教育を考える/芸術にふれる/アート 2019.4.19

美術鑑賞は “ぶらぶら歩きでいい加減に” 。子どもがアートに目覚める瞬間

長野真弓
美術鑑賞は “ぶらぶら歩きでいい加減に” 。子どもがアートに目覚める瞬間

最近は、施設やイベント面で子どもを意識する美術館が増えてきました。そのため、子どもたちが美術館に行くことへのハードルも、少しずつ下がってきています

とはいえ、訪れる頻度は決して多いとは言えないのが現状。せっかく足を運んだなら、アート作品に触れる貴重な機会を生かして、存分に楽しみ、たくさん学んでほしいですよね。子どもたちのフレッシュな感性を解き放つ鑑賞法があるのをご存知ですか?

見方次第でアートがさらに身近に、親子のコミュニケーションにも一役買いそうな美術館の楽しみ方をご紹介します。

アート鑑賞が引きだす意外な能力

美術館を定期的に訪れる人はアート好きで、作品を目の当たりにすることで感性を磨いています。しかし最近は、それだけではないビジネス面でのメリットも話題に。アート鑑賞がもたらす「創造的思考能力」の発達が、アメリカ・コロンビア大学の調査で証明されたのです。その能力とは、具体的に以下の4つです。

・問題解決力:より多くのアイデアや問題解決へのアプローチが考えられる
・オリジナリティ:より多くの創造的な問題解決アプローチを生み出せる
・進化させる力:問題を解決するプランを作成する際、より詳細なプランを練ることができる
・粘り強さ:多様な価値観を受け入れ、早計に判断を下さない。また解決策に対してすぐに満足しない

(引用元:Forbes JAPAN|世界のエリートに学ぶ「創造的思考力」の伸ばし方

アートには “正解” がありません。作者の意図があったとしても、受け取り方は人それぞれ自由。そのため、「自分で考える」ことが必要になってきます。さらに、「それを人に伝え、人の意見も聞いて、判断する」というプロセスを経ることで「創造的思考力」のトレーニングになるのです。

そして、これらの能力は、将来仕事をする際に、どの業界でも共通して発揮できるもの。子どもたちが幼い頃からアートに慣れ親しむことは、将来的に彼らの大きな力になりえるのです。

子どもがアートに目覚めるきっかけは親

2013年に行われた株式会社ライフメディアの美術館・美術展に関する調査(対象10~60代男女)によると、「美術館にはほとんど行かない」という人が半数を占め、「1年に1回以上行く」人は約3割でした。

そして、「アートを身近に感じるか」の問いに対して「感じない」と答えた人は、なんと6割近くも。忙しくて時間がないこともあるのでしょうが、想像以上に日本人にとって “アートはハードルが高い” というイメージがあるのかもしれません。

別の調査では、この1~2年間に子どもと一緒に美術館に「1回以上行った」と答えた人は約4割、「1回も行かなかった」が約6割という結果が(「小学生の親の芸術教育・美術館に対する意識」2007年第一生命調べ)。また、「家庭教育で心がけていること」の中に、「美術館や博物館に連れていく」と答えた人は3割強でした。(文部科学省による平成19年調査)

全ての調査において、「美術館に行った」と答えた人は親自身アートに興味がある人が多く、さらに子ども時代に親が美術館に連れていってくれた経験のある人が多く含まれています。つまり、親がアートに対してハードルが低ければ、子どももそうなる傾向があるのは明らかです。子どもがアートに目覚めるきっかけは親が握っているのです。

美術館鑑賞のコツは “いい加減に” 見ること

なぜ日本人は、アートにハードルの高さを感じてしまうのでしょうか。その原因のひとつとして考えられるのは、鑑賞の仕方に縛られていること。作品を鑑賞する際、頭でっかちになっていませんか?

作者、作品の時代背景、作風やテクニックに関する知識などなど……。自分の感性ではなく、情報と知識の目を通して見てしまい、真面目になりすぎて、「楽しむ」という観点がどうしても抜け落ちてしまいがちなのです。

美術史家であり岡田美術館館長の小林忠氏は、「美術館はぶらぶら歩きで、いい加減に見るのがコツ!」とおっしゃっています。これ、子どもとの鑑賞にぴったりですね。

本当にあなたがお好きなものは作品のほうから呼びかけてくれるから。そうしたら立ち止まって、ゆっくりと細部までていねいに見てほしい。(中略)じっくり見るのは1点か2点でいいんです、って。心に留めて、目に浮かべることができるようになるまでようくご覧になって、できたらミュージアムショップでその作品のがあったら絵葉書1枚でもいいし、カタログでもいいからお持ち帰りになって、と言いました。

(引用元:和樂 2019.2-3月号『日本美術は自由だ!』, pp42-43, 小学館.)

たくさんの作品を全部真面目に見ていたら疲れてしまう。気に入ったものを集中して見ればそれでいいと。どんな展覧会でも肩の力を抜いて自由に、「自分で見つけて、感じて、考える」、それに慣れたら美術館へのハードルは徐々に低くなっていきそうですね。

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次回は、自分が好きな作品を見つけたらどういうふうに見たらいいのかの参考になるMoMA(ニューヨーク近代美術館)発の鑑賞法をご紹介します。

(参考)
リクナビNEXTジャーナル|必要なのは、自由な発想だけ!MoMA開発「対話型アート鑑賞」で磨ける、ビジネスの役立つスキルとは?
第一生命|Report②小学生の親の芸術教育や美術館に対する意識 研究開発室 的場康子
文部科学省|子どもの育ちをめぐる現状等に関するデータ集
マイナビウーマン|1年に1回以上、美術館・美術展に行く人は32%—ライフメディア調べ
Forbes JAPAN|世界のエリートに学ぶ「創造的思考力」の伸ばし方
和樂 2019.2-3月号 『日本美術は自由だ!』, pp42-43. 小学館.
岡崎大輔著(2018), 『なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?』, SBクリエイティブ.
フィリップ・ヤノウィン著/京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター訳(2015), 『どこからそう思う?学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ』, 淡交社.