教育を考える/非認知能力 2026.4.15

ザッカーバーグも、モンテッソーリ育ち——「自由と秩序」が子どもの脳に起こすこと

編集部
ザッカーバーグも、モンテッソーリ育ち——「自由と秩序」が子どもの脳に起こすこと

フェイスブック(現Meta)をつくったマーク・ザッカーバーグ。彼が幼い頃にモンテッソーリ教育を受けていたと聞いたら、「うちの子にも……」と気になりませんか?
「モンテッソーリって、子どもが自由にのびのびできる教育でしょ?」
そう思っている方、じつはその理解は半分だけ正解なのです。

モンテッソーリ教育のいちばん大切な部分は、「自由」と「秩序(ルール)」をセットで与えること。この組み合わせが、子どもの脳を育てる鍵になっています。この記事では、発達科学の研究をできるだけわかりやすく紹介しながら、ご家庭でもすぐに試せるヒントをお伝えします。

モンテッソーリは「好き放題にやらせる教育」ではない

モンテッソーリ教育というと、「子どもが自分のやりたいことを自由にやる教育」というイメージを持っている方も多いかもしれません。でも、モンテッソーリ教育をつくったマリア・モンテッソーリはこんなことを言っています。

「自分をコントロールする力がまだ育っていない子どもを、好き放題にさせることは、本当の自由とは言えない」

つまり、ただ「何でもやっていいよ」と放任するのではないのです。モンテッソーリの教室をのぞいてみると、びっくりするくらいきれいに整理されています。教具(おもちゃや教材のこと)はすべて決まった場所に置かれていて、使い終わったら必ず元に戻すルールがあります。違う年齢の子どもたちが同じ部屋で過ごしますが、「他の子の活動を邪魔しない」という決まりもあります。

一見すると「自由」どころか、ルールだらけに見えるかもしれません。でも、モンテッソーリが大切にしていたのは、「ルールという土台があるからこそ、子どもは安心して自分で動ける」ということでした。「次に何が起きるかわかっている」という安心感があると、子どもは「次、何しようかな」と自分で考えて動けるようになります。これがモンテッソーリ教育の本質——「秩序のなかの自由」です。

ザッカーバーグが幼い頃に培ったのは、この「ルールのなかで、自分で決めて動く経験」から生まれた脳の力だと考えられています。

モンテッソーリ教育

「自分で決める」が、なぜ子どもの脳を育てるのか

もう少し詳しく見てみましょう。子どもが「今日は何のおしごとをしようかな」と考えて自分で選ぶとき、脳のなかで何が起きているのでしょうか?

発達科学では、こういった「考えて・決めて・行動する」力のことを実行機能と呼んでいます。難しそうな言葉ですが、日常生活に置き換えるととてもシンプルです。

たとえば、「積み木の手順を頭に入れながら組み立てる」のはワーキングメモリの力。「あの玩具で遊びたいけど、いまは別の子が使っているから待とう」と我慢できるのは抑制の力。「うまくいかなかったから別の方法を試してみよう」と切り替えられるのは柔軟性の力です。

この3つが合わさったものが実行機能で、脳の前の部分(前頭前野)が担っています。ここはなんと25歳ごろまでゆっくり育ち続ける部分で、幼児期はその基礎ができる大切な時期です。

モンテッソーリの環境は、この実行機能を毎日少しずつ鍛えてくれます。「何にしようか選ぶ」→ 意思決定の練習。「使ったら元に戻す」→ がまんの練習。「年上の子を見て学ぶ」→ 柔軟性の練習。この積み重ねが、のちのちの学力や人生の充実につながっていくのです。

モンテッソーリ教育のクラス

研究が証明した「モンテッソーリと脳の発達」

「でも、それって本当に研究で証明されているの?」という疑問はもっともです。近年、この問いに答える研究がどんどん積み重なっています。

①3〜6歳で追いかけた研究|モンテッソーリの子は4歳で差がつく

アメリカのバージニア大学の研究チームが、3 〜 6歳の子ども141名を3年間にわたって観察しました。参加した子どもたちは、コンピューターによる抽選でモンテッソーリ幼稚園に入ったグループ(70名)と、そうでないグループ(71名)に分けられました。*1

スタート時点(3歳)の能力は両グループとも同じ。でも、時間が経つほどモンテッソーリグループの子どもたちの「実行機能」スコアが伸び、4歳では差が明らかになりました。学力、友だちへの思いやり、「もっとがんばろう」という意欲でも、モンテッソーリグループのほうが継続的に高い結果を示しました。

さらに注目したいのは、「もともと実行機能が低かった子」でも、モンテッソーリ環境では学力がしっかり伸びていたという点です。特定の子だけでなく、どんな子にも底上げの効果があったことが確認されています。

②32の研究をまとめて分析|「自己コントロール力への効果」が確認された

2023年に発表された研究では、これまでのモンテッソーリに関する32の研究を一つにまとめて分析しました。*2 その結果、モンテッソーリ教育を受けた子どもたちは、学力だけでなく、自己コントロール力、学校での充実感、社会性でも、一般的な教育と比べて良い結果が出ることが示されました。

とくに「自己コントロール力(実行機能)」への効果は「中程度」と評価され、「まぐれや偶然ではなく、くり返し確認されている」という意味で信頼性の高い成果です。

③全米で588名を追跡|幼稚園を出るころには差が出ていた

2025年、世界の科学誌のひとつ『PNAS』に大規模な研究が発表されました。アメリカ全国の公立モンテッソーリ幼稚園24か所で、3歳から抽選で入園した588名の子どもたちを幼稚園修了まで追いかけた研究です。*3

結果、モンテッソーリグループの子どもたちは幼稚園を卒業するころに、読む力・短期記憶・実行機能・相手の気持ちを想像する力のすべてで、モンテッソーリ以外のグループを上回っていました。しかも、公立のモンテッソーリプログラムは一般的な保育より費用がかからないことも判明し、「効果が高くてコストも低い」という結果が注目されました。

大切なのは「自由」と「秩序」のセット

モンテッソーリ教育がザッカーバーグを「育てた」理由、少しイメージできましたか?
「自由にのびのびやらせること」だけが育ちにつながるわけではありません。ルールや秩序という安心できる枠組みがあるからこそ、子どもは「自分で決めて動く経験」を安全に積み重ねられる。その積み重ねが、「考える力」「粘り強さ」「柔軟さ」の土台をつくってくれます。
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モンテッソーリ幼稚園への入園が難しい場合でも、「2択で選ぶ」「定位置を一緒に決める」「5秒だけ待つ」——この3つをご家庭で意識するだけで、同じ原理を日常に取り入れることができます。小さなことの積み重ねが、子どもの大きな力になっていきます。ぜひ実践してみてください!

よくある質問(FAQ)

Q. 何歳から始めると効果的ですか?

研究で効果が確認されているのは主に3 〜 6歳の時期ですが、早すぎる・遅すぎるということはありません。脳は25歳ごろまで成長し続けるので、小学生になってからでも「自分で決める経験」を積むことは十分意味があります。今のお子さんの年齢からできることを、焦らずひとつずつ試してみてください。

Q. 子どもに選ばせると「どっちでもいい」と言うことがあります。どうすればいいですか?

「どっちでもいい」は、選ぶことに慣れていない最初の段階によく見られる反応です。最初は「バナナとリンゴ、どっちが好きな色してる?」など、選びやすいヒントを添えてみてください。選んだことを「自分で決めたんだね、いいね」と認める声がけをくり返すうちに、「選ぶこと」への自信がついてきます。焦らず続けることが大切です。

Q. 「秩序を大切にする」というのは、厳しくしつけることと同じですか?

少し違います。モンテッソーリで言う「秩序」は、子どもを縛るためのルールではなく、「次に何が来るかがわかる安心感」のことです。たとえば「おもちゃはここに戻す」「ごはんの前には手を洗う」という毎日の流れが「秩序」です。叱って従わせるのではなく、親子で一緒に決めて、できたときに「やったね」と喜び合う——そんなやわらかな秩序感が、子どもの安心と自信を育てます。

(参考)
*1| Frontiers in Psychology|Montessori Preschool Elevates and Equalizes Child Outcomes: A Longitudinal Study(Lillard et al., 2017)
*2| Campbell Systematic Reviews|Montessori education’s impact on academic and nonacademic outcomes: A systematic review(Randolph et al., 2023)
*3| Proceedings of the National Academy of Sciences|A national randomized controlled trial of the impact of public Montessori preschool at the end of kindergarten(Lillard et al., 2025)