健康を考える/心と身体 2025.10.9

小学生のヘアカラー・縮毛矯正はアリ? 美容皮膚科医が教えるリスクと安全に楽しむ方法

久野賀子
小学生のヘアカラー・縮毛矯正はアリ? 美容皮膚科医が教えるリスクと安全に楽しむ方法

「ママ、髪を染めたい!」「ストレートにしたい!」——SNSやYouTubeの影響で、小学生の子どもからこんなリクエストを受ける家庭も珍しくないのではないでしょうか。じつはいま、小学生モデルやYouTuberの登場により、ヘアカラー縮毛矯正は特別なものではなく「身近なおしゃれ」として子どもたちの憧れの対象になっています。

親としては「まだ早いのでは?」「頭皮や髪に悪くない?」「学校で問題にならない?」「周りからどう見られる?」と悩むのも当然のこと。子どもの個性として意見を尊重すべきか、それとも医学的リスクや社会的評価を優先すべきか——。実際、「カラーをしたいという子どもの意見を尊重したい」という意見がたくさん見られる一方で、ある調査では約6割が小学生のヘアカラーが「悪い印象」という結果も。

本記事では、美容皮膚科医・久野賀子氏監修のもと、小学生の髪や頭皮の特徴、施術によるリスク、世間の評価、安全に楽しむための工夫をわかりやすく解説します。

監修者プロフィール

久野様 プロフィール画像

久野賀子

美容皮膚科医

2017年東京医科歯科大学医学部医学科 卒業。日大板橋病院にて初期研修終了後、湘南美容クリニックに入職し、5年半勤務。
新宿本院皮膚科医局長として通常の勤務だけでなく、新人医師の指導、VIP対応、トラブル対応に従事。2024年11月新宿二丁目にPRIDE CLINICオープン。

小学生が「髪を変えたい」と思うのは決して悪いことではない

子どもがヘアカラーやストレートに憧れるのは、決して不自然なことではありません。発達心理学の観点からも、これは健全な成長過程の一部といえます。

ママや身近な大人の真似

幼児期から続く「大人と同じことをしたい」という気持ちは小学生になっても健在です。特に母親が髪を整える姿を毎朝見て「自分もやりたい」と思うのは自然な心理です。この模倣行動は、社会性の発達や自立心の芽生えを示す重要なサインでもあります。

SNSや周りの影響

「カラーしてる子、かわいい」など、外見が友達同士の話題になる時期でもあります。小学校高学年になると、クラスメイトとの比較意識が強くなり「みんなと違う自分は恥ずかしい」「もっとかわいくなりたい」という気持ちが芽生えます

また、現代の子どもたちは、小学生モデルやインフルエンサーが日常的に登場するコンテンツに触れています。YouTubeやTikTokでは「小学生メイク」「キッズヘアアレンジ」といった動画が数百万回再生されており、「自分もやってみたい」という願望を刺激します

自己表現の欲求

心理学的にも、自己表現や「自分らしさ」を模索する時期にあるため、髪への関心は自然な成長のサインです。小学校高学年は自分の外見への意識が高まる時期であり、髪型や髪色を変えることで「新しい自分を発見したい」という気持ちが強くなります

多様性が尊重される現代では、絶対に生まれもった外見で過ごさないといけないという価値観は、以前ほど強くない傾向にあります。好きなアイドルや身近な憧れの大人と同じようになってみたい気持ちがあったとしても、それは変なことではないのです。

これは健全な心理発達の過程であり、頭ごなしに否定するのではなく、適切な方向に導くことが大切です。子どもの自分らしさの表現を、危なくないように大人がちょっと調整してあげる——そんな姿勢で、医学的安全性を確保しながら、どう実現するかを一緒に考えることが、現代の子育てには求められています。しかし、その願いを叶える前に、親として知っておくべき現実があります。

笑う子ども

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子どもの髪と頭皮が抱えるリスク

子どもの髪や頭皮は大人とは大きく異なり、ヘアカラーや縮毛矯正による影響を受けやすい状態にあります。美容皮膚科医の立場から、特に重要な点を解説します。

消費者庁は2015年に「安易に子どもに毛染めをするのは控えましょう」と注意喚起を発表しています。理由は、子どもの皮膚が未熟で化学物質の影響を受けやすく、低年齢から毛染めを行なうとアレルギーになる可能性が高まるなどのリスクがあるためです。

また、カラー剤やパーマ液は頭皮に刺激を与えるだけでなく、頭皮から吸収されて身体に悪影響を及ぼす可能性があります。特に成長期の子どもには使用しない方が良いでしょう。以下に「子どもの髪や頭皮の特徴」と「ヘアカラー・縮毛矯正のリスク」をまとめました。

子どもの髪や頭皮の特徴

  • 髪が細く脆弱
    大人の髪の直径が約80-100マイクロメートルなのに対し、小学生は約50-70マイクロメートルと細く、キューティクルも未発達。一度ダメージを受けると回復が困難
  • 頭皮が薄く敏感
    角質層は大人の半分程度(約10-15マイクロメートル)、皮脂分泌も約3分の1と少なく、バリア機能が未熟
  • アレルギーリスクが高い
    免疫システムが発達途中のため、アレルギー反応を起こしやすい。特に問題なのは「感作」で、初回は無症状でも2回目以降に突然強い反応が出ることがある
  • 毛根へのダメージ
    成長期の毛包はデリケートで、過度な施術を繰り返すと将来的に「髪が細くなる」「白髪が早く出る」「薄毛」のリスクが高まる可能性

カラー剤や縮毛矯正には以下のリスクがあります。

ヘアカラーのリスク

  • 酸化染料やブリーチ剤による化学的刺激
  • パラフェニレンジアミン(PPD)によるアレルギー性接触皮膚炎(軽度のかゆみから顔の腫れ、水ぶくれ、呼吸困難まで)
  • 炎症後の色素沈着や瘢痕形成

縮毛矯正のリスク

  • 還元剤による髪の内部構造の変化と強度低下
  • 180-220℃の高温によるタンパク質変性(弾力性を永続的に失う)
  • 薬剤付着による頭皮の化学火傷

これらのリスクを総合的に考慮すると、「小学生に本格的なカラーや縮毛矯正は基本的に推奨できない」というのが医師としての見解です。

医学的には、髪や頭皮が成熟する16~18歳以降が望ましいとされており、美容業界でも15~18歳未満への施術を控える美容室が増えています。特に、一度発症したアレルギーは治らず、将来にわたって影響を与える可能性があることを理解しておく必要があります。

アレルギー 皮膚

世間の目も考慮する必要がある

医学的リスクに加えて、社会的な側面も考慮する必要があります。

株式会社ノーマリズムが2021年に実施した「小学生のヘアカラーに関する印象調査」(全国20-50代男女100名対象、インターネット調査)では、ヘアカラーをしている小学生に対して約6割が「悪い印象」をもち、その親に対してはさらに厳しく約7割が否定的という結果が出ています。

寄せられたコメントには:

  • 「髪の毛を染めている子は派手で目立ちたがり屋な攻撃的な子が多い」(20代女性)
  • 「親のエゴで子どもの髪を染めていそう。品がない」(30代女性)
  • 「育ちが悪い印象を受ける」(30代男性)
  • 「子供を自分のおもちゃか何かと勘違いしている」(20代女性)

サンプル数は100名と少ないものの、表立って言えないだけで、こうした本音を持つ人が一定数いるのは事実です。

これは「だからやめるべき」という結論ではありません。重要なのは、子ども自身が「自分の選択が周囲にどう映るか」を理解した上で判断する力を育てることです。親としては、こうした社会的な現実を伝えつつ、子どもが自分で考え、選択できるようサポートする姿勢が求められます。

髪を染める女の子

それでも安全に楽しむ方法はある

こうしたリスクや社会的な現実を踏まえた上で、子どもの「やりたい」という気持ちに向き合い、工夫することは可能です。

◆「ダメ!」より「どう楽しむ?」を考える

頭ごなしに「ダメ」と言うのではなく、まずは子どもの気持ちを聞いてみましょう。「どうして髪を染めたいの?」「どんな色にしたいの?」と具体的に聞くことで、子どもの真意を理解できます。

多くの場合、子どもが求めているのは変化や特別感であり、必ずしも永続的なカラーである必要はありません。特別な日や時期を決めて一時的にその気持ちを満たす方法を一緒に考えることで、親子の信頼関係も深まります

◆子ども向け・一時的な製品を選ぶ

実際、永続的なカラーリングをしなくても、髪色の変化を楽しむ方法は数多くあります。ある親は、子どもから髪を染めたいと言われた際、髪へのダメージを理由に断りつつ、代わりに着脱できるエクステを提案したところ、子どもも納得して楽しんでいるそうです。

おすすめの方法

  • ウィッグエクステ
    着脱自由で、髪へのダメージがゼロ。色や長さを自由に変えられ、その日の気分で楽しめる
  • ヘアチョークカラーワックス
    1日だけ髪色を楽しみたいときに最適。シャンプーや石けんで簡単に落とせる
  • 毛先だけのデザインカラー
    どうしても染めたい場合は、頭皮に薬剤をつけない「毛先だけ」のカラーリングであれば、頭皮への刺激を避けられる。ただし、髪へのダメージはあるため、美容師と相談の上、慎重に判断を

これらの方法であれば、子どもの「やりたい」という気持ちに応えながら、安全性を確保できます。ただし、どの製品を使う場合も「キッズ向け」「子ども用」と明記された製品を選び、必ずパッチテスト(皮膚テスト)を実施してから使用することが重要です。

「中学生になったら染められなくなるから、小学生のうちに」という判断をする家庭もありますが、医学的リスクを考えると、一時的なアイテムでの対応が最も安全な選択といえるでしょう。

エクステ

「そのままでも可愛い」と子どもの魅力をはっきり伝える

「黒髪もツヤツヤできれいだね」「笑顔が一番かわいいよ」「君らしい髪型が一番似合ってる」など、現在の魅力を具体的にほめることが大切です。同時に、外見だけでなく内面の美しさも含めて評価しましょう

また、子どもが「自分らしさを表現したい」という気持ちをもつことも成長の証。人それぞれの美しさがあることを伝えながら、安全に楽しく自分らしさを表現できるといいですね。

***
子どもの「やりたい」という気持ちは、成長への意欲の表れです。その気持ちを大切にしながら、適切な時期と方法を選択することで、親子の絆も深まり、子どもの健全な成長をサポートできるはずです。

美容に対する正しい知識と安全意識を親子で共有し、長期的な視点で子どもの美と健康を守っていきましょう

(参考)
消費者庁|毛染めによる皮膚障害
ヘアログ|ヘアカラーをしている小学生の印象は「悪い」が6割。その親の印象は「もっと悪い」!ヘアカラーをしている小学生の印象調査。