教育を考える 2020.3.13

「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき

「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき

子どもの幸せを願わない親はいません。そう考えて、子どもばかりを優先し、夫婦関係をおざなりにしている人はいませんか? 「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「親だからこそ、子どもではなく夫婦、そして自分の幸せを追求してほしい」と語ります。そのことが「子どものためになる」というのですが、はたしてどういう意味なのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

スキンシップをすれば幸福度が上がる

みなさんは、子どもと積極的にスキンシップをしていますか? 感覚的にもわかることかと思いますが、スキンシップが多いほど幸福度が上がるという研究結果があります。これは、神経伝達物質の影響によるものです。人間の脳は、他人とスキンシップすることにより、セロトニンやオキシトシンなど「愛情ホルモン」と呼ばれる神経伝達物質を分泌します。その働きにより、人は安心感を得て幸せを感じられるのです。

ですから、子どもに対してどんどんハグをしてください。もちろん、スキンシップであればいいのですから、握手でもいいし、肩や背中をポンポンとたたいたり、「いい子いい子」と頭をなでてあげたりすることでもいい。とにかく、親子ともども幸せになりたいのなら、スキンシップを欠かさないことです。

そういう意味では、日本人はちょっと不利かもしれません。外国人と比べると、日本人のスキンシップは明らかに少ないからです。わたしの知り合いがとあるラテン系の銀行に就職したところ、「自分の席になかなかたどり着けない」と苦笑いしていました。というのも、席に着くまでのあいだ、清掃員のおばちゃんなど出会う人出会う人から、「今日も会えたね!」と、まるで1年ぶりに会ったかのように激しくスキンシップされるからだそう(笑)。

そのことを思えば、文化的にスキンシップが少ない日本人、とくに子育て中の親であるみなさんは、意識的に子どもとのスキンシップを増やしていく必要がありそうです。たとえ他人とのスキンシップには抵抗がある日本人でも、親子であれば問題ないでしょう。スキンシップをすれば幸せになるように人間はできているのですから、我が子を思う親なら、スキンシップをしない理由はありません。

前野隆司先生インタビュー_親は自分の幸せを追求すべき02

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「子どもは宝物だ」という思考は危険

さて、愛情を持って子どもとスキンシップをすることはもちろん大切ですが、その愛情の中身については注意が必要です。みなさんのなかに、「愛する子どもをきちんと育てることこそがわたしの生きがいだ!」なんて考えている人はいないでしょうか? それは、ちょっと危険な思考です。子どもに依存している可能性があるからです。

わたしの母の世代の女性には、そういう人が多かったように思います。そういう女性は、妻として夫に尽くし、母親として子どもを育てることが任務であり幸せだと考えていました。そして、夫に先立たれて子どもが独立すると、自分の役割がなくなったと感じ、幸せの代わりに虚脱感を感じるようになる。そういう人の予備軍が、いまの親世代の人にも見られるのです。

それこそ、「かわいい子どもには、できれば大きくならないでずっとそばにいてほしい」「将来、子どもが結婚して家を出ると思うといまから憂うつ」「子どもはわたしの宝物だ」なんて考えている人は危険です。

そういう思考を持っている人は、無意識のうちに子どもを自分の「持ちもの」のように思っています。いうまでもなく、子どもは持ちものなどではなく、ひとりの独立した人間です。だからこそ、「いずれ我が家を出て他人になっていく子どもを遠くから応援しよう」という気持ちを持っていなければならないのです。

前野隆司先生インタビュー_親は自分の幸せを追求すべき03

子どものためにも、夫婦が仲良くしておくべき

そう考えると、親が持っておくべきもうひとつの大切な思考があります。それは、夫婦こそが仲良くしておくべきだということです。子どもが独立して家を出ていったとしたら、そのあとに家に残るのは夫婦ですよね? それなのに、夫よりも、妻よりも「子どもが大事!」と子どもにばかり目を向けていれば、子どもが家を出た途端に、親はそれこそ虚脱感に襲われることになってしまいます。

いま、熟年離婚する夫婦も多いですよね。それも、いまお伝えしたような、子どもにばかり目を向けている親が多いことにもよるのではないでしょうか。子どもとスキンシップをしてコミュニケーションを取ることも大切ですが、夫婦のあいだでももっともっとコミュニケーションを取るべきです。

もっといえば、親自身が自分の幸せを追求してほしい。「子どものことを思えば、そんな勝手なことはできない」と考える人もいるかもしれません。でも、それは勝手なことなどではありません。むしろ、親自身が自分の幸せを追求することこそが子どものためになるのです。両親がしっかりコミュニケーションを取って幸せなカップルでいられたら、そんな両親の背中を見て育った子どもは、「自分もお父さんやお母さんみたいな家庭を築こう」と思うはずです。

でも、親が子どもにばかり愛情を注いでしまうと、その子が大人になり子どもを持ったときも、自分の子どもに対して同じような愛し方しかできません。いわば、依存のループを子孫につないでしまうのです。そして、親に依存された子を待っているのは、最終的に虚脱感を味わうことです。

みなさんも、我が子にそんな思いをさせたくはないでしょう。親自身が幸せになることはわがままでも勝手なことでもなく、むしろ子どものため――。そう考えて、子どもに依存しない親子関係を築いてください。

前野隆司先生インタビュー_親は自分の幸せを追求すべき04

「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方
前野隆司 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン(2018)
前野隆司先生著書

■ 慶應義塾大学大学院教授・前野隆司先生 インタビュー記事一覧
第1回:“他人との比較”で得た幸せは長続きしない。「幸福学」で分かった、親子で幸せになる方法
第2回:目的もなく東大に入っても意味はない。本当に輝けるのは、いい意味での「オタク」だ!
第3回:「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき
第4回:子育てでイライラした時どうすれば? 幸福学の権威が教える「幸せ体質な親」の目指し方

【プロフィール】
前野隆司(まえの・たかし)
1962年1月19日生まれ、山口県出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)教授。1984年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、キヤノン株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、幸福学をはじめ、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学、脳科学、心の哲学、倫理学、地域活性化、イノベーション教育学、創造学と幅広い。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、「人間に関わる研究ならなんでもする」というスタンスで、さまざまな研究・教育活動を行っている。『感動のメカニズム 心を動かすWork&Lifeのつくり方』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社)、『古の武術に学ぶ無意識のちから 広大な潜在能力の世界にアクセスする“フロー”への入り口』(ワニブックス)、『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(CCCメディアハウス)、『AIが人類を支配する日』(マキノ出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。