芸術にふれる/演劇 2018.9.18

演劇は子どもの知性と感性を刺激する――「ドラマ教育」を家庭に取り入れ、子どもの知的好奇心を育む方法

演劇は子どもの知性と感性を刺激する――「ドラマ教育」を家庭に取り入れ、子どもの知的好奇心を育む方法

アメリカとイギリスで生まれ、いま、日本でもじわじわと広がりつつある「ドラマ教育」。ここ日本では、ドラマ教育がどのように使われているのでしょうか?

お話を聞いたのは、国内ドラマ教育のパイオニアとして活躍する東京都市大学人間科学部教授・小林由利子先生。本来、小林先生はドラマ教育によって幼稚園の先生などをより良い「保育者」に養成する研究・講義をしていますが、家庭での子育てにドラマ教育を生かす方法も教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

演劇教育とドラマ教育の連動がより良い結果を招く

わたしにとって、ドラマ教育の最大のテーマは「保育者養成」ですので、依頼があれば幼稚園の先生にドラマ教育を教えることもあります。幼稚園の先生たちって本当にすごい。大学の授業でもおこなっている――たとえば、特定のなにかに変身するというようなアクティビティー(※1)をしてもらってみても、すぐにできてしまう。日常的に子どもたちと接しているからでしょうね。

ただ、先生たちは自分の経験から身についたテクニックを自然に使っているので、「こういうファシリテーション(※2)のやり方がありますよ」というふうに、それらを言語化して整理してあげるのがわたしの役割だと思っています。

ちょっと話は脱線しますが、去年、面白い出来事がありました。当大学の工学部の先生を中心としたワークショップをファシリテートすることになり、参加者にドラマ教育のアクティビティーをしてもらったんです。参加者のほとんどが理系の男性教職員でした。最初は、役を演じてもらえるかすごく不安でしたが、結果的に、いままでにおこなってきたワークショップのなかでもっとも盛り上がったものになりました。「この人、どうしちゃったんだろう?」と思うほど、本気でどんどんいろんなものに変身しちゃって(笑)。しかも、理系の方が多かったので「ドラマ教育の構造はこうなっているのですね」なんて言って、わたしの手法を分析するわけです。科学的にものを観察し、ロジックで分析するのが得意なのでしょう。そういう思考回路を持っているから、早く理解するし理解そのものが深いのだと思います。これは、本当に驚きでした。

一方で、なかなか難しいのが小学校や中学校、高校の先生たち。いや……頭が固い人が多くて……(苦笑)。ある物語の一場面をアレンジして展開しようとしたら、「作者に失礼じゃないですか」なんて言われたこともありましたね。本来であれば、たとえ脚本があってもそのストーリーをアレンジするとか、役を即興で変えちゃうとか、そういう「遊び」がドラマ教育の面白いところです。学校の先生たちに限らず、遊びは勉強の対極にあるものだと認識している人が多いのです。ですから、「遊び=悪」というふうに思っているんですよね。「遊びの重要性は、もっと強調しなければならない」と思いました。

とはいえ、日本の小学校や中学校、高校にもほんのちょっとずつドラマ教育は広まりつつあります。なぜならそれは、ドラマ教育を専門とする教員が増えてきたからです。日本のドラマ教育の特徴というと、脚本を生徒が覚えて観客の前で演劇として発表するものが多いこと。担任教師が、脚本を書き、演出する、という学芸会の流れをくんだもの——それが日本の演劇教育の主流でしょう。

もちろん、それが悪いということではありません。演劇の創作過程に教育的意義があるとしてはじまったアメリカのドラマ教育は「クリエイティブ・ドラマ」、イギリスのドラマ教育は「ドラマ・イン・エデュケーション(DIE)」と名づけられています。しかし、それらはそれまでの演劇教育を否定しているわけではありません。できた当時、別のものだと提示したほうがわかりやすく、社会に受け入れられるという考えがあったから、あえて対立的に示したのだと思います。

わたしも演劇教育と差別化するために、「ドラマ教育」という呼称を強調していた時期もあります。でも、いまは、「遊び/ドラマ/演劇」が連続体になっているという考え方を強調しています。「演劇教育」も「ドラマ教育」のどちらも大事で、両者がもっと連動することで、より良い結果につながのではないでしょうか。学芸会で演劇をやるのなら、リハーサルではドラマ教育で使うアクティビティーをしてみるとかね。そうすれば、もっとナチュラルな演技、表現ができるようにもなるはずです。

(注釈)
※1:「活動」の意。座学ではなく、具体的に体を使う学習法。一般的には、リゾート地などでのさまざまな遊びを指すことが多い。
※2:本来の意味は「容易にすること」。発言や参加を促したり、話の流れを整理したりすることで、ミーティングなどをスムーズに進めること。現在では、参加者をリードしたり、指導したりするのではなく、参加者が主体的に活動するために方向づけることの意味が強い。

家庭でできる、子どものイマジネーションを高めるドラマ教育

そして、わたしがいま一番関心を持っているのが「乳児向け演劇」です。そうです、観客は赤ちゃん。演劇なんて赤ちゃんは見ないと思うでしょう? これがものすごく見るんです。俳優の一挙手一投足をしっかり目で追いますからね。「生後6カ月からは完璧な観客だ」とスウェーデンの演出家で「ベビードラマ(babydrama)」の名付け親であるスーザン・オースチンが言っています。

演劇って、どうしても情緒や感情を豊かにするものという言われ方をしますが、わたしはとても知性を伸ばすものだと思っています。視覚的、聴覚的なコミュニケーションを通して子どもの知性を刺激することができるのです。知性と感性に関わっているものだということは、もっと強調しなければならないと思っています。

いまの時代、すごく気になるのは、幼い子どもにスマホを見せている親の姿が目につくこと。スマホの存在を否定できる時代ではないので、どう付き合っていくかを考えなければなりません。スマホでアニメなどを見せておけば子どもはおとなしくしてくれますから、たしかに便利なものではありますよね。でも、もっと生身の人間を見る、生の声を聞くということが子どもにとっては大事。人間同士の直接的なコミュニケーションが重要です。

それこそ乳児向け演劇は生身の人間を見て生の声を聞くということです。一方の俳優も赤ちゃんから影響を受ける。赤ちゃんの反応に対し、即興的に反応して演技を変えることもあるでしょうから。そういう相互のコミュニケーションは、スマホの画面上では成立しませんよね。

もちろん、わざわざ乳児向け演劇を見に行くということをしなくても、家庭でもできるドラマ教育はありますよ。まずは親御さんが誰かに変身しちゃいましょう。人形を使って子どもに物語を見せてあげるのなら、人形のキャラクターになって、声色も変えてしまうのです。ごっこ遊びを、より豊かにするということです。

おままごとにも本気で付き合ってあげましょう。「ごはんができたよ」と子どもに言われたら、「おいしいね」「おかわりある?」と子ども以上に本気で演じてあげる。「なにを言っているの?」なんて否定するのはご法度です。子どものイマジネーション、好奇心を摘むようなことは絶対にしてはいけません。子どもが面白いと思う心、好奇心こそが、その後の人生で学び続けるためのエンジンになるのですから。この知的好奇心を育てることが重要だと思います。

手っ取り早いものだと、寝るときの絵本の読み聞かせがいいですね。もしかしたら、ただ子どもを寝かしつけるための方法だと思っていませんか? これは、じつはすごくいいドラマ教育なのです。寝るときというのは、夢と現実があやふやになる時間ですよね。そういう状態にいる子どもの心に、すっと物語が入っていく。これは、子どもにとっては紛れもないファンタジー体験です。想像世界の体験でもあります。そのまま眠りにつける、って素敵じゃないですか。

そして、そのような多くの体験が、クリエイティビティーとイマジネーションを高めてくれるのです。仕事のアイデアをはじめ、さまざまなビッツ(かけら)がある瞬間につながって突然ひらめいたという経験がみなさんにもあるのではないですか? そのビッツこそ、子どもの頃からのいろいろな体験の成果物なのです。それを忘れずに、子どもたちにビッツをたくさんつくってあげてください。それが、あるときパーッとつながるクリエイティブ・プロセスの体験をたくさん子どもたちにしてほしいです。もちろん、一生をとおして!


保育に役立つ ストーリーエプロン
小林由利子 著/萌文書林(2012)


ドラマ教育入門
小林由利子他 著/図書文化社(2010)

■ 国内ドラマ教育のパイオニア・小林由利子先生 インタビュー一覧
第1回:日本でもじわじわ広がる「ドラマ教育」ってなに?――「ドラマ教育」によって伸びる子どもたちの力とは
第2回:「ドラマ教育」は子どもたちの主体的な学びに最適――本場・英米の動きから見る「ドラマ教育」の大きな可能性
第3回:「ドラマ教育」を保育者養成に活かす――創造的な子どもを育てる力を養う「ドラマ教育」の効果
第4回:演劇は子どもの知性と感性を刺激する――「ドラマ教育」を家庭に取り入れ、子どもの知的好奇心を育む方法

【プロフィール】
小林由利子(こばやし・ゆりこ)
1956年5月27日生まれ、東京都出身。1982年、東京学芸大学大学院学校教育研究科修士課程修了後に渡米。イースタン・ミシガン大学大学院コミュニケーションと演劇学部子どものためのドラマ/演劇学科にて演劇教育について学ぶ。帰国後に東京学芸大学、川村短期大学での非常勤講師、川村学園女子大学の教授を経て、現在は東京都市大学人間科学部教授。ドラマ教育をとおして感性と表現力とコミュニケーション力を育成する保育者養成をミッションとして研究・活動する。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。