芸術にふれる/演劇 2018.5.5

才能を正しく伸ばす秘訣 ミュージカル女優・笠松はるさん~素直に子どもの魅力を伸ばしてくれる指導者と出会うために~

才能を正しく伸ばす秘訣 ミュージカル女優・笠松はるさん~素直に子どもの魅力を伸ばしてくれる指導者と出会うために~

子どもの可能性や才能を伸ばすための習いごとは、どんなものなのでしょうか? 本人が「やりたい」と言ってはじめても続かなかったり、かといって親が選んだ習いごとには積極的ではなかったりとなかなか難しいもの。将来の選択肢を増やすためにという親心と、子どものやる気はうまくバランスを取れないことがあるのが、悩ましいところです。『劇団四季』の多くの作品で主演やヒロインを演じ、退団後もさまざまな舞台で活躍をするミュージカル女優の笠松はるさんの視点から、子どもの才能を正しく伸ばす習いごとの選び方を教えてもらいました。

©ヒダキトモコ

取材・文/渡邉裕美

子役のレベルの高さから見える無邪気さと見極め力の重要性

笠松さんの母親はソプラノ歌手です。そのため、笠松さん自身は本当に習いたかった歌は「子どもの歌い方、子役の演技のクセがつく」という理由により、幼少期に習うことはありませんでした。

「声変わりするまで歌はダメと言われていたので、習うのを許されたのは高校1年生の秋でした。そんな親の考えもあって、最初はバレエを習うことになりました。決して優等生ではなかったですが、わたし個人としては、ミュージカルの道に入ったときにトウシューズで立てて、踊れることが役に立ちました。歌だけがいまの実力でまったく踊れなかったら、いままでの舞台での経歴はなかったと思います。身体をどう使って動いているのかに集中する時間を長く持てたことで、きれいに見える身のこなし方にも一役かっているのではないでしょうか」

バレエ以外、演技に関する習いごとの経験はなかった笠松さんは、子役そのものと接したのも『劇団四季』に入団してからでした。

「劇団での『サウンド・オブ・ミュージック』の初演稽古がはじめてでした。そのときの素直な感想は、もしわたしが子どもでこの現場に来たら、『絶対に出演できなかっただろう』ですね」

『劇団四季』の稽古は、子役も大人同様に厳しい世界。『サウンド・オブ・ミュージック』に出演する子役は、劇場の入口で親と離れて稽古場へ。また、大人と同じ稽古場に入れるのは、上位レベルに達した子のみで、日々そのメンバーも変わっていた実力重視の世界でした。

「東京の『サウンド・オブ・ミュージック』初演に出演した子たちは、大人より演技がうまいと思うような子もいたほどレベルが高かったですね。のちにミュージカル『アニー』のアニー役に選ばれたり、『ライオンキング』の子シンバや子ナラ役を演じたり、アイドルになった子もいました。彼らは演技力の高さもですが、お行儀もいい。わたしが出会った子役の子たちは、ご家庭の教育の賜物もありながら、演技やオーディションを経験することで、子どもらしい無邪気さを持ちながらも、ものごとを見極める力が備わっていたと思います。ですから、彼らのようなレベルであれば、わたしの母が言っていたように変なクセがつくことはないかもしれません。わたしが接した子たちのように演技の道を進めるのであれば、演技を習うことで表現力を磨くことはとてもいいことだと思いました」

ここで気になるのが“クセ”という言葉。演技の世界で考えれば、クセが強いほど個性が際立って利点になるかと思いきや、どんな習いごとも“クセ”よりも重要なことがあるようです。

「演技については、レッスンのなかでマニュアル化してしまう子もいるでしょう。一方で、本当にその子が持っている特性をうまく伸ばしてくれる指導者に会うことで吸収する力をどんどん伸ばす子もいるはずです。ここに関しては、成長する過程で二極化すると思います。個性が必要に思われる芸事の世界ですが、実際のところ舞台は共同作業で、決して自分ひとりが前に出ていればいいということではありません。個性はなくしてはいけませんが、個性を持ちつつ全員で力を合わせてひとつの作品をつくっていくのが舞台というもの。また、クセも大事と言いますが、クセと個性はちがう。よほど魅力的なクセでない限り邪魔でしかありません。本当に素敵な子役は、踊りや歌が上手な以上に、素直で人間的にその人そのものの魅力がありましたね

子どもを素直に育てられる指導者の存在で教室を選ぶ

笠松さんが出会った子役のように魅力的な人間に育つ習い事を見極めるには、どうしたらよいのか。大前提として、子ども自身がその習いごとそのものが好きでその感性に合うのは重要ですが、さらに大事なのは、「指導者」でした。

「どんな習い事にも共通していますが、まずは基礎をきちんとやることが大切。そのうえで、素直さを失わずに柔軟に対応できる力を伸ばしていくことが重要になります。素直な歌い方、素直な演技しかできなくても、じつは素直に歌って演じられることはすごいこと。そのものが魅力になったりするものです。なので、生徒にクセがあったとしても、そこをうまく取り除いて真っ直ぐ才能を伸ばしてあげられるのがいい先生なのではないでしょうか。いい先生は、生徒自身の魅力だけを見ているもので、決して指導者自身の個性を押しけません。そんないい先生に出会えるかどうかが、習い事でとても大事なことだと思います

難しいのは、その見極め。ポイントは、「すでに習っている子たち」にあります。

「有名な教室だから、立派な経歴がある先生だからということよりも、先生と子どもの相性がよいかどうかを見たほうがいいのではないでしょうか。わたしは5歳からバレエを習いましたが、母が選んできた教室をいくつか見学して、自分から『ここがいい』と言ったバレエ団の教室に通いました。母は別の教室がいいと初めは思っていたようですが、通いはじめたら先生と相性がよく、とても可愛がってくださり『やはりここにしてよかったと』思ったそうです。ただ、お子さんの意見を聞くだけでなくご家族も見るポイントとして、教室にいる他の生徒たちが “素直に伸びているか”を見るといいと思います。教室の生徒みんなが同じような印象を受けるものだったら、それは先生の個性を押しつけられていて、製造機に入れられているようなものかもしれない。とくに芸事の習い事には言えるのですが、押しつけられた個性ではその世界で生き残っていけないように感じています」

■ ミュージカル女優・笠松はるさん インタビュー一覧
第1回:好きなことを将来の夢にする、ターニングポイント
第2回:努力を苦労と思わない、夢に対する熱中力
第3回:子どもをサポートする親の「見守り力」~我が子の才能を心の底から信じ、全力で応援する~
第4回:才能を正しく伸ばす秘訣~素直に子どもの魅力を伸ばしてくれる指導者と出会うために~

【プロフィール】
笠松はる(かさまつ・はる)
東京藝術大学声楽科卒業。同大学院修了。第16回日本クラシック音楽コンクール声楽部門大学院の部最高位受賞。2007年より8年間、劇団四季の主演女優として『ウェストサイド物語』(マリア役)、『オペラ座の怪人』(クリスティーヌ役)、『サウンド・オブ・ミュージック』(マリア役)、『ジーザス・クライスト・スーパースター』(マグダラのマリア役)、『アスペクツ・オブ・ラブ』(ジュリエッタ役)、『赤毛のアン』(アン・シャーリー役)、『ミュージカル李香蘭』(李香蘭役)、『ヴェニスの商人』(ネリサ役)など、数多くの作品で活躍。退団後は女優・歌手として、数多くの舞台やコンサートで活躍している。退団後の主な出演作に、『一人オペラ【声】』『ロマンシングサガTHE STAGE』『花火の陰』『父と暮せば』『ボクが死んだ日はハレ』『ねこはしる』『Suicide Party 』などがある。2018年6月~7月は東宝『シークレット・ガーデン』(シアタークリエ)にローズ役で出演予定。また8/25(土)には、地元大阪(梅田ボニーラ)にてプレミアムソロライブを開催する。詳しくは以下を参照。
公式ブログ →https://ameblo.jp/kasamatsu-haru/
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