前回のコラム(『「考えない大人」にならないように――“本当の成功” を手に入れるための力』)では、“6つのC”とその中のクリティカルシンキングの重要性についてご紹介しました。
今後、AIに奪われてしまう仕事も多いと言われているなか、大人たちも子どもの将来設計イメージを“高収入・高学歴”と言った古いものから、「21世紀に成功する新しい子ども像」へとシフトしなければならないときに来ているようです。
目指すべき新しいその姿とは、“思慮深く、思いやりがあり、他者との関わりの中で幸せを感じ、創造力を発揮し、社会的責任感を備える人”。クリティカルシンキングは、そのために必要不可欠な能力なのです。
クリティカルシンキングとは?
クリティカルシンキングとは、「批判的思考、問題分析、解決能力」のことで、学びによって身につけられる力です。
得た情報を鵜呑みにするのではなく、さまざまなリサーチや状況判断を踏まえた熟考の末に自分の頭を使って自分自身の考えを導きだす思考能力は、暗記メインの勉強では得ることのできない、生きていくうえで最も大切な力となるでしょう。
(引用元:StudyHackerこどもまなび☆ラボ|『「考えない大人」にならないように――“本当の成功” を手に入れるための力』)
ものすごい量の情報がどんどん生み出される時代、「一歩引いて考える」「何が本当に必要なのかを見極める」「答える必要のある問題を選ぶ」など、情報の断捨離ができる人は、今後もっと重宝されていくでしょう。
親子でチェック! クリティカルシンキング【4つのレベル】
クリティカルシンキングが身についているかどうか知るためには、次の4つのレベルが判断基準となります。
レベル1:「見たものが正しい」
乳幼児は、自分が見たものをそのまま受け入れます。まだ知識を蓄え始めたばかりなので仕方がありませんね。しかし、大人でもこのタイプの人はいるそうです。
レベル2:「答えはひとつではない。だけど自分が正しい」
レベル2の人は、見ているもの以外にも答えや真実があることに気づいています。それでも自分が見聞きしたことが絶対だと思い込んでしまう、視野の狭い状況です。
レベル3:「他人の考えを真に受ける・信じ込む」
情報をネットでいくらでも得られるいま、何を信じるかは大きな問題です。「〜らしいよ」というフレーズは日常茶飯事で会話に出てきますよね。これは危険信号のひとつ。自分で納得いくまで調べるのではなく、ネットから拾った情報を鵜呑みにするのでは、自分の頭で考えていることにはなりません。多くの人が陥りやすい段階です。
レベル4:「上手に疑って、融合的に答えを出す」
“疑うこと”“問うこと”、これができるようになって初めて、批判的思考に到達します。そして、視野を広めてさまざまな情報を融合して最善の答えを出す努力ができる人は、レベル4に達していると言えるでしょう。良い例として、「優秀なシェフは、調理に秀でているだけでなく、食品、農業、化学などの多岐にわたる知識を駆使して、料理に活かせる人」です。
大人も自分がどのレベルに達しているか再認識して、子どもたちと一緒にクリティカルシンキングを身につけるトレーニングをしましょう。そのために、親子で一緒に実践したい習慣や、学校で実践されているトレーニングについて、ご紹介します。
豊かな人間関係作り実践プログラム
物事に興味を持ち、「なぜだろう?」と不思議に思う好奇心や探究心、それを人に伝え、人の話に耳を傾け、わからないことを尋ねる、などが、「批判的思考=クリティカルシンキング」のベースとなります。日本でも「批判的思考」についての重要性と育成については認識されていましたが、“批判的”の意味合いが“非難”に近いものと捉えられがちでした。しかし、最近は正しく理解されることが増えてきたようです。
クリティカルシンキングを体系的に子どもたちに身につけてもらおうと取り組んでいる学校の中から、小中学校を通してプログラムを実践している千葉県の例をご紹介しましょう。
【小学1年生】
目的:仲間と仲良く助け合う
目標:聞き上手になろう
目指す行動:「人の話をうまく聴く」行動を身につける
具体的には、“返事をする・していることをやめる・相手に身体を向ける”などができるように促す。
【小学2年生】
目的:仲間と仲良く助け合う
目標:聞き上手になろう
目指す行動:1年生のものに加えて、“頷く・最後まで聞く・相槌を打つ・質問をする”と、次の段階までの行動を課題としています。
【小学6年生】
目的:上手な自己主張をしよう
目指す行動:“自分の主張の結論を言う・結論の理由を言う・相手にも意見を聞く・相槌で相手の主張を受け止める”ことで、上手な自己主張の仕方を学ぶ
【中学1年生】
目的:クリティカルシンキングができるようになろう
目標:出来事を事実と思い込みに分けよう・自分の考えを冷静に話せるようになろう
目指す行動:“納得できないことや疑問に思うことを確かめる・相手に発言のチャンスを与える”などのスキルを身につける
家庭でも取り入れられそうなポイントがいくつもありますね。
アメリカの学校では、意見を言った生徒が理由を明らかにしていないと、必ず先生から「どうしてそう思うの?」と聞き返されるそうです。その繰り返しから、“筋道を立てて考える”ことが身についていくのです。また、客観的推測や分析を問うシンプルな課題があらゆる教科で出されるため、多角的に物事を考えるスキルが身についていきます。合理的思考に長けるアメリカの人のルーツに納得ですね。
クリティカルシンキングを育てる3つの問い【WHAT?】【WHY?】【HOW?】
もっとシンプルに家庭でクリティカルシンキングを習慣づけるポイントをご紹介しましょう。
クリティカルシンキングの基本は、「考える」ことです。しかし、そもそも「考える」とは具体的にどうすることなのでしょうか。その答えが次の3つの質問にあります。
【WHAT?】「つまりどういうことだろう?」と問い、自分の言葉で語ってもらう
<例>テレビで食中毒のニュースを見ました。子:「これって〇〇を食べた人がお腹を壊したってこと?」「〇〇がくさってたってことなの?」など、自分が理解できるよう自分の言葉で置き換えることから、「考える」ことがスタートします。
【WHY?】「どうして?」と質問することで、考えることを促す
<例>親:「好きな食べ物は?」子:「イチゴ!」親:「どうしてイチゴが好きなの?」
*2つ目の問いかけをすることで、深く考えることを促せます。
【HOW?】「どう感じたか?」「どうしたらいいのか?」で、解決策や結論を引き出す
<例>子:「今日体育のとき、逆上がりができなかった」親:「どう思った?」子:「悔しかった」親:「じゃあどうすればいいかな?」
*事実に対して湧き上がる感情とそこからつながる解決策の道筋を自分で考えてもらうことで、物事に対処する応用力のベースが身についていくでしょう。
大人が常にこの3つのアプローチを意識することで、子どもたちは自分の頭を使って考え、答えを導き出すクセがついてくるでしょう。
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常に理由を考えさせることが一番重要であることがわかりました。しかし、その際注意すべきことがあります。子どもの答えに対してはこだわらないこと。答えられなくてもいいのです。大切なのは、自分の頭で考えることだから。目的は「答えを出す」ではなく、「自分の頭で考える」ことだと肝に銘じましょう。できればゆっくり時間をとって考えてもらい、少しトンチンカンな答えでも、おもしろがったり、感心したり、興味を示したりしてあげてください。そうすれば、子どもは「考えることは楽しい」と思うようになるでしょう。
(参考)
キャリー・ハーシュ=パセック ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ著 今井むつみ 市川力訳(2017), 『科学が教える、子育て成功への道』, 扶桑社.
学研出版サイト|第14回アメリカ人の論理的思考
ESSE Online|子どもの学力の差を生むのは親の6つの「Cの力」!経済力は必須でない
東洋経済オンライン|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ 具体的な導き方は、意外と大人も知らない
ウーマンエキサイト|幼児期からのスタートで差がつく!「考える力」を育てる簡単な方法
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