教育を考える 2018.8.13

叱らなくても、子どもの「自主性」はどんどん育っていく――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart1

叱らなくても、子どもの「自主性」はどんどん育っていく――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart1

「どうしたら自主性のある子に育つの?」という悩みは、子育て中における代表的なものでしょう。自ら考え、動ける子になってほしいと思うばかりに、ついガミガミ叱ってしまい反省を繰り返しているお母さん、お父さんもいらっしゃるかもしれません。将来的に、子ども自身が望む人生を歩んでいくために重要な「主体性」を身につけるには、どうすればいいのでしょうか。2018年2月に『世界最高の子育て――「全米最優秀女子高生」を育てた教育法』(ダイヤモンド社)を出版し話題となったボーク重子さんに、子どもの自主性を伸ばすためのアプローチ法を教えてもらいました。

構成/岩川悟 文/大住奈保子(Tokyo Edit) 写真/玉井美世子

これからの社会で必要なのは「自ら考える力」

子育てというのは本当に悩みが尽きないものですよね。わたしは外国人の夫と結婚したのをきっかけに慣れないアメリカの地に行き、不安がいっぱいの状態で娘・スカイの子育てをスタートしました。いまでこそ「全米最優秀女子高生の母」と呼ばれていますが、みなさんと同じように子育てに悩み、ベストな方法を模索してきたというのが正直なところです。

ましてやいまの世界は、答えのない「問い」に溢れています。これからの社会に必要な仕事ってなに? バックグラウンドのちがう人と心を通わせるにはどうしたらいいの? こうした課題には、学校のテストのように試験範囲もなければ、模範解答もありません。ではどうすべきか? 自ら課題や目標を見つけ、それがどうすれば達成できるかを考え、動いていく。そして、達成までの道のりにたびたび立ちはだかる壁を、強く柔軟な心で乗り越えていく。こうした「自主性」「主体性」こそが、これまでのどの時代よりも問われているのだと、わたしは見ています。

日本で生まれ、日本の教育を受けて育ったわたしは、スカイが進学したスクールで行われていた教育にカルチャーショックを受けました。なんと、小学3年生くらいまでは教科書もなく、宿題さえも出されていなかったのです。「詰め込み型」の教育をしている日本では、考えられないことではありませんか? でもそこにいる子どもたちは、先生の指示を待つのではなく自分で考えて生き生きと行動し、問題解決のために友だちとディスカッションしていたのです。アメリカは世界的なイノベーションを起こすようなものすごい企業の創業者などを輩出していますが、その原点を見た気がしました。

最初こそ戸惑ったものの、「スカイもこの子たちのように、自ら考えて動ける力をつけてほしい」。そういう思いがふつふつと湧いてきたのです。子育てにおいて、親の意見を無理やり押しつけることには賛成できませんが、かといってただ放任するだけでもいけませんよね。人生経験の少ない子どもには、親が適切に介入して、課題解決のための道を「自分で発見させる」ことが必要になるのです。

「あなただったらどうする?」で子どもの考える力が育つ

主体性のある子に育てるために、親はどんなアプローチをすべきでしょうか。これまでの試行錯誤のなかで、わたしはある一定のノウハウを見つけ出すことができました。このノウハウは、アメリカに住んでいなくてもどのような学校に通っていようとも実践が可能です。日々の生活のなかでの子どもへの接し方を、少しだけ変えればいいのですから。

主体性の第一歩とは、「考える力」です。その考える力を育てるために大事なのが「あなただったらどうする?」を口癖にすること。ひとりの人間として扱い、接し、子どもの意見を尊重することがなによりも大切です。我が家では、娘が言葉をわかるようになるとすぐに「どっちがいい?」とおやつを選ばせたりしてこの力を鍛えました。

子どもから、「お母さん、このおもちゃどこに片づければいいの?」「この洋服が上手に着ることができないのだけどどうしたらいいの?」などと聞かれることがありますよね。そんなときは、すぐに答えを教えたり手助けしたりするのではなく、「○○ちゃんはどうしたらいいと思う?」と聞き返してあげましょう。ポイントは、「YES」「NO」で答えられない質問をするというところにあります。

とはいっても、子どもはポカーンとしていたり、言葉が出てこなくて黙ったままだったりするかもしれません。でも、それこそがまさに「考える力」が育っている証拠なのです。できる限り子どもが自分自身で考える時間をつくってあげてください。このときしてはいけないのが、答えを与えたり親が望む回答をさせたりするために子どもを誘導すること。そうなると子どもは、「お母さんが望む答えはなんだろう?」というところにフォーカスしてしまい、自由に考えなくなってしまいます。親は徹底して、「意見を持たない大人」になる。これが、子どもの主体性を伸ばすための必須条件です。

料理のお手伝いは「やりとげる力」を育てるのに最適

「どうすればいいのか?」を自分で考えられるようになったら、あとはそれをどんどん実行させるのみです。脳科学の見地から、この「実行力」は3つの要素から構成されていると言われています。

【1】効率よく情報をインプットし、必要なときにそれをピックアップする「作業記憶」
【2】状況に応じて情報を使いわけ、他の方法を探す「認知的柔軟性」
【3】目標達成のために優先順位をつけ、衝動的な行動を抑える「自己制御」

実行力の有無はこうした脳を使い方ができるかどうかにかかっていて、けっして生まれつきのものではありません。要は訓練ですから「うちの子は積極的なタイプではないし……」なんて、引け目を感じる必要はまったくないということを科学が証明しているのです。

この3つの要素を育むためにわたしがしたのが、スカイに料理のお手伝いをさせることでした。考えながら動き、ときには我慢もする。この一連の流れを習得させるためには、料理のお手伝いが身近にあるベストの方法だったからです。大切なことは、教えるのではなく見本を見せること。だから、我が家ではお夕飯をつくるときにわたしがやりながらその手順と理由を説明しました。お夕飯は毎日食べるものですから、この手順と理由が繰り返されます。そのうち子どもは自然と考えを行動に移し、結果を出す作業の流れを覚えていきます。そして、その過程で「今日は疲れているからお夕飯をつくりたくないけど、ママがやらないとみんなお腹すくものね」と言って、我慢するというコンセプトを教えて一緒に乗り越える経験もさせます。

また、娘のお手伝いとして小学校にあがってからは日曜日の朝ごはんを担当してもらいました。「お手伝い」と言っても、おつかいに行ってもらうだけとか、野菜を包丁で切ってもらうだけとかいうことではありません。親が決めるのは、「予算」だけです。メニューを決め予算内で食材を調達し、時間内においしい料理をつくりあげるというところまで、すべてを子どもに任せてしまうのです。娘も、最初は火や包丁が使えなかったので手でちぎったレタスの芯をむしっていちごと一緒に盛り付けたサラダなんていうメニューでしたし、お買い物は夫が付き添いました。それでもそこには、実行力のすべてが詰まっています。もちろん、やり遂げた時の満足感もありますよね。 そうやって回数を重ねて、年齢とともに任せる範囲を広げていってください。

「朝ごはんをつくる」という大きな目標に対して、「つくるのには○時間くらいかかりそうだ」「そうしたら、何時までに買いものに行かなくちゃ」という小さな課題をクリアしていかなければなりません。また、予算も時間も限られているので、目標達成のために工夫したり我慢したりすることも必要です。実行力の3つの要素を、見事に網羅していると思いませんか? 大切なのは、下手だから、できないからといって親がやり直してはいけないということ。これでは、本末転倒です。

実行力を鍛える過程で「どうしたらいいだろう?」と悩んだときに最適な答えを出すには、論理的に考える力である「クリティカルシンキング力」も大事な要素です。この力がなければ、感情に走って正しく判断できなかったり、壁にぶつかった時点で自信を失い、目標達成をあきらめてしまったりしかねません。それでは実行力は発揮されないのです。クリティカルシンキング力を育てるのに有効なのが、ひとつの課題に対して3つの解決法を考え、それぞれについてよい点と悪い点を挙げる「Pros(よい点)&Cons(悪い点)」という方法です。子どもが「どうしたらいい?」と聞いてきたら、「どんな方法があると思う? 他にも方法はある? この方法のどんなところがいい(悪い)と思った?」と聞き返してみましょう。論理的に決めたことなら自信を持って実行することができますし、感情に左右されませんから気持ちがブレることもありません。

大事なのは、ただよい点と悪い点を挙げるだけでなく、両者をしっかりと分析すること。クリティカルシンキング力が育っていないうちは「お父さんがこう言っていたから」「友人の○○ちゃんがしていたから」などという理由を挙げてくるかもしれません。そんなときは、「本当にその方法がベストなのかな?」と投げかけて、もっと深く考えさせてください。その繰り返しこそが、自ら考えて適切な行動をとれる子どもを育てていくはずです。

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考えながら目標を設定し、それに向かって動いてはまた考える。このサイクルは、一般のビジネスでよく使われる「PDCA理論」にも通じるものがあります。今回の内容を参考に、子どもが自分から生き生きと行動を起こすためのサポートをしてあげてください。


世界最強の子育てツール SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法
ボーク重子 著/祥伝社(2018)

■ ボーク重子さん インタビュー一覧
第1回:叱らなくても、子どもの「自主性」はどんどん育っていく
第2回:グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる
第3回:子どもの才能はその子の「パッション」に隠されている
第4回:誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?

【プロフィール】
ボーク重子(ぼーく・しげこ)
ライフコーチ、アートコンサルティング。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。

【ライタープロフィール】
大住 奈保子(おおすみ・なほこ)
編集者・ライター。金融・経済系を中心に、Webサイト・書籍・パンフレットなどのコンテンツ制作を手がける株式会社Tokyo Editの代表を務める。プライベートでは、お菓子づくりと着物散策、猫が好きな30代。
これまでの経歴は、http://www.lancers.jp/magazine/29298から。
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