教育を考える 2019.11.13

学びの基礎となるのは言語能力――「3歳までの子育て」が大切なわけ

学びの基礎となるのは言語能力――「3歳までの子育て」が大切なわけ

子どもが生まれて3歳までのあいだは「ゴールデンタイム」と呼ばれることもあるように、その時期の過ごし方によって、その後の成長に大きなちがいが生まれるとされます。では、そのゴールデンタイムに、親はどのようなことを心がけておくべきでしょうか。日本屈指の名門校である開成中学・高校の校長、柳沢幸雄先生にお話を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

3歳までのあいだは母国語を身につける学びの準備期間

わたしは著書等を通じて「10歳までの子育てが大切」だと提唱していますが、その10歳までのあいだでもとくに3歳までの子育てが重要だと考えています。というのも、その時期が、その後の人生における学びの準備期間にあたるからです。

学びの基礎となるのは言語能力です。誰かからなにかを教わる際に必要なコミュニケーションを取るにも、自分でものごとを考えるにも、使うのは母国語ですよね。では、その母国語のベースはいつ身につけるのでしょうか。それは、生まれてから3歳までのあいだ。だからこそ、3歳までの子育てが重要となるのです。

ニワトリのひな鳥で考えてみましょうか。ニワトリの親鳥は卵を21日間にわたって温めます。その期間、卵は外から見ても殻があるために変化は見えません。ところが、そのなかでは劇的な変化が起きていて、ひな鳥がかたちづくられていきます。その卵のなかにいるあいだが、子どもの言語学習でいえばまさに準備期間です。そして、ひな鳥が殻を破ってこの世に誕生したときが、学習の具体的成果が見えはじめるとき。子どもが片言ながら母国語をしゃべりはじめる瞬間なのです。

また、3歳までの学びの準備期間は、脳科学の観点からいえば、神経系のネットワークができ上がる時期でもあります。つまり、3歳までの子育てが脳の発達自体にも大きく影響を与えるのです。

いま、「人生100年時代」なんてことがいわれますよね。でも、その100年のうちのそれぞれの1年はどれも同じ重みだというわけではありません。その後の人生への影響力という点では、最後の100年目はゼロといってもいいでしょう。逆に、0歳の1年が人生に与える影響力は100、1歳は99、2歳は98といってもいい。それほど、幼いときの子育てが大切なのです。

親が笑顔を見せれば子どもは安心して成長できる

では、3歳までの子育てにおいて、親は具体的にどういうことを意識しておくべきでしょうか。それは、子どもにたくさん話しかけてあげるということ。おむつを替えたときなら「気持ち良くなったね」「さっぱりしたね」、おっぱいをあげたら「お腹いっぱいになったね」と話しかける。すると、子どもは「これが気持ちいいということ、さっぱりしたということか」「これがお腹いっぱいということか」と学ぶ。つまり、親の語りかけから具体的な言語を学んでいくのです。

しかも、親が話しかけるほど子どもは安心感を得ることにもなります。親が面倒を見てくれなければ子どもは死んでしまうのですから、子どもにとって生存するための絶対必要条件とはなにかというと、親の笑顔です。ですから、親が笑いながらいろいろと話しかけてくれることによって強い安心感を得ます。すると、生存への不安がない状況になり、人間として非常にまっとうなかたちで成長していくということになるのです。

こういうと、真面目な人なら、子どもにどんなことを話しかければいいのかと気になる人もいるかもしれませんね。でも、「こういうことをいうべきだ」というふうに変に考えすぎる必要はありません。子どもに対するかわいい、いとおしいという気持ちに素直に従って、自然に出てくる言葉をどんどんかけてあげればいい。そうすれば、親も難しい顔ではなく自然に笑顔になれますから、それがまた子どもに安心感を与えることになるのです。

子どものなかにあるものしか引き出せない

気をつけてほしいのは、幼いときの子育てが大事だからといって、無理やり勉強をさせるようなことは絶対にNGだということ。わたしは、子育てや教育とは、大人が考える枠にはめるようなものであってはならないと考えています。そうではなくて、子どもから「引き出す」ものなのです。

たとえていうなら、「繭玉から生糸を引っ張り出す」イメージでしょうか。無理やり勉強をさせるように、強引に引き出そうとすれば糸は切れてしまいますから、適度な力と速度で引き出してあげる必要があります。また、引き出す側がいくら「こんな糸がほしい」と勝手に思ったところで、引き出せるのは繭玉のなかにある糸、つまりもともと子どものなかにある力だけです。

その意識を持っていれば、親の勝手な願望ではなく自分の子どもに注意を向けられるようになるはずです。しかも、それができるのは親だけが持つ特権です。学校の場合、たくさんの子どもがいますから、教員は必ずしも子ども一人ひとりに合った教育ができるわけではありません。その親の特権を存分に生かして、子どもがなにに興味関心を示しているのか、どんな力を持っていそうなのかと子どもに注意を向けて、子どもに合わせた子育て、家庭教育を心がけるようにしてほしいと思います。

子どもに勉強は教えるな-東大合格者数日本一 開成の校長先生が教える教育論
柳沢幸雄 著/中央公論新社(2019)

■ 開成中学・高校校長・柳沢幸雄先生 インタビュー一覧
第1回:学びの基礎となるのは言語能力――「3歳までの子育て」が大切なわけ
第2回:生きる力をつくる「10歳までの幅広い経験」。子どもに勉強は教えるな!?
第3回:親が自分の人生を肯定的に生きることが、子どもを自立させる第一歩
第4回:子どもの話をしっかり聞くと「あとが楽」。勉強に必要な集中力の育て方

【プロフィール】
柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
1947年4月14日生まれ。開成中学・高校校長。開成中学・高校を経て東京大学工学部化学工学科卒。システムエンジニアとして民間企業に3年間勤めたのち、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。米ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、同併任教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授などを経て、2011年に開成中学・高校の校長に就任、現在に至る。研究者としてはシックハウス症候群・化学物質過敏症研究の第一人者でもある。『空気の授業』(ジャパンマシニスト社)、『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(朝日新聞出版)、『見守る勇気 「世界一優秀な18歳」をサビつかせない育て方』(洋泉社)、『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム)、『18歳の君へ贈る言葉』(講談社)、『なぜ、中間一貫校で子どもは伸びるのか』(祥伝社)、『自信は「この瞬間」に生まれる』(ダイヤモンド社)、『エリートの条件』(KADOKAWA/中経出版)、『ほめ力』(主婦と生活社)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。