教育を考える/非認知能力 2026.5.1

「YouTuberになりたい」を全否定しないで! 子どもの夢に隠れた「才能の種」の見つけ方

「YouTuberになりたい」を全否定しないで! 子どもの夢に隠れた「才能の種」の見つけ方

「ねぇ、ぼく大きくなったらYouTuberになる!」

夕食の席で、お子さんからそう告げられたとき、思わず言葉に詰まってしまった経験はないでしょうか。「YouTuberなんて、そんな仕事じゃ食べていけないよ」「もっと地に足のついた将来を考えなさい」。口から出かかったそんな言葉を、いったん飲み込んでみてください。

子どもの夢は、じつは大人が思っているほど浅い思いつきではありません。発達心理学の研究では、子ども時代に語られる将来の夢は、その子の興味や価値観の出発点として、のちの人生にゆるやかに影響していくことがわかっています。

今回は、「YouTuberになりたい」と言われたときに、頭ごなしに否定しないほうがいい理由と、その夢の奥に眠っている「内発的動機づけの種」を見つける親の関わり方をご紹介します。

子ども時代の夢は、想像以上に未来とつながっている

「どうせすぐに変わるよ」「子どもの言うことだから」。子どもの将来の夢を、私たち大人はつい軽く扱いがちです。でも、発達心理学の世界では、子どもの職業アスピレーション(将来なりたい職業)は、無視できないシグナルとして研究されてきました。

心理学者のトライス氏とマクレラン氏は、縦断研究のデータをもとに、子ども時代に表明された職業希望が、おとなになってからの実際の職業選択と関連していることを報告しています。*1 すべての子どもが小さい頃の夢どおりの職業に就くわけではありませんが、興味の方向性や価値観のレベルでは、確かなつながりが見られたのです。

つまり、「YouTuberになりたい」というひとことは、その子のなかに芽生えた何らかの興味とつながっており、たとえば表現すること、注目を集めること、人を楽しませること、ものをつくることなどの、ごく初期のあらわれであることが多いのです。職業名そのものではなく、その奥にある「動機の種」に目を向けることが、親の最初のミッションになります。

ベッドにうつ伏せになりスマートフォンを操作する小さな男の子。画面に集中している様子

「YouTuber」のひとことには、いろんな気持ちが詰まっている

ひとくちに「YouTuberになりたい」と言っても、その中身は子どもによってまったく違います。

ある子は、ゲーム実況をする人に憧れていて、好きなゲームについて語る楽しさに惹かれているのかもしれません。別の子は、お笑いコンビの動画を見ながら、人を笑わせることに夢中になっているのかもしれない。手芸やお料理を紹介するクリエイターを真似て、自分の作品を誰かに見てほしいという思いが芽生えている子もいるでしょう。

ですから、「YouTuberになりたい」と言われたら、まず聞きたいのはこういうことです。

「どんなYouTuberが好きなの?」
「その人のどこがかっこよく見える?」
「もし動画を出すとしたら、どんなことを撮りたい?」

この問いかけに対する答えのなかに、その子の本当の興味が隠れています。たとえば「お笑いの人みたいに、みんなを笑わせたい」と返ってきたなら、その子の関心はパフォーマンスや言葉遊び、人間関係への好奇心にあるのかもしれません。「ゲームの実況をしたい」なら、ゲームそのものへの探究心、語る力、戦略を考える楽しさが入り混じっています。

職業名のラベルは大ざっぱでも、その下にある興味は、とても具体的で、その子だけのものです。

青空の下、草原の坂を元気に走っていく2人の子どもの後ろ姿

親の反応が、子どもの「やる気の根っこ」を育てる

子どもの夢に対する親のリアクションは、その夢の内容以上に大切です。なぜなら、それが子どもの「内発的動機づけ」のあり方そのものを左右するからです。

心理学者のライアン氏とデシ氏が体系化した自己決定理論では、人が自発的に物事に取り組むためには、3つの基本的な心理的ニーズが満たされる必要があるとされています 。*2

ひとつは「自律性」、つまり自分で選んでいるという感覚。もうひとつは「有能感」、これは自分にはできるという手応え。そして「関係性」、大切な人とつながっているという安心感です。こうした条件が満たされたとき、子どもの好奇心や挑戦する力は、外からの報酬がなくても自然と伸びていきます。

逆に、子どもが勇気を出して語った夢を「そんなものは仕事じゃない」と否定すると、子どもの「自律性」への打撃になり、「あなたには無理」と暗に伝わるのは「有能感」を傷つけ、わかってもらえなかったという感覚は「関係性」を遠ざけます。

もちろん、親としては心配ゆえの言葉です。けれども、「将来のリスクを伝えたい」という大人の善意が、子どものやる気の根っこを枯らしてしまうことがある。そのことだけは、頭の片隅に置いておきたいところです。

夢は変わっていく。でも、種は残る

「では、本気で『YouTuberになりたい』と言われたら、応援するしかないのでしょうか?」と心配になる方もいるかもしれません。安心してください。子ども時代の夢は、ほとんどの場合、時間とともに姿を変えていきます。

イギリスで実施された縦断研究では、7 〜 9歳のときに語っていた将来の夢を、その2年後に約60%の子どもが変えていたことが報告されています。*3 お医者さんになりたいと言っていた子がサッカー選手に、宇宙飛行士に憧れていた子がデザイナーに。夢は流動的で、これは健全なことなのです。

ただ、興味深いのは、表面的な職業名は変わっても、その奥にある「興味の方向性」は意外と一貫していることです。たとえば、最初は「YouTuberになりたい」と言っていた子が、数年後には「映像をつくる仕事がしたい」「人前で話す仕事がいいな」「自分のチャンネルでハンドメイドを発信したい」と語るようになる。根っこにある「表現したい」「届けたい」という気持ちは、形を変えながら残っていくのです。

だから、いま目の前にある夢の言葉にこだわりすぎず、その奥にある気持ちを一緒に育てていく。これが、子どもの未来につながる親の大切な役割になります。

今日から試したい3つの応え方

それでは、お子さんから「YouTuberになりたい」と言われたとき、具体的にどう応えればいいでしょうか。すぐに使える3つの応答パターンをご紹介します。

1. 興味を聞き出す

最初のひとことは、評価でも助言でもなく、好奇心であってほしいのです。「なんでYouTuberになりたいの?」「誰のどんな動画が好き?」と尋ねてみてください。子どもが自分の興味を言葉にしてみる経験そのものが、自己理解の練習になります。

2. 興味の「中身」をいっしょに翻訳する

子どもの答えを聞いたら、それを少しだけ広げて返してあげましょう。「人を笑わせるのが好きなんだね」「ゲームの作戦を考えて話すのが楽しいんだね」「自分でつくったものを見てもらいたいんだね」。職業名の下にある興味を言葉にしてあげることで、子どもは「自分が何を好きなのか」を少しずつ理解していきます。

3. 興味を伸ばす一歩を、家庭でつくる

最後に、その興味を育てる小さな経験を家庭で用意してあげましょう。お笑いに惹かれるならコント番組を一緒に見て構成を語り合う、ものづくりが好きなら工作キットを買ってみる、語る力を伸ばしたいなら家族会議の司会を任せてみる。小さな成功体験の積み重ねが、「自分にはできる」という有能感を育てていきます。

「そんな余裕、毎日はないよ」というあなたへ

ここまで読んで、「理屈はわかったけれど、毎日そんなふうに丁寧に向き合う気力なんてない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。仕事から帰って夕食の支度、宿題を見て、お風呂に入れて、寝かしつけ。

そのあいだに「ねぇ聞いて、ぼくYouTuberになる!」と話しかけられても、笑顔で深掘りする余裕はもう残っていない、というのは多くの保護者の方の正直な実感ではないでしょうか。

ご安心ください。今回ご紹介した関わり方は、すべてを毎回完璧に実践する必要はまったくありません。優先順位はこう考えてみてください。最低限まもりたいのは、「否定しない」ことだけです。完璧な親になろうとしすぎると、保護者の方ご自身の余裕が削られていきます。それは結局、家庭全体の空気を揺らすことにもつながります。
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子どもの夢を育てるのは、毎晩の長い対話ではありません。「あなたの夢を、わたしは応援してるよ」という空気が家のなかにあること。それだけで、子どもは安心して自分の興味を伸ばしていけるのです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「YouTuberはほとんど稼げない」という現実を、子どもに伝えるべきでしょうか?

A. 小学校低学年のうちは、まだ現実の厳しさを伝える時期ではありません。低学年期の夢は、職業の社会的・経済的な側面ではなく、純粋な「あこがれ」として語られているからです。中・高学年になり、子ども自身が「どうやったらなれるのか」を尋ねてくるようになったら、そのときに収益の仕組みや視聴者数の現実を、データとして冷静に共有してあげれば十分です。

Q2. 動画ばかり見ている時間が長くて心配です。「YouTuberになりたい」と言うのも、ただ動画依存になっているだけでは?

A. 視聴時間と職業アスピレーションは、分けて考えるのがおすすめです。視聴時間については家庭でルールを話し合って整える一方、「なりたい」という気持ちはそのまま受け止めてあげてください。両者を混ぜて「動画を見すぎだから、そんなことを言うようになった」と片づけてしまうと、子どもの興味そのものを否定することになりかねません。視聴は減らしつつ、夢は育てる。この二段構えが現実的な対応です。