教育を考える 2020.2.8

寝不足が引き起こす深刻な問題。睡眠時間が少ない子の記憶力は“あまりよくない”

寝不足が引き起こす深刻な問題。睡眠時間が少ない子の記憶力は“あまりよくない”

子どもに「早寝早起き朝ごはん」を定着させようといろいろな運動が広がっている現代ですが、多忙な親の生活に合わせ、おのずと就寝が遅くなってしまっている現代っ子はまだまだ多いようです。

しかし、早寝早起きが脳の発達にも影響すると聞けば、どうにか早寝をさせたくなるもの。夜遅くまで勉強机に向かっている姿に感心している場合ではないようです。

ここでは、早寝のメリットと早寝をさせるためのコツについてまとめてみました。

幼児期から遅寝の習慣がついている子も

国立精神・神経医療研究センター病院の医師、三島和夫氏によると、現代っ子の4、5人に1人は、睡眠習慣の乱れや睡眠障害など何らかの睡眠問題を抱えていると言います。

財団法人日本小児保健協会が実施した調査によると、「夜10時以降に就寝する子ども」の割合は、1歳6ヶ月・2歳・3歳で半数を超えており、子どもの生活時間の夜型化の実態が明らかになってきました。これは10年20年前に比べて、顕著に増加しています。また小・中・高校と学年が進むにつれて就床時刻が遅くなること、睡眠時間が少なくなり「睡眠不足を感じている児童生徒」の割合が増加していることなどが示されています。

(引用元:厚生労働省 e-ヘルスネット|睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響

また、厚生労働省が行なっている21世紀出生児縦断調査では、4歳6ヶ月時点での最も多い就寝時刻は21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝する子どもは5人に1人以下しかいなかったというデータも。これには、親が残業などで帰宅が遅いことも少なからず影響していると思われ、大人側のライフスタイルのほうを問題視する見方もあるようです。

また、小・中学生となると、テレビ・ゲーム・勉強などに遅寝の原因を探しがちですが、「なんとなく夜更かししてしまう」子どもが最も多いことがわかっていると三島氏は言います。だからこそ、夜更かしは改善の余地があると言えるでしょう。

寝不足が引き起こす深刻な問題2

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遅寝・夜更かしが生む悪循環

毎朝学校に行く時間は決まっているわけですから、遅寝をすれば寝不足になるのは当たり前。寝不足になると気分が悪く集中力がなくなります。それでも大人であれば、多少の寝不足状態でも理性が働き、ある程度抑えて取りなすことができますよね。しかし、未成熟な子どもは眠気をうまく意識することができず、そのせいで、イライラする、友だちと仲良くできない、多動・衝動行為などの心の問題が表面化してしまうことも少なくないのです。

そして、睡眠時間の不足は、学力や記憶力にも悪影響を与えるようです。

記憶のコントロールや、考えたり、学んだりと、脳の中でも、とても大切な働きをする「海馬」の体積が、睡眠時間によって変わってくる、ということが明らかになってきました。
具体的には、8,9時間寝ている子どもたちは、5,6時間しか寝ていない子どもたちに比べて、海馬の体積が大きく、海馬による働きの能力が高いということがわかったのです。
睡眠時間に関しては、寝る時間の遅い子どもや、睡眠時間の少ない子どもは、学校の成績がよくない、あるいは、記憶力があまりよくない、ということも、世界中から報告されています。

(引用元:瀧靖之(2019),『最新の脳医学でわかった!こんなカンタンなことで子どもの可能性はぐんぐん伸びる!』, ソレイユ出版.)

それに加えて、睡眠不足は成長の遅れや食欲不振・注意や集中力の低下なども引き起こします。また、将来の肥満の危険因子になることも示されているとあれば、睡眠時間を削ることは百害あって一利なし。では、早寝の習慣をつけさせるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

寝不足が引き起こす深刻な問題3

まずは「早起き」から始めよう

眠くないと言っている子どもを無理に寝かすのは難しく、親も子どももプレッシャーとなってストレスを抱えてしまっては本末転倒。まずは、起きる時間のほうを少しずつ早めるのが効率的のようです。

「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めましょう。まず1週間、頑張って早起きをさせましょう。そして歯磨きでもしながらベランダに出て日光を浴びる。それが無理なら窓辺で顔を戸外に向けるのでも結構です(室内方向を見てしまうと体内時計の時刻合わせには不十分です)。
1~2週間ほども続けると子どもたちの体内時計は徐々に朝型に変わり、早起きの辛さは減ってきます。早起きさせた分の睡眠時間は早寝になった分で取り返せるでしょう。早起きから始めることで、太陽と朝食を効果的に使って体内時計の時刻合わせを行うわけです。

(引用元:厚生労働省 e-ヘルスネット|子どもの睡眠

ただし、起きる時間をいきなり1時間単位で早めてしまうとお子さまの心身の負担も大きくなるので、15~30分単位で段階的に早めてあげましょう。早く起きたぶん、その夜は早く眠くなるはず。この好循環から規則的な生活につなげていければベストです。

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早寝を定着させるためにできること

早起きするという取り組みとあわせて、早寝に向けてできることもたくさんあります。実践できれば気持ちよく早寝早起きができるようになるはず。明治薬科大学で心理学の教鞭をとる駒田陽子准教授によるお話を中心に、早寝のコツをまとめてみました。

■日没後は白熱灯色の照明の部屋で過ごし、寝る前のスマートフォンやゲームも避ける

スマートフォンやゲーム、パソコンなどから出るブルーライトを寝る前に見るのがよくないことは、広く知られています。それは、眠りを促すための「メラトニン」というホルモンの分泌を妨げ、体内時計を狂わせることにつながり、寝つきに影響が出てしまうため。

また、子どもの目の水晶体は大人より澄んでいるため透過性が高く、光の影響をより強く受けてしまうことから、寝る直前に蛍光灯や明るい白色LEDの下で過ごしてしまうと体内時計が夜型化しがちになります。家では、日没後はできるだけオレンジ色がかった白熱灯色の光の間接照明やダウンライトなどを利用するのがおすすめです。

■お風呂を夕食の前にしてみる

ヒトの1日の体温のリズムとしては、夕方に体温が高く、だんだん下がってくると眠くなってきます。そんなとき、熱いお風呂に入ると、下がりかけた体温がまた上がって眠りにくくなることも。寝つきが悪い場合は、夕食とお風呂の順番を逆にしてみるとうまくいくこともあります。寝る前のお風呂は、お湯の温度はぬるめにしましょう。

寝不足が引き起こす深刻な問題5

■親も一緒に早寝をする

夕食後は親と子どもが一緒に居間でテレビを見て過ごすことも多いかと思いますが、親が寝ないでテレビを楽しんでいれば、子どもも「まだまだ寝たくない」となるのは当然です。また、寝かしつけをしようとして親も一緒に寝てしまって、慌てて起き出して深夜に残りの家事を片付ける……ということもあるかと思いますが、ばらばらに分断された睡眠はかえってつらいもの。思い切って子どもと一緒に早く寝て、がんばって朝早く起きたほうが、まとまった睡眠時間が確保できてよいでしょう。

■週末や長期休み期間中も夜更かししない

週末や長期休暇中ならいいだろうと、夜更かしをしたり朝になってもダラダラと寝ていたりすると、時差ボケと同じような状態になってしまいます。体内リズムの乱れは翌週の前半まで続き、日中のパフォーマンスを低下させてしまいます。また、子どもの学習に影響が及ぶことも。

休日だからと言って遅くまで寝ているのではなく、平日朝と同様の時間に起きて活動を始めるように心がけましょう。ただし、人は1時間程度であればその日のうちに体内時計の誤差を修正できると考えられているので、どうしても……というときは、1時間以内の寝坊に留めておけるといいですね。

また、何かのきっかけで学校を休みがちになった場合でも、朝起きて、夜寝るというリズムを大切にするべきと言うのは、江戸川大学社会学部人間心理学科教授で同大学睡眠研究所所長の福田一彦氏。学校に行かないとなると、夜遅く寝て朝遅く起きるという生活になりがちですが、そうした生活が続くと、だるさが強くなり無気力になっていき、ますます学校に行けなくなってしまうそう。学校に行く日も行かない日も、生活リズムをなるべく変えないように気をつけましょう。

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子どもの睡眠習慣は、大人のライフスタイルを映す鏡とも言われます。予定のない日も平日と同じ生活リズムで過ごしたり、早寝早起きのお手本を見せたりするなど、大人が率先して習慣作りをすることが一番の成功のコツ。家族みんなで意識を高めていけるといいですね。

文/酒井絢子

(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「昼寝のせいで夜なかなか寝ない」問題の解消法。朝のグズグズ防止にも効果大!
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|“世界一寝不足” な日本の子ども。「11時間37分」が示す、眠りにまつわる切実な問題
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「起きる時間」を意識させるだけ! 子どもの早起きを楽にするちょっとしたコツ
ベネッセ 教育情報サイト|子どもに早寝早起きの習慣を定着させるコツ
ベネッセ 教育情報サイト|親と子、両者のために! 早寝早起きのススメ【後編】規則正しい生活のポイント
厚生労働省 e-ヘルスネット|子どもの睡眠
厚生労働省 e-ヘルスネット|睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響
東京都生涯学習情報|早起き・早寝が大切なわけ
東京都生涯学習情報|子どもの生活リズム改善作戦
瀧靖之(2019),『最新の脳医学でわかった!こんなカンタンなことで子どもの可能性はぐんぐん伸びる!』, ソレイユ出版.