『ヘリコプターペアレント』という言葉、ご存じでしょうか? 「モンスターペアレント」や「毒親」ほど広く知れわたってはいないものの、小さな子どもを育てる親にとって、決して人ごとではない問題をはらんでいるのです。
今回は、真剣に子どもと向き合う親であれば、だれもがその予備軍となりうる『ヘリコプターペアレント』についてお伝えします。
目次
ヘリコプターペアレントとは何か
ヘリコプターペアレントとは、まるでヘリコプターが上空でホバリングしているように、常に子どもの頭上で旋回し、監視し続ける過保護な親のことを指します。子どもが少しでも困難に直面すると、すぐに介入して問題を解決してしまいます。子どもの失敗を何としても避けようとする親の姿勢から名付けられました。
アメリカなどでは社会問題として認識されるようになっています。親であれば、わが子を心配する気持ちは十分理解できますが、過度な干渉はかえって子どもの成長を妨げてしまう可能性があるのです
過保護な子育てが子どもに与える影響
心心理学に基づいた育児メソッドを提唱する佐藤めぐみ氏によれば、以前は「わが子への愛情ゆえ」と過保護を好意的に捉える傾向がありましたが、最近の研究ではその考え方に変化が見られます。
研究の結果わかったことは、次の通りです。
- 親としての温かみがないうえに過保護だと、子どもはのちのち、自己否定感に悩み、問題行動のリスクも高まる。
- 親としての温かみを保った過保護の場合、1のケースと比べれば確率は減るが、自己否定感や問題行動のリスクはなおも残る。
つまり「いくら愛情あふれる温かい接し方をしていても、決して過保護による悪影響がなくなるわけではない」のです。子育てにおいて、愛情ゆえの過保護が容認されていた時代は変わりつつあります。
ヘリコプターペアレントに育てられた子どもたちの将来
では、過保護に育てられた子どもには具体的にどんな影響があるのでしょうか。主な影響3つをまとめました。
自立心の欠如と依存の形成
過保護に育てられた子どもは、喪失や失敗、失望といった誰もが経験する状況に対処する方法を学ぶ機会を失います。2013年のワシントンポスト紙の報告によれば、「過剰な親の干渉は、子どもの自主性と能力の発達を阻害する」とされています。
失敗から学ぶ教訓や、一人で問題を解決する力、試行錯誤しながら周囲とコミュニケーションを図る努力は、生きていく上で必要不可欠なスキルです。これらの力が身につかないまま社会に出ると、困難に直面したときに対処できず、大きな挫折を味わうことになりかねません。
決断力の低下
ヘリコプターペアレントはわが子の人生や経験の多くを決めてしまうため、子どもは決断する機会が圧倒的に少なくなります。小さな選択から大きな人生の岐路まで、親が全てを決めてしまうと、子どもは自分で考え、選択する力が育ちません。
その結果、大人になっても「何を着ようか」「何を食べようか」といった日常的な選択すら難しく感じ、常に誰かの指示や承認を求めるようになってしまいます。
精神的な不安定さと完璧主義
ワシントンポスト紙の報告では、「ヘリコプターペアレントに育てられた大学生は、うつの割合が高い」という調査結果も紹介されています。
幼少期に失敗経験が少なく、常に成功体験だけを積んできた子どもは、「完璧な自分」しか認められないという価値観を形成しがちです。ちょっとした失敗も許せず、自分を責め続ける完璧主義に陥りやすくなります。また、自分の能力に自信が持てず、新しいことに挑戦する勇気が育ちにくくなります。
ヘリコプターペアレントになりやすい親の特徴
「うちは子どもを甘やかしていないし、厳しくしているから大丈夫」と思っていても油断は禁物です。『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』の著者・立石美津子さんは、「どんな親でもヘリコプターペアレントになる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
特に、以下のような特徴を持つ親は注意が必要です。
1. 完璧主義
子どもに対して「理想の子ども像」を求めるだけでなく、自分自身にも「理想の母親・父親像」を追い求める完璧主義の親は要注意です。それがやがて、「子どもの評価=自分自身に対する評価」となり、子どもの失敗を自分の失敗としてとらえてしまうのです。
その結果、子どもが失敗する前に手や口を出し、子どもの自立を妨げてしまうのです。「この程度のことは教えておかないと」「間違えたら恥ずかしいから」と、先回りして助け舟を出してしまいます。
2. 気が利きすぎる
子どもの様子をよく観察し、気遣いができることは素晴らしい親の資質ですが、四六時中注意喚起するのは明らかに過干渉です。。子どもが何も言わないのに「のど乾いたんじゃない?」と頻繁に声をかけたり、「忘れ物はない?」「宿題終わった?」と常に確認したりする行動は、子どもの自主性を奪ってしまいます。
子どもの「自分の状況を自分で認識し、必要なときに自ら行動する」機会を失ってしまうのです。
3. せっかち
なんでも早く、合理的に終わらせてしまいたいタイプもヘリコプターペアレント予備軍だといえるでしょう。確かに、あれこれと指示を出してその通りに行動させれば、無駄を省き最短でゴールにたどり着くことができます。
しかし、子どもがゆっくりと考え、試行錯誤する時間を待てず、「こうすればいいんだよ」と答えを教えてしまうと、結果として子どもは自分でSOSを出せなくなり、指示待ち人間になってしまうのです。
これら3つのタイプに共通しているのは、子どもの失敗の機会を奪っているということ。自分で考えて、自発的に行動した結果、成功の喜びも失敗の悔しさも身体で覚えることができます。そのような体験の機会を奪うことは、子どもが大きく飛躍するきっかけを失うことにもつながるのです。
適切な距離感で子どもの自立を促す方法
ヘリコプターペアレントの危険性を理解していても、「それでもつい過保護になってしまう」「かといって放任するわけにもいかない」と悩む親は多いでしょう。
前出の佐藤氏は、親が過保護になる背景に「子どもにイヤな思いをさせたくない」という親心があります。しかし、「子どもがもつ “負の感情” を恐れないことが大事」だといいます。「イヤだな」という気持ちは子どもの成長に不可欠です。
子どもが示す距離感を尊重する
適切な親子の距離感について、佐藤氏は「基本的には、子どもが”適切な距離”を知っています」と言います。たとえば、公園で親から離れて友だちと遊ぶ子どもでも、転んだり嫌なことがあったりすると、すぐに親のもとに戻ってきます。
つまり、状況に応じて子どもが示す距離こそが、その子の心の状態に合った距離感なのです。親は子どもが求める距離を尊重し、見守る姿勢が大切です。
子どもに決断の機会を与える
日常会話の中で、子どもが「ママ、これどう思う?」「パパが決めて」と言うことが多いようであれば注意が必要です。できるだけ子どもが自分で決断する機会を作りましょう。
「あなたはどう思う?」「どうしたいの?」という問いかけを日常的に行うことで、子どもの主体性を育てることができます。小さな選択から始めて、徐々に大きな決断を任せていくことが、子どもの自信につながります。
失敗経験を大切にする
幼児教室を経営していた立石さんは、ある子がハンカチを忘れた際に「ママが入れてくれなかったんだもん!」と親のせいにし、母親が「ごめんね、ママが入れ忘れちゃって……」と謝る光景を目撃したといいます。さらに、次回も忘れ物をしたときには母親が慌てて保育園に届けに来たそうです。
この「子どものために」という親の行動は、じちは子どもの自立を妨げています。子どもは「自分のものは自分で準備する」という基本的な責任感を学ぶ機会を失ってしまうのです。
失敗は成長のための貴重な経験です。忘れ物をして困った経験があるからこそ、次は忘れないように気をつけようという意識が生まれます。小さな失敗を重ねることで、子どもは自分の行動に責任をもつようになるのです。
子どもの自立をサポートするのが親の役目
子育ての究極の目標は「子どもの自立」です。困ったときに自分から助けを求める力をもち、自分の力で問題を解決できる人間に育てることが親の役目といえるでしょう。
ヘリコプターペアレントはその子育ての最終目標に反して、子どもの自立を妨げ、永遠に子育てを続けなければならない状況を作り出してしまいます。
幼児期から適度に失敗や困難を経験させ、自分で考え、決断し、行動する力を育てることが、将来の自立へとつながります。子どもを心配する気持ち、大切に思う気持ちは誰もがもっていますが、行き過ぎた干渉は百害あって一利なしだと心に留めておきましょう。
***
自分では気づきにくい「過保護・過干渉」。お子さんの様子をよく観察して、「自分で何にも決められないようだ」「すぐに人のせいにしているように見える」と感じたら、親子関係の距離感を見直すチャンスです。
子どもの健全な成長のために、適切な距離を保ちながら見守る子育てを心がけることが大切なのです。子どもを信じ、時には見守る勇気をもつことが、真の愛情ではないでしょうか。
(参考)
エキサイトニュース|子どもの自立を奪う“ヘリコプターペアレンツ”その驚きのエピソードとは
All About|ヘリコプターペアレントとは?親の過保護度をチェックする方法
ハフポスト|「ヘリコプターペアレント」とは?行きづらい子どもに育つ親の存在
エキサイトニュース|「ヘリコプターペアレント」になりやすい親の特徴
サイゾーウーマン|厄介な「ヘリコプターペアレント」の実態と対策ーー何も決められない子どもが育つ!?
エキサイトニュース|過保護・過干渉の「ヘリコプターペアレント育児」子どもへの影響は…?
※本記事は2019年9月6日に公開しました。肩書などは当時のものです。