教育を考える/インタビュー 2025.6.11

【冒険力の育て方】スイング幼児教室が教える、乱世を生き抜くための「4つの力」

【冒険力の育て方】スイング幼児教室が教える、乱世を生き抜くための「4つの力」

もはや「乱世」と言ってもいい予測不能な時代を生きる子どもたちにとって、本当に必要な力とはどのようなものでしょうか。この問いに対して、「冒険力」と答えるのは、小学校受験において高い合格実績をもつスイング幼児教室を運営する矢野文彦さんです。冒険力の意味、そして、それらを構成する「4つの力」について詳しく解説してもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

日常的な「創意工夫」が、将来の「冒険」を支える

これからの時代を生きる子どもたちにとって、もっとも必要な力は「冒険力」だと私は考えています。冒険力とは、「成功するかどうかわからなくても、『まずやってみよう』と行動して挑戦する力」に加え、困難や失敗から立ち直る、いわゆる「レジリエンス」も含まれます。

なぜこの力が大切かというと、人生は予想どおりに進むことが少なく、むしろうまくいかないことが前提としてあるからです。

さらに現代は、コロナ禍のような予測不能な出来事が頻発し、かつてのように安定した将来が約束される時代ではなくなりました。いわば、「乱世」の時代なのです。だからこそ、挑戦を恐れず、失敗しても再び立ち上がる力がこれまで以上に重要になっているのです(インタビュー【第1回】参照)。

私が言う「冒険力」は、以下のような4つの力で構成されるものです。

【冒険力を構成する4つの力】
①くらし力
②コミュニケーション力
③ちしき力
④からだ力

「①くらし力」とは、日々の生活を営む力です。この力が冒険力につながるのは、挑戦意欲を高めるからです。服のボタンをとめる、部屋の片づけをするといった些細なことでも、「自分でできた」という経験は子どもにとって大きな自信を生みます。そこから、「きっと自分にはできる!」という挑戦意欲をもつことができるのです。

あるいは、くらし力を高めるなかで創意工夫することも見逃せないポイントです。たとえば掃除をするにしても、最初は親に教えられたとおりのやり方でやるでしょう。でも、そのうち子どもは自ら「こうしたほうが早く終わるのではないか」「もっときれいになるはず」と考えはじめます。そうした創意工夫の思考が、将来的な冒険力を育んでくれるのです。

皿を並べる子ども

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「察する力」をもつ人のまわりには、自然と協力者が集まる

「②コミュニケーション力」は、対人スキルを意味します。なかでも「察する力」はとくに重要なものではないでしょうか。コミュニケーション力というと、上手におしゃべりできるような、自分発信の力をイメージしがちかもしれません。もちろんそういった力も大切なものですが、察する力の重要性はさらに高いものだと考えます。

誰かにあいさつをする場面で、ただ元気にあいさつをする人と、あいさつをしながら相手の表情を見て「ちょっと顔色がよくないようだけれど、大丈夫?」と察して気遣うことができる人なら、どちらのコミュニケーション力が高いといえるでしょうか。間違いなく後者であるはずです。

察する力とは、他者に対する「優しさ」に他なりません。そのような優しさをもつ人のまわりには、自然と人が集まります。大人になったとき、たとえ仕事のスキルがそこまで高くなかったとしても、その人がなんらかのチャレンジをするときには多くの協力者が現れるといったことも考えられるはずです。そのような意味で、コミュニケーション力は冒険力を支えているのです。

「③ちしき力」は、単純な知識の他に知的好奇心も含みます。この力がなぜ大切かというと、生きる楽しみを深めてくれるために、結果的に行動やチャレンジを起こすことにつながるからです。たとえば、節分の日にただ恵方巻きを食べるのではなく、恵方巻きを食べる理由も知っていたらどうでしょう? 「だから食べるのか」と日常生活のなかにも納得感をもつことができ、ひいては「もっといろいろなことを知りたい」という意欲をもつこともできるでしょう。

あるいは、水族館や美術館に出かけるにしても、「この生き物にはこんな特徴がある」「作者はこの絵にこんな思いを込めている」といった知識をもっていれば、ただ「ふーん」と見ることと比べて楽しみははるかに大きなものになります。そうして日々の楽しみが深まることで、「人生をより豊かにするにはどうすればいい?」「もっと楽しく生きたい!」といった気持ちから、積極的に冒険をしようという思いももつようにもなるでしょう。

水族館でペンギンを見る女の子

体を上手に扱おうとすることは、試行錯誤そのもの

最後の「④からだ力」は、自分の思いどおりに体を動かして目的を達成する力のことです。なかでも「道具を扱う力」がとくに重要だと思います。実際、小学校受験でも、ハサミやクレヨン、あるいはボールといった身近な道具を扱う試験がよく見られます。というのも、体を上手に扱おうとすることは、「試行錯誤」そのものだからです。

「ボールを3回投げて的にあてる」という試験があるとします。このような試験では、1回目については採点しないこともよく見られるケースです。1回で上手にボールを的にあてる力ではなく、「1回目は強く投げ過ぎたから、2回目は弱く投げてみよう」「今度は弱過ぎたから、3回目はもう少しだけ強く投げよう」といった試行錯誤、あるいは状況に合わせた調整能力を見ているためです。自分が置かれた状況に応じて試行錯誤し調整する力が、チャレンジをよりよい方向に導いてくれることは言うまでもありません。

ここまでを読んで、子どもの4つの力を高めたいと考えた人もいるでしょう。そのための指針、あるいは子どもの成長度合いを確認する「レベルアップトライ」というものを、「年少まで」「年中年長向け」「小学校低学年向け」の3レベルにわけて、私の著書『スイング幼児教室が教える 冒険力の育て方』(光文社)に記載しています。

スペースに限りがありますので、ここでは「くらし力」のレベルアップトライの一部を紹介しましょう。わが子を見ながら、「できる」「挑戦中」「これから」のうち、あてはまるものにチェックマークを入れてみてください。「これはもうできているからOK」「次はこれを目標にしよう」といったことをはっきり認識できます。「できる」のチェックマークが増えれば増えるほど、子どもの「くらし力」が順調に育まれていることになります。

ただ、現時点でできないものがあっても焦る必要はありません。親子でじっくりと取り組み、最終的にできるようになることを目指せばいいだけのことです。もちろん私の著書ではもっとたくさんのレベルアップトライを紹介していますから、興味をもってくれたなら、ぜひ本を手に取ってほしいと思います。

【年少まで】

「くらし力」のレベルアップトライ できる 挑戦中 これから
1 自分が脱いだ衣類を洗濯かごに自分で入れる
2 家族と一緒に洗濯物を取り込んだあと、家族の衣類をそれぞれ仕分けする
3 毎日ひとつの衣類をたたむチャレンジをする

【年中年長向け】

「くらし力」のレベルアップトライ できる 挑戦中 これから
1 その日の天気に合わせて着る服を自分で選ぶ
2 自分で服のボタンをとめられるようになる
3 自分の服をたためるようになる

【小学校低学年向け】

「くらし力」のレベルアップトライ できる 挑戦中 これから
1 自分がどう見せたいかを考えて服を選ぶ
2 自分で明日の持ち物の確認と準備をする
3 家のなかで家事が行き届いていないところを自分で見つけて、片づけたり掃除をしたりする

矢野文彦先生

スイング幼児教室が教える 冒険力の育て方
矢野文彦 著/光文社(2024)
冒険力の育て方

■ スイングアカデミア代表取締役・矢野文彦先生 インタビュー一覧
第1回:「できない」を「できる」に変える冒険力! 小学受験のプロに聞いた、子どもの力を伸ばす親とは?
第2回:教育方針に迷いや焦りを感じたら、「わが子の名前の由来」を思い出して。どんな願いを込めた?
第3回:【冒険力の育て方】スイング幼児教室が教える、乱世を生き抜くための「4つの力」

【プロフィール】
矢野文彦(やの・ふみひこ)
1973年生まれ、東京都出身。株式会社スイングアカデミア代表取締役。大学卒業後、広告代理店やインターネットプロバイダを経て大手通信会社に入社。ブランドマーケティング、広告宣伝等を担当。2011年に退社して独立。WEB制作、アーティストマネジメント、教育事業をはじめ、東京都港区にスイング幼児教室を開校。2014年に株式会社スイングアカデミアを設立。社会経験を経て、学力だけではない社会で活躍するために必要な本当の力に気づき、「未来につながる学び」を、学びのスタート地点にいる子どもたちに伝えたいという思いから小学校受験業界に参入。培ったマーケティングノウハウを活かし、教育トレンドを速やかに分析して反映するなど、効率的で信頼性のある独自のカリキュラムが定評。講師やスタッフたちとのチームワークを大切にしながら、自らも授業やセミナーを行い、生徒や保護者に学びの本質である「冒険力」を伝えていくことを続けている。
【公式X】矢野文彦 (スイング幼児教室)

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。