2018.11.29

映画鑑賞から読書、図工や作文へ! ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方

吉野亜矢子
映画鑑賞から読書、図工や作文へ! ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方

前回はジブリ映画『天空の城ラピュタ』から、親子でイギリスの社会と文化を学ぶためのヒントについてお話ししました。今回は同じスタジオジブリから『借りぐらしのアリエッティ』を取り上げます。

英語圏でよく知られている児童書『床下の小人たち』を下敷きに、ジブリが作ったこの映画は、イギリスでも広く愛されています。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方2

大きな古いお屋敷に住む小人たちは、人間からいろいろなものを「借りて」生活しています。けれど、小人たちの人数はどんどん減ってきていて、主人公のアリエッティはお父さんとお母さん以外には自分のような小人を見たことがありません。そんなアリエッティが、人間の少年と出会ってしまったことから、家族の運命は大きく変わっていってしまいます。

シンプルなお話ですが、安全ピンや、小さな瓶の蓋など、子供たちの身近にあるもので想像力を働かせることができるので、実際に小学校の教材に取り上げられることも多い作品です。我が家の子供が初めてイギリスの小学校に上がった時に私の目に最初に止まったのは、『床下の小人たち』をモチーフとした工作でした。 

映画から原作へ原作からさらにイギリス社会の理解へつなげることもできますし、子供にとって刺激の多い様々なアクティビティへ展開しやすい物語だと言えるでしょう。

ジブリ映画『借りぐらしのアリエッティ』

児童書『床下の小人たち』は非常に人気のある作品ですから、今までに何度も映画化されています。アメリカでも冒険映画に仕立てられていますし、本家イギリスでも公共放送局のBBCがテレビ映画化しています。BBC版の短いクリップをご紹介しましょう。

こうしたさまざまな映像化の試みの中でも、ジブリの『借りぐらしのアリエッティ』はストーリーラインが比較的原作に忠実で評価も高いのです。舞台は日本に移されましたが、物語の大筋はあまり変えられていません。

この映画ではアリエッティは、父親のポッドと母親のホミリーと一緒に日本の古い屋敷に住んでいます。和洋折衷のお屋敷で、家族は人間に見つからないように、小さなものを「借り」ながら生活をしています。

14歳のアリエッティは、一人娘。お父さんと「借り」に行きたくてうずうずしていますが、初めての「借り」で人間の男の子、翔に姿を見られてしまいます

人間に見られてしまったことで、家族の生活は激変します。翔は小人たちと友達になろうとしますが、家政婦のハルさんは小人たちを捕まえようと張り切ります。しまいにはホミリーを捕まえてビンに閉じ込めてしまうのです。

泥棒小人を捕まえた

と、ハルさんは言います。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方3

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原作『床下の小人たち』——様々な視点から物語を味わう糸口に

『アリエッティ』の原作である『床下の小人たち』は、第二次大戦の記憶がまだ新しい1952年に発表されました。それから半世紀以上、ずっと英語圏の(そして日本の)子供達をワクワクさせ続けてきました。人間からいろいろなものを借りている小さな人たち、という発想が秀逸です。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方4

原作ではポッドと言う名前が(豆のさや)という意味だということがわかるようになっています。作品中で指摘はされませんが、お母さんのホミリーの名前は(教会のお説教)という意味ですから、小人たちは名前も人間から「借りて」いるのです

それにしても、子供達にお説教をする役目をしょっちゅうあてがわれてしまうお母さんの名前が「ホミリー」というのはうまくつけたものです。

映画『アリエッティ』ではあまり光を当てられていませんが、原作でとても重要になるのが「借りる」ことと「盗む」ことの違いです。

原作では、男の子とアリエッティはこんな会話をします。

「借りる(中略)きみは、そういうんだね?」

「ほかに、なんていえばいいの?」とアリエッティがききました。

「ぼくなら、盗む、っていうね。」

この会話の中でアリエッティは、こんな風に説明します。

盗むというのは借りぐらしの小人の間で起きることで、人間のところから物をとっていくのは盗みではない、と。男の子はアリエッティの説明を面白がって受け入れます。読者である子供達も、「そうだね」と頷くのかもしれません。

でも、ここで一度立ち止まって考えてみましょう。原作でも、ジブリの映画でも、小人を「泥棒」と呼び、捕まえようとするのは、使用人たちです。映画では家政婦のハルさんですが、原作では料理人のドライヴァおばさんです。

使用人はお屋敷の中では弱い立場です。小さなものがなくなった時には真っ先に疑われてしまいます。切手や安全ピンであれば、なくなっても困らないでしょうが、宝石やお金がなくなったら、すぐに職を失いかねません。

実際に原作ではアリエッティの家に「エメラルドの時計」が飾ってあると書いてあります。まさに、なくなった時に大騒ぎが起きて、女中が一人や二人解雇されていてもおかしくないような品物も、原作のアリエッティたちは「借りて」いるのです。

家のものがいつの間にかなくなったら、お手伝いさんは困るんじゃないかな?

ぐらいの会話は、親子の間で持ってもいいのかもしれません。様々な視点から登場人物を見るための仕掛けが、原作には確実に施されています。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方5

図工や体育、演劇に作話まで! イギリスの小学校での『小人たち』

さて、『床下の小人たち』は、実際の教室での勉強に展開していきやすい作品です。日本語訳の出版社は実際に自分で読むのであれば小学校5・6年以上としていますが、本が好きな子供たちならずっと早くに読むでしょうし、もっと幼い子でも楽しめる質の良い映画『借りぐらしのアリエッティ』があります。

実際にイギリスの小学校で教材として扱われる時も、対象年齢は6歳から12歳前後と、比較的幅があるようです。

私の子供達の学校では図工の授業でアリエッティの部屋を作っていましたが、演劇体育に展開することもできるでしょう。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方6

たとえば、演劇教育に関するこちらのサイトでは「借りゲーム」として10分程度のゲームを提案しています。

目隠しをした子供が一人中央の椅子に座る。その椅子の下に鍵を置き、他の子供達は気付かれないようにとろうとする。目隠しをした子供は耳をすませ、「借りぐらし」が来たと思ったら指差してそう言う。

あるいは、一人の登場人物になりきって席に座り、質問に「登場人物として」答える、というアクティビティもあります。読み、理解し、演じる受け身におはなしを楽しむ以上のことが要求されるアクティビティです。

もう少し先に行くと、物語の中心人物である人間の「男の子」になったつもりで、自分にはどんな偏見があるのか考えよう、という作業も入ってきます。

その他にも、小人たちが学校に暮らすことになったという設定で続きを書いてみましょう小人を見た人間の男の子になったつもりで日記を書いてみましょう、というように、借りぐらしの小人たちを題材に、子供達と一緒にできることはどんどん広がっていきます。

ジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』から広がる “イギリス流” の学び方7

映画を見ながら家庭でも『小人たち』との学びを深めよう

学校で取り上げる作品は、決められた時間で読み、理解しなくてはいけませんが、家庭で読む物語は、アクティビティと読書の間に時間があいても良いのが大きな利点です。

一気に全てのアクティビティに手を出すのではなく、映画を見ながら「いつか大きくなったらタイミングを見て、こういうことをしてみてもいいな」と考えると良いのではないかと思います。

映画と原作の間に時間があいても大丈夫ですし、本当に小さい頃はアリエッティの「借りごっこ」から始まり、いつか、「偏見とは」というような大きな問題に移っても良いでしょう。

せっかく日本を舞台に映画が作られたのですから、お子さんがもっと大きくなった時には、映画と原作の違いについて語ることもできるでしょう。

子供達に愛される映画はとても良い学びの糸口なのです。

(参考)
メアリー ノートン (Mary Norton), 林容吉 訳(2000),『床下の小人たち―小人の冒険シリーズ〈1〉』,岩波書店.
Helen Day, “The Borrowers: A Look at the book through drama” in Teaching Drama, Summer term 1., pp.1-9.
米林宏昌 監督(2011),『借りぐらしのアリエッティ[DVD]』,ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社.