周囲からの情報やほかの親の考えなどに惑わされ、子育ての「軸」がぐらつくなど悪影響を受けていないでしょうか。インターネットを通じてかつてとは比較にならないほど多くの情報に触れる現代では、とくに注意が必要かもしれません。そのような状況において、高い小学校受験の合格実績をもつスイング幼児教室を運営する矢野文彦さんは、「子どもの名前の由来を思い出す」ことをすすめます。その効果は、どのような点にあるのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
目次
子どもの名前の由来は、親の教育方針の第一歩
子育て中の親御さんは悩みがつきないでしょう。子どもの性格や行動に関する悩み、発達や学習度合いに関する悩み、しつけ方に関する悩みなど多種多様だと思います。そうした悩みにさいなまれているときは、「軸」ともいえる教育方針を見失い、袋小路に迷い込んでしまいかねません。
すると、子育てに多くの悪影響が表れます。たとえば、わが子に対して「周囲に流されず自分自身の力で力強く人生を切り開ける子になってほしい」と願っていたのに、「子どもに失敗させたくない」「いい学校に行かせたい」といった目先の思いが先行してしまうと、もともとの願いとは矛盾した育て方になってしまいます。そのような、軸がブレた育て方のもとでは、子どもも「結局どうすればいいの?」と混乱し、精神的にも不安定になってしまうでしょう。
あるいは、親のなかで「なにを大事にしたいのか」という軸が明確でなくなれば、周囲の情報や他の親と自分を比較して親自身が迷いや焦りを感じ、ストレスを溜めやすくなることも考えられます。親が強いストレスを感じることは、子どもにとっても好ましいことではありませんよね。
そのような状況にいる親御さんには、改めて「わが子の名前の由来」を思い出してほしいと伝えています。子どもの名前をつけるとき、すべての親は「こんな子に育ってほしい」と願いを込めます。それは、それぞれの親の教育方針の第一歩に他なりません。それが、まさしく子育ての軸なのです。
わが子の名前の由来を思い出し、子どもが生まれたときの気持ちに立ち返ることで、「そうだった、この子の名前にはこういう願いを込めていたのだった」と自らの教育方針を思い出すことができ、あるいは教育方針を立て直して今後の子育ての方向性を決めることもできるのです。
「軸」を見失えば、自分らしい判断ができなくなる
少し話が逸れるようですが、仕事だって同様ですよね。私は、子育てと仕事はとてもよく似ているものだと考えています。
理想としていた職業に就くことはできていないとしても、みなさんが現在の仕事をはじめたときには、「こういう理由でこの仕事をするんだ」「この仕事を通じて将来的にこんなふうになりたい」「そのためにはこういうことを大事にしよう」という初心をもっていたはずです。この初心は、子育てでいえば、子どもが生まれたときに決めた教育方針です。
でも、同じ仕事に長く携わるうちにその初心を見失ってしまうと、モチベーションの低下や判断のブレなど、多くの悪影響が出てきます。もちろん、そうなると成果も出づらくなって当然です。
そうした「なにを大事にしたいのか」という軸は、普段の仕事の進め方にも顕著に表れます。「なによりも人の気持ちを大事にしたい」という人なら、パートナー企業がなんらかのトラブルを起こしたときに「パートナー企業の要望に柔軟に対応しよう」と考えるでしょうし、「契約や計画といった取り決めを守ることこそ優先しなければならない」という人なら、「パートナー企業に多少の負担をかけることも仕方がない」と考えるでしょう。
もちろん、子育ての教育方針にも仕事における軸にも正解というものはありません。ただ、その内容は問わず、軸を見失ってしまっては自分らしい判断をすることが難しくなるのです。
子育てでは「ふたつの顔」を使いわける
ただし、子育てにおいては、「ふたつの顔」を使いわけることも大切です。仕事においては、先のトラブルが発生したときの例ではありませんが、場面に応じた仕事の進め方や対処法を、「自らの軸」に照らし合わせて打ち出さなければなりません。
このことについては、子育ても同じです。子育てにおいても、理想通りにうまくいくことはほとんどないでしょう。うまくいかないことがあれば、自らの教育方針に立ち返って打ち手を見出す必要があります。たとえるなら、アスリートをサポートするトレーナーの顔であり役割のようなものです。
「礼儀を重んじる子になってほしい」と願う親が、玄関で靴をそろえることを子どもに教える場面をイメージしてみてください。「靴をそろえておくと、お客さんが来たときに『すてきなお家だな』と思ってもらえるよ」といったほうが響く子もいれば、「靴をそろえるのがマナーだから」とシンプルに伝えたほうが納得する子もいます。
「いまこの子にはどのような伝え方が最適なのか」と考えるのは、アスリートの個性や状況を見極めて成長をサポートする、まさにトレーナーのような役割です。仕事はもちろん、子育てにおいても、このような冷静な見方が欠かせないのです。
でも、そういった関わりだけではやっぱりさみしいですよね? 子どもの誕生日や旅行など特別なときには、「かわいい、かわいい」と徹底的に甘やかしてもいいと思うのです。「トレーナーの顔」と、子どもに甘い、いい意味での「親ばかの顔」、ふたつをうまく切り替えながら適切な関わりをしていくことで、より深い親子関係を築けるはずです。
『スイング幼児教室が教える 冒険力の育て方』
矢野文彦 著/光文社(2024)
■ スイングアカデミア代表取締役・矢野文彦先生 インタビュー一覧
第1回:「できない」を「できる」に変える冒険力! 小学受験のプロに聞いた、子どもの力を伸ばす親とは?
第2回:親自身が迷いや焦りを感じたら、「わが子の名前の由来」を思い出して。どんな願いを込めた?
第3回:【冒険力の育て方】スイング幼児教室が教える、乱世を生き抜くための「4つの力」(※近日公開)
【プロフィール】
矢野文彦(やの・ふみひこ)
1973年生まれ、東京都出身。株式会社スイングアカデミア代表取締役。大学卒業後、広告代理店やインターネットプロバイダを経て大手通信会社に入社。ブランドマーケティング、広告宣伝等を担当。2011年に退社して独立。WEB制作、アーティストマネジメント、教育事業をはじめ、東京都港区にスイング幼児教室を開校。2014年に株式会社スイングアカデミアを設立。社会経験を経て、学力だけではない社会で活躍するために必要な本当の力に気づき、「未来につながる学び」を、学びのスタート地点にいる子どもたちに伝えたいという思いから小学校受験業界に参入。培ったマーケティングノウハウを活かし、教育トレンドを速やかに分析して反映するなど、効率的で信頼性のある独自のカリキュラムが定評。講師やスタッフたちとのチームワークを大切にしながら、自らも授業やセミナーを行い、生徒や保護者に学びの本質である「冒険力」を伝えていくことを続けている。
【公式X】矢野文彦 (スイング幼児教室)
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。