あたまを使う/五感をつかう/体験学習/非認知能力 2026.2.13

「ごっこ遊びをやめない」のは幼い証拠? いいえ、ナラティブ能力と社会的認知の最強トレーニングです

編集部
「ごっこ遊びをやめない」のは幼い証拠? いいえ、ナラティブ能力と社会的認知の最強トレーニングです

「小学生なのに、まだぬいぐるみに話しかけてる……」

わが子のごっこ遊びが続いていると、「ちょっと幼すぎるんじゃないか」と不安になることはありませんか?

ごっこ遊びのピークは3〜5歳とされていますが、小学校低学年まで続くことは決して珍しくありません。むしろ近年の発達心理学の研究では、ごっこ遊びの「質」が高い子どもほど、物語をつくる力(ナラティブ能力)、他者の気持ちを読む力(心の理論)、そして自分をコントロールする力(実行機能)が高いことが明らかになっています。*1

この記事では、ごっこ遊びが子どもの発達にもたらす効果を認知科学の視点から解説し、年齢別の親の関わり方を紹介します。

ごっこ遊びは「ただの真似」ではない——3つの認知スキルを同時に使う高度な遊び

「おままごと」や「お医者さんごっこ」を見ていると、大人の真似をしているだけに見えるかもしれません。しかし認知科学の視点から見ると、ごっこ遊びは子どもの脳に驚くほど高い負荷をかけている “知的トレーニング” です。

ごっこ遊びの最中、子どもは次の3つのスキルを同時に使っています。

1つめは「象徴的思考」です。積み木を「ケーキ」に、葉っぱを「お皿」に見立てる。これは「Aは同時にBでもある」と二重に表象する力であり、のちに文字や数字といった抽象的な記号を扱う力の土台になります。

2つめは「心の理論(Theory of Mind)」です。お母さん役の子が赤ちゃん役の子に「お腹すいたの?」と聞く。この何気ないやりとりの裏で、子どもは「相手はいま何を感じているか」を推測しています。他者の信念や感情を想像する力は、人間関係を築くうえで欠かせない能力です。

3つめは「実行機能」です。「自分はお母さん役」というルールを頭のなかで維持しながら、友だちの反応に合わせてストーリーを即興で展開する。ここではワーキングメモリ(情報を一時的に保持する力)、抑制制御(自分の役からはみ出さないようにする力)、認知的柔軟性(予想外の展開に対応する力)がフル稼働しています。*2

つまりごっこ遊びとは、子どもが「楽しい!」と夢中になりながら、将来の学力や社会性の土台となる認知能力を鍛えることができる遊びなのです。

子ども2人が室内の木製キッチンでおままごとをしている。

4〜5歳のごっこ遊びの”質”が、小学校の「物語をつくる力」を予測する

ごっこ遊びの効果を示す研究のなかでも、特に注目したいのがオーストラリア・ディーキン大学のStagnitti & Lewis(2015)による縦断研究です。この研究では、4 〜 5歳の子ども48名を対象に、ごっこ遊びの「精巧さ」(ストーリーの複雑さや展開の豊かさ)と「象徴使用」(ものを別のものに見立てる力)を評価しました。*1

そして3 〜 5年後、小学校に上がった同じ子どもたちの「意味的組織化能力」(ことばをカテゴリーに分類したり、比較・推論したりする力)「物語の再話能力」(聞いた話を筋道立てて語り直す力)を測定したところ、結果は明確でした。

小学校での「語りの力」の個人差のうち、約5分の1がごっこ遊びの質で説明できたのです。ここでいう「ナラティブ能力」とは、ただおしゃべりが上手ということではありません。「はじまり → 展開 → 結末」という構造をもった物語を頭のなかで組み立て、それを言葉にする力です。

作文力、読解力、さらにはプレゼンテーション力の土台ともいえるこの能力が、幼児期のごっこ遊びのなかですでに育ち始めているのです。 もしお子さんのごっこ遊びのストーリーが日に日に複雑になっていると感じたら、それは「物語をつくる力」が着実に伸びているサインです。

「ナラティブ」とは、日本語で「語り・物語」のこと。出来事をただ羅列するのではなく、筋道を立てて人に伝える力を指します。

ごっこ遊びが「心の理論」を育てる——他者の気持ちがわかる子になる仕組み

「心の理論」とは、「相手は自分とは違うことを考えたり感じたりしているかもしれない」と理解する力のことです。4 〜 5歳頃に急速に発達し、友だち関係やコミュニケーション能力の基本になります。そして、心の理論とごっこ遊びには深いつながりがあります。

お医者さんごっこで「患者さん、どこが痛いですか?」と尋ねるとき、子どもは「自分」ではなく「お医者さん」として、さらに「患者さん」の気持ちを想像しながら行動しています。つまり、日常生活では使わないレベルの「視点の切り替え」を、遊びのなかで自然に練習しているのです。

Jenkins & Astington(2000)の研究では、心の理論がより発達している子どもほど、ごっこ遊びでの役割分担や共同プランニングが高度であることが示されました。さらに、ごっこ遊びへの参加そのものが心の理論の発達を促進するという知見もあり、両者は互いに高め合う関係にあるとされています。*3

お子さんがごっこ遊びのなかで「○○ちゃんはきっとこう思ってるよ」と言い出したら、それは心の理論が順調に育っている証拠です。「よくわかったね」とその気づきを認めてあげてください。

親が子どもの両手を持ち、住宅街の道路で子どもを持ち上げながら歩いている。

「もう卒業しなきゃ」は逆効果。年齢別・ごっこ遊びへの親の関わり方

では、親はごっこ遊びとどう関わればいいのでしょうか。大切なのは、「そろそろ卒業」ではなく「どう広がるか楽しみ」という発想です。

年長(5〜6歳)| ごっこ遊びの”ハイシーズン”

この時期はストーリーが複雑になり、友だちとの役割交渉が活発化します。親がごっこ遊びに誘われたときは、ぜひ「役」に入ってみてください。そして大人ならではの展開を足してみましょう。「お姫様、隣の国から手紙が届きましたよ!」など、こうした “予想外の展開” は、子どもの物語構成力と柔軟な思考力を刺激します。

この時期に避けたいのは、「もうお兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから、そろそろやめなさい」と卒業を促すことです。ごっこ遊びを恥ずかしいことだと感じさせてしまうと、せっかくの学びの機会を奪うことになりかねません。

小1〜小2(6〜8歳)| ごっこ遊びは”内面化”する

小学校に入るとごっこ遊びの頻度は自然に減りますが、完全に消えるわけではありません。この時期のごっこ遊びは、声に出す形から頭のなかで物語をつくる「内的なごっこ遊び」へと移行していきます。ひとりで空想にふけっている時間も、じつはナラティブ能力を鍛えている時間です。

親にできるのは、「まだそんなことやってるの?」と言わないこと。代わりに「どんなお話だったの?」と聞いてみてください。頭のなかの物語を言葉にする行為そのものが、ナラティブ能力を一段階引き上げます。さらに発展的な関わりとして、一緒にオリジナルの物語を書いたり、手づくりの絵本をつくったりするのもおすすめです。ごっこ遊びの延長線上にある「創作活動」への橋渡しになります。

ごっこ遊びは、子どもが自分で選んだ”最高の学び”

ごっこ遊びは、ナラティブ能力、心の理論、実行機能という「目に見えにくい力」を同時に鍛える、子ども自身が生み出した最強のトレーニングです。 親にできることは、この遊びを止めないこと。そして時々、その世界に一緒に入ることでしょう。
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ぬいぐるみに話しかけているわが子を見たら、心のなかで拍手を送ってください。子どもはいま、物語をつくる天才になる練習をしているのです。

FAQ(よくある質問)

Q1. ごっこ遊びは何歳まで続くのが普通ですか?

A. ピークは3〜5歳ですが、小学校低学年まで続くのは珍しくありません。Child Mind Instituteの解説によれば、ごっこ遊びは就学後も形を変えて続きます。年齢とともに声に出すごっこ遊びから、頭のなかでストーリーをつくる「内的なごっこ遊び」に移行していくのが一般的です。無理にやめさせる必要はありません。

Q2. ひとりでごっこ遊びをしているのですが、友だちと遊べないのでしょうか?

A. ひとりごっこ遊びと社会性の欠如は別の問題です。ひとりでごっこ遊びをしている子どもは、頭のなかで複数の登場人物の視点を切り替えながら物語を展開しており、むしろ高度な認知的作業を行っています。ただし、集団場面でも常にひとりで過ごしている、友だちとの関わりを避けるといった様子が続く場合は、他の要因がないか園や学校の先生に相談してみるとよいでしょう。

Q3. ごっこ遊びの内容が心配(戦いごっこ・悪者退治など)です。やめさせるべきですか?

A. ごっこ遊び自体は発達上ごく自然な遊びであり、すぐにやめさせる必要はありません。大切なのは、本当に叩かないといった「現実のルール」をセットで教えること。「ヒーローは友だちを泣かせないよね」と遊びの文脈に乗せて伝えると、子どもは受け入れやすくなります。