たくさんの動物がいる動物園は見どころが満載ですが、「学び」を意識して観察するためには、どんなところを見れば良いのでしょうか? 動物園のおもしろさやすばらしさを伝えるために活動されている上野動物園教育普及係の井内岳志さんに、ポイントをお聞きしました。
構成・編集/木原昌子(ハイキックス) 取材・文/田中祥子 写真/児玉大輔(※)
動物の観察で、着目するポイントを頭にいれておく
小さな子どもでもわかりやすいのは、体の大きさですね。とても背が高いキリンの頭は小さく見えますが、じつは人間の子どもの胴体とおなじくらい大きいのです。キリンが頭を下げたときには、ぜひ観察してみてください。逆に、小さくて驚くのはネズミ類です。上野動物園にいるコビトハツカネズミは世界最小のネズミといわれ、500円玉とほぼ同じ大きさしかありません。実際の大きさが体感できるのは、テレビや図鑑ではわからない動物園ならではの楽しみですね。
ウンチも観察のポイントです。形や大きさはまちまちで、体が大きな動物だからといってウンチも大きいわけではありません。ゾウのウンチは1個が1kgもある大きなものですが、キリンはポロポロの小さなウンチをします。パンダのウンチは良いにおいがするといわれていて、上野動物園では、毎週水曜日にボランティアが解説をする際に、実際ににおいをかぐこともできますよ。
動物園で生まれた赤ちゃんが公開されている場合は、パンフレットやホームページ、動物舎の掲示で確認することができます。親と子で模様や色がまったく違う動物もいます。たとえば、マレーバクの大人は胴の途中で白と黒にはっきりと分かれていますが、子どもは “うり坊” と呼ばれるイノシシの子どもと同じような茶色の斑模様です。サルのアビシニアコロブスの親は白と黒ですが、子どもは真っ白い毛に覆われています。ゴリラの子どもはお尻に白い毛があります。子どもの頃は多少いたずらをしても許されていますが、成長するにしたがって白い毛が抜け始めると大人として扱われるので、いたずらをするとほかの大人に怒られてしまうんですよ。
アビシニアコロブスの親子。子どもの毛は真っ白 (公財)東京動物園協会提供
動物はなにを食べているのでしょうか。動物園によっては、エサやりの時間を案内しているところもあるので、エサやりタイムを巡るのもおすすめです。残念ながら上野動物園では、人が集中して危険な場合があるためエサの時間は公開していませんが、食べているところが見られなくても、食べ残しを観察することもできます。ちなみに、ツキノワグマにミカンやドングリをあげると、きれいに中身だけ食べて皮は残します。クマの口や舌先が器用だということがわかりますね。
ツキノワグマ (公財)東京動物園協会提供
動物園だからこそできる調べ学習のテーマを考えよう
調べ学習のおすすめのテーマとして、動物の体の部分の細かな特徴を見比べるというものがあります。観察をして、なぜその違いがあるかを考えてみるとおもしろいと思います。
たとえば、目は動物によってついている場所が違います。草食の動物の目がついている場所は、頭の横のほう。そうすると視界が広くなるので、肉食の動物が自分を襲おうとして近づいてくるのが、真後ろ以外なら察知できるのです。逆に、肉食の動物の目は前の方についています。正面を左右の目でしっかりと見られるため、獲物との距離を正確に測ることができます。肉食ではありませんが、サルも目は前の方についていますね。これは枝から枝へジャンプするときの距離を知るためです。人間もサルの仲間なので、目は前についていますね。
蹄があるか、指が何本あるかなど、足の形もさまざまです。馬は1本指、ウシやキリン、シカは2本指(さらに小さな2本の指をもつことも)、バクの後ろ足やサイは3本指です。鳥の場合は、前に向いている3本の指のほかに、後ろに向かって親指が1本ついているものがあります。これは、木に止まるための支えです。こういった小さな部分を観察するには、双眼鏡を持っていくと便利ですよ。
日本古来の在来牛の見島牛。ウシの足は2本指。キリンやシカもウシの仲間で2本指です。いろんな動物の足の形を見比べてみよう
上野動物園で会える動物たち
上野動物園の園内では、「アイアイのすむ森」や「アフリカの動物」のように場所や種類により分類して展示しています。とても広いので、1日で全部見ようとせず、1つの部分だけをじっくり見るのがおすすめです。
たとえば「クマたちの丘」では、エゾヒグマ、ツキノワグマ、マレーグマ、ホッキョクグマを比べて見ることができます。同じクマの仲間でも、大きさも毛の色も姿もそれぞれ違うもの。
今いるエゾヒグマは、北海道で保護されたクマです。上野動物園に来たときは子どもだったので、リードをつけて園内を散歩していましたが、今では体重が300kg以上に成長しました。
クマ舎の壁の色が黒くなっているのは、背中をこすり付けてマーキングをしているからです。クマが立ち上がったときの大きさがわかるので、注目して見てください。隣にいるツキノワグマは体重が60kgほど、熱帯のマレーグマはさらに小さなサイズです。ヒグマを見た後にマレーグマを見ると、「これなら俺でも勝てる」と言う若い男性がいますが、人間は猫より大きな肉食獣にはとても敵いませんよ。
マレーグマ ヒグマより一回り小さい
マレーグマの園舎には、同じ地域に住んでいるコツメカワウソとハクビシンが同居しています。それぞれのテリトリーには電気柵を張っているので、クマに食べられる心配はありません。電気柵を使うことは可哀想だという意見がありますが、多くの動物は1度触ってショックを受けると、もうそこには近づかなくなります。哺乳類は基本的に学習能力が高いので、電気柵は効果的です。
また、不忍池では飼育動物と野鳥が同居しています。島の中に巣をつくって繁殖しているカワウソの隣には、飼育しているモモイロペリカンがいます。また、天然記念物のオオワシも池の島で飼育しています。天然記念物ですが、違法に撃たれて飛べなくなってしまったため、保護したものです。池のそばにある施設「不忍ラボ」には、池にどんな鳥がいるかの定期観察や、自然に見られる昆虫などの展示をしています。図鑑も用意していますので、調べ学習や夏休みの研究の参考にもなりますよ。
不忍池のオオワシ
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「エサ」や「ウンチ」は、小さな子どもでも喜びそうなテーマですね。高学年になってきたら、体の特徴や生育地域などを、図鑑や地図と照らし合わせて調べると、より学びを深められそうです。
じつは、動物園は飼育展示ということのほかに大切な役割があります。次回は、井内さんに大切な動物園の役割について教えていただきます。
※本記事は2019年7月19日に公開しました。肩書などは当時のものです。
(※写真クレジット注記:(公財)東京動物園協会提供写真および記事冒頭画像を除く)
■ 上野動物園教育普及係・井内岳志さん インタビュー一覧
第1回:動物園は学びの場! 上野動物園の学芸員が伝授する、親必見の「動物観察準備テク」
第2回:解説のメモなんてしなくていい。「目の前の動物」から最大限学びとるコツ
第3回:「夏休みの自由研究」は動物園で。上野動物園おすすめの“調べ学習”のテーマとポイント
第4回:動物園は子どもの「心」を育てる場所。“楽しみながら動物を知る”ことの大きな価値
【プロフィール】
井内岳志(いうち・たけし)
恩賜上野動物園 教育普及係主任(学芸員)。大学ではサルの生態を研究。恩賜上野動物園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園などの動物園・水族館で30 年以上、 動物園教育に関わる。大哺乳類展などの国立科学博物館との企画展 や、上野動物園で毎年恒例の夜間開園「真夏の夜の動物園」の企画など、さまざまなイベント・企画で動物たちの生態を紹介している。