教育を考える 2018.2.28

坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第1回】~大人にとって“都合のいい子”とは~

坂上忍
坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第1回】~大人にとって“都合のいい子”とは~

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役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。

役者業は2018年で既に48年目目を迎えた坂上さん。その長いキャリアを持っているからこそ実現できる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を全10回に渡って公開します。

子どもらしい子どもにする

皆さんこんにちは、坂上忍です。わたしの本業は3歳でデビューした役者であり、舞台や映画の脚本・演出家です。ただ、人生とはなにが起きるかわからないもので、ここ数年はバラエティ番組でもたくさんお世話になるようになりました。

そんなわたしには、もうひとつの顔が存在します。それは、『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していることです。2009年にこのプロダクションを立ち上げたのですが、自分の目が届く範囲できちんとレッスンができること、そして少数精鋭を目指していることもあって、現在の生徒数は150名。わたしが中心となり、複数の専属講師とともに子どもたちの演技指導にあたっています。

『アヴァンセ』を立ち上げてから約9年、この間にたくさんの子どもたちが成長していてく姿を目の当たりにしてきました。オーディションにどんどん合格してテレビで活躍する子ども、芝居を通して心を開けるようになった子ども、自分の言葉で自分の意志を伝えられるようになった子ども、学校ではできなかった親友を得た子どもなど、こちらの想像以上に成長した姿、さまざまな形の心のつながりを見せてくれています。

子どもたちに囲まれる坂上忍氏
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

そういった光景を眺めていると、「40年以上役者をやってきた甲斐があったかな。こんな俺でも少しは役に立てるのかも」と、ホッとした気持ちになる瞬間があります。

『アヴァンセ』を運営していくにあたって、理念として念頭に置いていることが存在します。

子どもらしい子どもにする――。

この考えこそが、『アヴァンセ』を運営するうえでの重要な指針となっています。では、“子どもらしい子ども”とはなんでしょうか?

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子どもは迷惑をかける生き物

子どもは、社会常識もなければ礼儀も知りません。当然、人生経験だって少ない。でも、それが子どもなんです。子役をやるからといって、わざわざ大人びて見せる必要なんてありません。むしろ、正直に言えばそういう大人を演じるような子どもを見ると、ある種の違和感を覚えます。子役だって子どもなのだから、未完成のままでいいんです。

子どもらしさとは――たとえば、底抜けの明るさ、天真爛漫な振る舞い、愛嬌のある笑顔、元気さ、純粋さ……そういうものがたくさん詰まっていることでしょう。一方で、“子どもは迷惑をかける生き物”である、ということも忘れてはいけません。平気で人を傷つけたり、悪さをしたり、ウソをついたり、言うことを聞かなかったり。そんなふうに大人をイライラさせる存在でもあるんです。でもこれは経験不足、未熟な存在ですから当然のこと。言い換えれば、それは、“子どもだけに許された特権”なのです。

迷惑をかける生き物であり、不完全な生き物でもある。子育てにおいて、これはとても大事な、常に頭に入れておくべき“前提”ではないでしょうか。しかしながら昨今の役者の世界では、この前提が“当たり前”のことではなくなってきてしまっています。いかに周りに迷惑をかけずにいい子でいられるか、大人が扱いやすい子でいられるか。そういう大人の都合を押し付けられ、子どもらしさを失ってしまった子役とよく出会います。

これはもちろん子どもに責任があるのではなく、そのように教えている、あるいはそういう子役ばかりを欲しがる大人に原因があることは言うまでもありません。そういう大人たちが、まず厳しく教えるのが挨拶や礼儀。「おはようございます!」「ありがとうございました!」と大人が喜ぶような挨拶ができる子は非常に多いんです。

この行為が、心からの自然な行為であればなんの違和感も覚えませんが、いかにも「形から入りました」という挨拶が大半を占めているように感じるのです。わたしはそんな挨拶しかできない子役に育てたいとは思いません。もちろんこれは、子役の世界に限った話ではありません。皆さんのご家庭ではいかがですか? お子さんに、大人にとって“都合のいい子”であることを求めていませんか?

坂上忍氏が指導する子ども
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

また、子どもには特有の怖さもあります。ちょっと刺激的な表現を使うならば、“子どもは悪魔になり得る生き物”でもあります。わが身を振り返ってみても、いかに親を騙すか、そんなことばかり考えていた時期があったくらいですから。だからこそ、『アヴァンセ』で学ぶ子どもたちがウソ――というより“完成度の低い言い訳”ですが――をついたりすると、すぐに気づきます。「子どもは天使だ!」と無条件に思い込んでいる大人が多いように感じますが、子どもは決して純粋無垢な天使というだけではない。そういう悪魔的な要素を持った存在でもあるんです。

このように、たくさんの表情を持つ子どもたちを、どのように育てていけばいいのでしょう。この連載では、子役育成で培ったノウハウも含め、わたしが考える“子育て論”について紹介していこうと思います。ただ、勘違いしてほしくないのは、教育にも子育てにも、たったひとつの正解というものはありません。世の中には、「この子育てが正しい!」といった提案もあるようですが、そんなものは存在するはずがないのです。子ども一人ひとり、生まれ持った性格も、育った環境も違いますからね。Aくんに通じたことが、Bくんに通じるとは限らないのです。子育てに勝利や成功の方程式はありません。だからこそ、大人は悩み、迷い、葛藤する。それでいいのだと思います。

ちなみに、わたしには子どもがいません。「父親でもない人間が偉そうに教育論を語るなよ!」という意見もあるでしょう。たしかにその通りかもしれませんが、親ではないからこそ見える部分、そして言えることがあるとも考えています。そんなわたしの考えが、少しでも、子育てのヒントやお子さんとの関係を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。

■坂上忍が総合プロデュースする子役養成所『アヴァンセ』はこちら→

■坂上忍 著『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』はこちら→