教育を考える 2019.10.28

脳が変形するって本当!? 子どもの脳を傷つける “親のNG行為”

編集部
脳が変形するって本当!? 子どもの脳を傷つける “親のNG行為”

虐待による悲惨なニュースを目にするたびに、ほとんどの親御さんは「かわいいわが子にどうしてこんなにひどいことができるんだろう」と悲しい気持ちになったり、怒りを覚えたりするのではないでしょうか。

しかし、子どもに対するふとした発言や親の何気ない行動でも、子どもの脳は傷つけられる危険性があるのです。「自分は虐待とは無縁だ」と思っていても、じつは日頃の親子の関わり方が子どもの脳に悪影響を及ぼしているかもしれません。

子どもの脳が危ない! 何気ない親の言動が引き起こす深刻な問題

わが子の言動にイライラしたり、必要以上に叱ってしまったりして、「ちょっと厳しく叱りすぎちゃったかも」と反省した経験は誰にでもありますよね。しかし、それが日常的に行なわれているとしたら、深刻な問題に発展する可能性があります。

東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は、あまりにも強く叱りすぎるなど、不適切な言葉がけを繰り返すことが、子どもの脳に悪影響を与えるのは間違いないと指摘します。たとえば、「あなたなんか生まれてこなければよかった!」と言われ続けた子どもの脳は、言語やスピーチ、コミュニケーションに重要な役割を果たす、側頭葉にある「聴覚野」の容積の一部が大きくなってしまうわかっています。ちなみにこの聴覚野、両親の学歴が高いほど容積が小さいのだとか。聴覚野が大きくなることで、聴覚に障害が生じるだけでなく、「知能」や「理解力」の発達にも悪影響が出てしまうのです。

また、『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版)の著者で小児神経科医の友田明美先生によると、虐待まではいかなくても、日常的に「不適切な養育」を受けてきた人の脳を調べると、傷がついて変形していることがわかりました。

不適切な養育=マルトリートメント

マルトリートメント(不適切な養育)という言葉を聞いたことはありますか? 虐待とほぼ同義ですが、子どもに目立った傷などが見られなくても、健全な成長・発達を阻むすべての行為を含むことを意味します。

友田先生は、「マルトリートメントは、決して“特殊な人たちが” “特殊な環境”で行なっている『非日常的な出来事』ではありません」と指摘します。そして自身の経験もふまえて、まったくマルトリートメントの経験がない親などいないとも。

みなさんも機嫌が悪いときに子どもに当たってしまったり、子どもは反省しているのにしつこく叱り続けたりしたことがあるはずです。問題は、マルトリートメントの強度と頻度が増したとき、子どもの脳は確実に損傷してしまうということ。そうならないためにどうしたらいいいか、次に詳しく解説していきます。

子どもの脳を傷つけるNG行為1:感情的になって叱り続ける

「ダメでしょ!」「何回言ったらわかるの!」「もう知らないからね!」「どうしていつもそうなの!」
カッとなったときに思わず口に出してしまいがちなこれらの言葉。もちろん親だって人間なので、毎日の生活の中でイライラしたり落ち込んだりして、すぐに気持ちを切り替えられないこともあるでしょう。そんなとき子どもがわがままを言って困らせると、つい感情が抑えられなくなってしまうこともありますよね。

日本小児科学会によると、虐待を受けた子どもの脳は、分子レベルの神経生物学的な反応がいくつも起こり、それが神経の発達に不可逆的な影響を及ぼしてしまうそうです。その結果、怒りや恐怖などの感情をコントロールすることができず、衝動的・攻撃的な行動をとるようになってしまいます。

つまり、子どもに対して感情的に叱り続けることで、将来円滑な人間関係を築くことができなくなり、「自分は愛される価値のないダメな人間だ」と自己肯定感が失われてしまうかもしれないのです。

子どもが安心できる時間をつくる

「また今日もガミガミ叱ってしまった……。これってマルトリートメントになるのかな?」と不安になったら、まずは親御さん自身が自分の感情をコントロールするように心がけましょう。前出の友田先生は、親御さんが上手にストレスを解消できる環境づくりも大切だと述べています。

そしてそのうえで、手をつなぐ・抱っこするなどのスキンシップをはかり、子どもが親に甘えられる時間をつくってあげましょう。友田先生によると、子どもの脳は柔軟なので、たっぷりの愛情をもってコミュニケーションをとることで、傷ついた脳が徐々に回復していく可能性もあるそうです。

子どもの脳を傷つけるNG行為2:ネガティブな言葉をぶつける

虐待と聞くと、身体的な暴力を受けることをイメージしますが、じつは「身体の暴力」よりも「言葉の暴力」のほうが脳のダメージが大きい、という調査結果も出ています。それは乱暴な言葉遣いだけに限りません。たとえば命令口調や指示するような言葉、「○○くんは上手にできるのに、どうしてあなたはできないの?」「お姉ちゃんはもっとおりこうだったわよ」と、ほかの誰かと比較して子どもの自信を奪うような言葉を日常的にぶつけてはいませんか?

前出の瀧教授によると、否定語ばかりを投げかけられると、次第にやる気が失われ、すぐに諦める子になってしまうそう。やる気を生み出すのは、楽しいときやワクワクしたときに脳内に分泌されるドーパミンですが、否定語ではドーパミンは分泌されないどころか、どんどん意欲が低下していくといいます。その結果無気力になり、学習困難・学力低下にもつながる危険も出てくるのです。

意識的にほめよう!

友田先生は、子どもについネガティブな言葉をぶつけてしまうことに悩んでいるのなら、次の3つを意識する良いと述べています。

まずは繰り返すこと。子どもの発言を聞き流さずに、「ちゃんと聞いているよ」ということが伝わるように、子どもが言った言葉を繰り返しましょう。

さらに行動をそのまま言葉にすることも試してみましょう。たとえば、「ちゃんと歯磨きできたのね」「自分でボタンをとめられたのね」など、あえて見たままを言葉にして伝えると、子どもは親が自分のことを見てくれている安心感を得られます。

そして、具体的にほめることもぜひ意識してください。「苦手なにんじんも残さないで全部食べてくれてありがとう」「おもちゃをきれいに片づけてくれてありがとう」など、できるだけ具体的にほめることを心がけましょう。瀧教授によると、ほめられることの多い子どもの脳は、感覚や感情にかかわる「島(とう)」と呼ばれる領域が発達しているそう。つまり、たくさんほめることは子どもの脳の発達にプラスに作用するのです。

子どもの脳を傷つけるNG行為3:子どもの前で夫婦ゲンカをする

子どもに向かって直接言葉をぶつけなくても、子どもの目の前でお父さんとお母さんがケンカをすることもマルトリートメントに含まれます。夫婦ゲンカを見るだけで、ストレスホルモンが分泌されて脳神経の発達が阻害されるため、子どもの脳機能に悪影響が及ぶことは想像に難くありません。

友田先生がハーバード大学と共同で行なった研究によれば、子ども時代にDVを目撃して育った人は、脳の「視覚野」の一部が萎縮していたことが判明したそうです。視覚野が萎縮すると、会話をする相手の表情が読み取りにくくなり、コミュニケーションにも支障が出てしまうことも。

また、小児精神医学専門で日本小児科学会常務理事を務める奥山眞紀子先生によると、子どもは自分にとっての安全基地が確立されていない状態に置かれることで、「守ってもらえない」「自分で自分を守らなければならない」「危険に囲まれている」という認識になっていくそうです。すると、レジリエンス(折れない心、立ち直る力)が育まれにくくなり、心身の健やかな発達が阻害されるという悪循環につながるといいます。

すぐに仲直り&子どもへのフォローを忘れずに!

もちろん子どもの前で夫婦ゲンカをするのは厳禁です。ただ、ちょっとした言い合いがヒートアップしてしまったり、日頃の不満が爆発したりするのは、夫婦としてこれからも良い関係を築くためにも避けて通れないことかもしれません。そこで、もし子どもに夫婦ゲンカを見せてしまったら、どのようにフォローしたらよいか考えていきましょう。

心理学者の信田さよ子先生は、あなたのせいでケンカをしたのではない」と伝えることが重要だと話しています。自分のせいで両親がケンカをしたと思い込むと、子どもは大きな不安を抱えることに。気持ちを落ち着かせるためにも、子どもが理解できる範囲で原因を説明するといいでしょう。

そして何よりも大事なのは、仲直りする姿を子どもに見せることさらに、仲直りをしたあとはいつも以上に笑顔でいることを心がけるようにしましょう。そうすることで、傷ついた子どもの心と脳は徐々に回復していきます。大事なのは、繰り返さないこととすぐにフォローすること。この2つを忘れないようにしましょう。

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深刻な虐待とは無縁だと思っていても、マルトリートメントは意外と身近な問題であり、誰もが無意識のうちに行なっている可能性があります。これを機に、親である自身の言動に少し注意を向けてみましょう。子どもの身体と心、そして脳の健やかな発達のためにも、親から子への接し方を考えるよいきっかけになればいいですね。

(参考)
PHPのびのび子育て 2019年10月号,PHP研究所.
PRESIDENT Online|5歳児の脳を損傷させた「DV夫婦」
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会、2014.3|27. マルトリートメント症候群の長期予後
東洋経済ONLINE|不適切な子育てで、子どもの脳は「変形」する
予防精神医学 Vol.2(1)2017|マルトリートメントに起因する愛着形成障害の脳科学的知見
学術の動向 2010.4|マルトリートメント(子ども虐待)と子どものレジリエンス