幸せになるために、どうしたら面白くなるのか、楽しくなるのか、便利になるのかと想像し、創造する。より効率的に作業をこなすロボットをつくるにしても、それらの力が求められるようになっていくはずです。

協働力とは協調性でもコミュニケーション能力でもない

また、個人でこなせる作業をひたすら繰り返すのなら黙々とひとりでもできますが、多くの人を幸せにするような大きな創造というものは、決してひとりでできるようなものではありません。そこで求められるのは、「協働」の力です。仕事の内容に応じてさまざまなスキルを持つ他の人間たちと緩やかにつながるなかで、自分のスキルをしっかり発揮する力が必要なのです。

ここでみなさんに質問をしてみます。協働力と聞いて、果たしてどんな力をイメージするでしょうか? もしかしたら、他人とうまくかかわるための協調性やコミュニケーション能力といったものをイメージした人も多いかもしれません。でも、じつはそうではありません。

協働力とは、チームの総合力といってもいいでしょう。同じような人間が集まった同質の集団ではいい仕事はできません。集団には個性的な人間が集まっているほうがいいのです。突飛もない発想をする人間、やたらと勢いがあって突破力を持っている人間、それとは対照的に熟考できてじっくり準備や作業を進められる人間……というふうに、ある意味で偏っている人間がそろっていることがベストの編成です。すなわち、「こういう人間じゃなければならない」ということはなく、自らの特質に合ったスキルをどれだけ伸ばしているかということこそが重要となります。

もし、必要とされる可能性が高いということでいえば、リーダーシップがある人間かもしれませんね。それぞれに異なるスキルを持った人間も、その集団でなにを成し遂げるのかという同じ「目標」を見ておかなければなりません。個性はバラバラでも、集団が目指すべき方向を向ける人間でなければならないといういい方もできますが、それはリーダーの腕次第ということもできます。「こういうことができたらいいよね」というビジョンをリーダーが示すことができれば、その集団に所属する人間はきちんとその方向に進んでいくはずですから。

協働力を生む「困っている子がいてありがたい」という意識

協働力として、加えていうなら「思いやり」も挙げられるかもしれません。みなさんも、思いやりがある人に対しては「この人となら一緒に働きたい」と思うのではないでしょうか。そして、思いやりの心があれば、異なる個性を持った人間の集団のなかで困っている誰かに対して「助けてあげよう」と思うはずです。しかも、それが自分の得意なことでできるのなら、なおさらでしょう。

これは、わたしが学級運営をするときに常に子どもたちに伝え続けていることでもあります。どんな人間にも苦手なことがあってあたりまえです。苦手なことで困っていれば、それが得意な誰かに助けてもらえばいい。逆に、自分が得意なことで困っている人がいれば、自分が助けてあげればいいのです。

そう考えれば、自分の得意なことで困っている人がいなければ、自分の力を発揮する場面はなかなか訪れないのですから、「困っている人間」も必要だと考えるようになる。そうして、子どもたちは「いろいろな子がいてくれてありがたい」「なにかができない子がいてくれてありがたい」というふうに考えるようになるのです。

将来、社会のなかで自分の力をしっかり発揮できるような人間に子どもを育ててあげるためにも、この「思いやり」の心を家庭でも教えてあげてほしいと思います。

お年頃の高学年に効く! こんな時とっさ!のうまい対応
松尾英明 著/明治図書出版(2019)

■ 千葉大学教育学部附属小学校教諭・松尾英明先生 インタビュー一覧
第1回:「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――
第2回:クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある
第3回:熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる
第4回:求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

【プロフィール】
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年8月24日生まれ、宮崎県出身。千葉大学教育学部附属小学校教諭。「教育を、志事にする」を信条に自身が志を持って教育の仕事を行うと同時に、志を持った子どもを育てることを教育の基本方針としている。野口芳宏氏の「木更津技法研」で国語、道徳教育について学ぶ他、原田隆史氏の「東京教師塾」で目標設定や理想の学級づくりの手法についても学ぶ。著書に『「あれもこれもできない!」から…「捨てる」仕事術 忙しい教師のための生き残りメソッド』、『新任3年目までに知っておきたい ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術』、『子どもの顔がパッと輝く! やる気スイッチ押してみよう! 元気で前向き、頑張るクラスづくり』(いずれも明治図書出版)などがある。他にも教育関係の情報発信に力を入れており、ブログ「教師の寺子屋」を主宰し、メルマガ「「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門賞を受賞している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。