2018.2.28

ダンス必修化の問題点と今後の課題

編集部
ダンス必修化の問題点と今後の課題

2008年3月に改定された新学習指導要領により、2012年から中学校の体育の授業でダンスが必修となりました。それに対して、時代の流れを感じつつも漠然とした不安を抱えている保護者も多いのではないでしょうか。さらに、現場の教師たちすらも試行錯誤しながら授業を進めている現状も明らかにされています。

今もなお手探りであることを感じさせる「ダンス必修化」。そもそもなぜダンスが必修化されたのか、その背景を探っていきましょう。

ダンス必修化=ヒップホップ必修化ではない!?

ところで、学習指導要領改定により必修化されたのがダンスだけではないことはご存知ですか?

改定以前の中学1年生と2年生は、「ダンス」と「武道」のどちらかを選択していました。しかし、改定後は「多くの領域の学習体験をさせて自ら適した運動を選択させるため」という前提のもと、どちらも必修化されたのです。

武道では「柔道」「剣道」「相撲」「空手」「弓道」など数種類から選択できます。どれも一般的にイメージしやすい競技ですね。ダンスにおいてはどうでしょうか。改定後には「創作ダンス」「フォークダンス」「現代的なリズムのダンス」の3種類のうち、学校側でいずれかひとつを選んで指導することが義務づけられるようになりました。これらは人によってはイメージが浮かびにくく、具体的に何を学ぶのだろう? という疑問が残ります。

ここで注目を浴びたのが「現代的なリズムのダンス」です。これはいわゆるヒップホップのことである、と多くの人が思い込んでいるようですが、必ずしもそうではありません。

順天堂大学スポーツ健康科学部の調査では「現代的なリズムのダンス」に対する世間の間違った認識についてこう指摘しています。

特筆すべき問題点としては、近年、「ヒップホップが必修になった」というような誤った解釈の報道がなされ、世間も授業でヒップホップを学習すると勘違いしていることである。(中略)この誤報が広がり、「マスコミの影響で、生徒たちもヒップホップを学習すると期待しているため、それ以外の種目がやりづらくなった」、「生徒の期待に応えたいが実力がなく難しい」などの問題につながっていた。

(引用元:特集:武道と舞踊の必修化がもたらすもの|日本のダンス教育の変遷と中学校における男女必修化の課題

さらに同調査では、行政関係者なども「現代的なリズムのダンス」をストリートダンスやヒップホップだと思い込み、教員向けの研修会を行ったりDVDを作成したりするなど、誤解を助長している対応が見受けられることを懸念しています。

このような現状をふまえて、なぜこれほどまでにヒップホップばかりが注目されるのか、その理由を紐解いていきましょう。

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ヒップホップが選ばれる理由

他に選択肢があるにもかかわらず、実際には多くの学校でヒップホップが選ばれています。その理由として、まずは若者に人気があることが挙げられます。

音楽番組などでは、人気のアイドルが本格的なヒップホップを取り入れたダンスをしている姿を目にする機会も多いでしょう。また、習い事の一環として経験している子どもも多く、フォークダンスや創作ダンスに比べて圧倒的に馴染みがあるのです。

またそれだけではなく、ヒップホップをすることで得られる内面的な充実感や、心の成長も期待できるでしょう。ヒップホップは、何よりもチームプレイが要求されます。仲間とのコミュニケーションを高めるだけでなく、それぞれの個性に合わせたポジショニングを考えてグループで工夫を凝らすなど、周囲との関係性や距離感を学び、連帯感を養うことができるのです。

振り付け通りに上手に踊ることよりも、リズムに乗って仲間との一体感を得られることが重視されているという点も、ヒップホップが選ばれる理由なのかもしれません。

ダンス必修化の問題点と今後の課題2

現場の声と今後の課題

では、実際に学んでいる学生はどのようにとらえているのでしょうか。ベネッセが行なったアンケートによると、ダンス必修化が「嬉しい」と答えた中学生が72%、「好きなアーティストのダンスを参考に練習している」などの声もあることから、楽しみながら取り組んでいる様子がうかがえます。

もちろん引っ込み思案なタイプの子どもは、恥ずかしさから消極的になりがちですが、続けていくうちに仲間と踊る楽しさを感じ始めることが多いようです。

一方で先生たちはどうでしょう。ダンス経験の乏しさをカバーするために自主的にレッスンに通ったり、民間のダンススクールの講師を呼んだりと、それぞれが試行錯誤しながら授業内容を工夫している様子がうかがえます。

まだまだ多くの課題が残される「ダンス必修化」。中学生になってから慌てて向き合うよりも、早い段階でその取り組みを理解することが大切かもしれませんね。

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「自分の子どもが通う中学校では、どのジャンルのダンスに力を入れているのか」といった情報があると、親子でDVDや動画などを観て楽しみながら準備ができるのではないでしょうか。

(参考)
GSM|中学校学習指導要領によるダンス必修化の目的は何?
特集:武道と舞踊の必修化がもたらすもの|日本のダンス教育の変遷と中学校における男女必修化の課題
ベネッセ教育情報サイト|ダンス必修化に中学生の7割が「うれしい♪」と回答!